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東方捨鴻天  作者: 伝説のハロー
序章
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序章・第零羽「小さな烏」

年が明け、天命を全うしたPC。後継の来訪に至り、自身も新しくなって帰って来た“伝説のハロー”の小説です。

友人が発案提供、それを基に作成したものです。友人に感謝感激雨霰からの歓喜の嵐。

今までにないくらい頑張りました。楽しんで頂ければ幸いです。

シリアス好きな作者故、ほのぼのとした空気は少ない……いや、心温まる空気は殺伐とした中では必須だろうか。


では、本編へ。どうぞ!


―――暖光が満ちている。

見上げれば、左の端から右の端まで一面に広がる水色の天井。その一面に際立ち、誰にも邪魔を受け付けないと思わせる存在、不変の光を届けるお天道様。いつもそれらを邪魔する、漂う白い奴等は一切いない。

故、一色の澄んだ青空で、煌々とした太陽を映えさせる。

そこに吹きこまる暖かく心地良い風が、ふわりと地上へ舞い降りる。大地に根を張る命を撫で、御蔭で豊かな様子を植え付けた。


そんな晴れ晴れとした光の下で、幼子の二人は出会った。


おしゃべりする二人は、庭に足を向ける形で長い廊下に隣合せにして腰掛けている。初対面の幼子がするだろうその会話をしている真っ最中だった。

場所は、どこかの住まいだろう、木材をふんだんに使った和式のとても立派な屋敷だ。


「え……俺が?」


その小さな声の発言者は、二人の内の片割れ。年端もいかぬ幼い少年だった。

黒い髪に灰色の瞳という容姿の男児。麻で出来た簡素な衣袴を身に纏う彼は、疑問の様子で隣を見やった。


「うん。私と“友達”になってくれる?」


少年の隣には同じくらいの幼い女児がいて、そわそわと不安げに上目遣いで問い掛けて来る。

幼子でありながら美麗と形容される容姿を持ち、質素だが白い絹の衣装を纏う彼女は、艶やかな黒い髪を揺らしながら期待を込めて見つめている。


「え、えっと……」

「私じゃ、いや?」

「ぁ、……いやじゃないよ! でも、俺なんかでいいの……?」

「うん! 私は君と“友達”になりたいの」


決して嫌ではない。嫌ではないが、彼には戸惑いがあった。



それは、少年に訪れた予想外の出会いから始まった。

その気になれば、二人は既に出会っていただろう。積み重なった須臾のように、過ぎ去っていく日々の中で。

しかし、少女の方に問題があった。

その理由は極めて単純―――少女自身だった。


少年は、自分と同い年の少女をまじまじと見やり、少女の容姿を感取する。


(本当にきれいな子だなぁ……)


湧水が反射させる日光のように、白く映える幼い故の柔肌。腕を拡げれば中にすっぽりと埋まってしまいそうな、すらりとした華奢な身体。限界まで潤いに潤った果実のような桃色に染まった唇を備え、将来の彼女が別嬪様になる事が約束されているとはっきり言える整った顔立ち。

これ程までに麗しい娘子と友になれると思えば、誰もが勢いよく了承する事だろう。

しかしながら、彼女の親―――特に父親はそこを良く思わず、他者への接触をあまり持たせようとはしなかった。

つまりは親によって、相互の接触が断たれていたのが原因であろう。理由は誰にも教えられていない。当然、他の家の子供が知る由などある筈もない。

過保護だな、と周囲からの声も上がっている。


ところが、その父親は何を思ったのか、そんな懐の我が子を連れて少年の家を訪ねて来た。


だが、遊びに来たのではない事は雰囲気で十分に解った。

少年にとって、本来ならば同じ枠組みの者同士、親しくなれる間柄になれても、箱入り娘な彼女だけは難しいと感じていたが、どういう訳かその機会が生まれた。

よもや、こんな形で出会い、友になれるとは思わなかっただろう。これは少年にとって好機だと言える出会いなのだった。


しかし、しかしだ。


(俺が友達で、本当にいいのかな……)


真っ先に湧いたのは、自分には不釣り合いではないかという甚だしさ。

少女の置かれている特異さを理解している少年は言葉を吐く事すら出来ず、躊躇してしまう。

少女は優れた血族故に、親と同等の才能を有していると聞く。対する少年には、子供だからなのかもしれないが、千里眼の持ち主でも隠れた才能を垣間見る事が出来なかった。

そうであっても、嬉しい故に仲良くなりたい気持ちがあって、本当は駄目なのだろうけどもそれを受け入れてしまっている烏滸がましさがある。背中をちくちくと引っ掻かれているような感じがして、とてもじれったい。

仲良くなりたくても、自分と彼女の差がそれを許さない。が、許さなくても仲良くなりたい。

どうすればいいのか、と必死に知恵を働かせる少年だが、どうも妙案が浮かんで来ない。

そんな少年の躊躇いを見てしまった少女には、当然ながら暗い影が落ちる。


「……だめなの?」

「あ……」


そんな少年の戸惑いに、悲しげに俯く少女。折角の綺麗な顔が、要らぬ影で塗り潰される。


止めろ、汚すな、遮るな、どっかいけ。


憤りが腹の底で募る。

少年はどうにか出来ないかと必死で考えるが、そんな難しい事は彼の管轄外。先程と同じように妙案などありはしないのだ。


故に、彼が取る行動は一つだけだった。


「―――うん、いいよ! 俺と君は、今から“友達”だ!」

「ぇ……ほんとっ? 本当に……嘘じゃないよねっ?」

少女の悲しい顔を見たくなかった彼は、すぐさま了承する。対して少女は数瞬呆けるが、必死な形相で問い詰める。

少年は彼女の為に、友達になる事を選んだ。そう、彼女の為に。


「もちろん! 俺が君の初めての友達さ!」

「うれしい……。ありがとう!」


そして、幻視した。


「ぁ…………」


―――小さな太陽を。


地上の御天道様は小さいながらも目を細める程に眩しく、暖かく美しい日差しは誰にも侵されぬ童の陽光を宿している。

あどけない無垢な瞬きに、思わず見蕩れた少年は思わず息を呑む。他の男共が見たら嫉妬に駆られるだろう。


なんだろうこれは、なんなんだこれは。


頭が目の前の娘の事しか考えられなくなり、心臓が忙しなく鼓動する。ずっと魅入ってしまう程の未発達な魅力が濃縮された―――さながら、大和撫子。

彼の視線は確実に強奪され、熱があちこちで膨らんでいく。


「ずっと友達でいようね、こうか君」

「―――はっ! ぇっ、と……う、うん。ずっと、みつみちゃんの友達でいるよ」


嬉しさのあまりきらきらとした屈託のない笑みを向ける少女に対し、少年は夢から覚めたようにどきまぎしながらも力強く頷いて見せる。誤魔化しの苦笑を隠し切れない少年は、少女に釘付けになっているのだった。


こうして幼い二人は、優しく見守る日差しの下で約束を交わした。

小さく細い指を絡め、重ね合わせた小さな手と―――背に生えた、二対の影の如き黒い羽根を掲げて。



二人は人間ではなかった。それは―――。


その証拠は、背から生える真っ黒な羽根。


そんなの普通に考えれば、“妖怪”と呼ばれる人外でしかないだろう。

妖怪の殆どは異形揃いであるが、しかし、この少年少女は違う。妖怪には変わりないが、知能が並みの動物よりも高い、或いは非常に強い力を秘めている。また、純粋な妖獣よりも高い潜在能力がある事を示しているのだ。

彼等のような、まるで烏が持つ漆黒の羽根を生やした人外など、当て嵌まる例は限られる。


それは―――妖怪。其は闇の化粧。


人間の空想が生んだものと形容されるが、この世では実在している。人間然り、妖怪然り、神様然り―――多種の生命達が古の時から今も尚、各々の生き様を謳歌し続け、幻想に満ち溢れた世界で息をする。那由多の果て、曼荼羅と呼ばれる世界―――天地開闢の時から長きに渡って今も尚続く光景だ。


二人がいるそこは世界の一部、とある島国の北東に存在する大森林の中に築かれた集落。

地上を象徴する緑は海のように拡がって、山々を中心とした生命溢れる自然が陣取る。でん、と構える住処を護るように構築されていた。


住まうのは“天狗”という妖怪。


天狗とやらは、妖獣あるいは奇怪なものが妖怪化し、主に風にまつわる超常へと姿を変えたものである。彼等もその例の通りに、黒き鳥類―――即ち、烏から変じた妖怪である“烏天狗”と呼称される狡賢い連中だった。

しかし、その程度。故に、彼等は集団行動を取るのだ。


―――だが時に、ある者は場違い故に切り離される事もある。


弱い者が一人または極めて少数の者が際立って厳存したり、異端的な問題を抱えていたりする場合に起きてしまう事。

それは鴻鵠の中に紛れる雀の如く、例外が存在したりするのだ。


だからこそ、無情に引き起こされる悲劇がある。


(あくた)程度でちっぽけな烏だが、それでも輝いている。唯一異彩な彼はそこに紛れ、心を許した太陽と共に瞬いている。


―――いずれ来たるだろう、別離の時を知らぬまま。


世界は、ちっぽけな個人の視野で見渡す事など不可能だ。

何故なら、他でもない全能の神―――天主がそう定めたから。

この世に起こる事は全て是である。否と告げる事は出来るが、そこに存在する事は天主が許した事なのだ。

だからだろうか―――


私は創造主に成りたくはない。自分が作った悲劇を見るに堪えないから―――。


とある神格はそう言った。



如何でしたでしょうか。以前より良くなったと思いますが、読みやすさなどの解釈は人それぞれですからね。

これからも頑張っていきたいです。

因みに、連続投稿です。


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