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公園

『ねぇ、懐かしい動画があったよほら』


その声に台所で洗い物をしていた手を休め宮田和希はパソコンの動画に目を向ける

そこに流れていたのは昔のTVCMで山下達郎のクリスマス・イブと共に

クリスマス時期によく流れていたJR東海のCM集だった。



『本当だ、懐かしいわね・・・・』

そういいながら和希はふと昔の事を思い出していた





あれは今から5年前2000年のクリスマスイブの出来事だ。

当時21歳の和希には付き合って3年になる彼氏が居た。

彼氏とは同じ職場で知り合い意気投合して知り合って3週間で付き合いだした。


しかし付き合い始めてから1年後に彼氏に人事異動の辞令が出て大阪の支社に行く事になった為

それから2年間はずっと大阪と東京の遠距離恋愛を続けていた。



遠距離恋愛と言っても会えるのはいつも彼氏の都合に合わせてだった。

東京の本社に用事がある時や関東の支社に出張で来る事になった時に逢える程度なので年に2,3回逢える程度だった。



しかし今年はダメもとでクリスマスに逢いたいと言ったら25日に有給を取って24日は仕事を早めに切り上げて逢いに来てくれると言う事になったので

和希はイブに向けて張り切って準備をしていた。


クリスマスイブの日、朝から気合を入れてケーキ作りに励んでいると携帯がなった。


『はいはーい、和希でーす』

『あっ・・俺だけど・・・』



『芳弘君!今ねぇ一緒に食べようと思ってケーキ作ってたの~、ねぇ何時頃にこっち着く?』

『ごめん。そっち行けなくなった・・・・』

その一言にもっていたボールを思わず落とす



ガシャーン、床一面に生クリームが広がる


『どうした?何?今の音?』

電話口から芳弘が心配そうに聞いてくるが和希の耳には入ってこない



『なんで?どうして?約束したじゃん!』

少し涙ぐんだ声で和希が問いただす



『本当にごめん、実は今朝お得意様の取引先でちょっとトラブルがあってさぁ・・・・その処理と対応で残業しないといけないんだよ・・・本当にすまないと思ってる、この埋め合わせは必ずするから、な、それじゃ』



『あっ・・ちょっと・・もしもし?もしもし?』

一方的に謝罪され一方的に切られてしまった、和希も同じ職場に勤めていたので営業職の大変さは理解出来る事は出来るが、頭の中でわかってはいても心の方がついていかない。

やり場のない怒りと悲しみにただ呆然と立ち尽くすだけの和希



そんな時着けていたTVから流れだしたCMに目が止まった


それはクリスマスシーズンになると毎年必ず流れていたシンデレラエクスプレスのCMだった。



<あなたが逢いたい人もきっとあなたに逢いたい>



TVから流れてきたそのキャッチフレーズを見て和希は思った。



(そうだ、たまには私から行動しないと!)


そのCMを見たからなのかは分からないが普段はあまり行動派ではない和希が珍しく自分から動き出した。


(いまからケーキを作って準備をして新幹線に乗れば19時頃には大阪に着けるはず・・・驚かしてやろう)


床に散らばった生クリームを片付けてすぐに準備に取り掛かる

予定していた時間よりも少し早く大阪に着いた和希はまだ会社に芳弘がいるか確認する為に会社の電話番号のダイヤルを押した。


(驚かせたいから電話に出たらすぐに切ろう)そう思いながら呼び出し音に耳を傾ける

5回ほど呼び出し音がなった所で誰かが受話器を取った。

(あっ出た)


『お電話ありがとうございます、猿山商事営業の水谷でございます』


『あの・・営業の紺野さんのはいらっしゃいますか?』


すると男性は

『はい、紺野に用事でございますか?申し訳ございません、本日紺野はもう退社してしまっていないのですが、私で宜しければご用件をお伺いさせていただきますが?』


(帰った・・・・今日は残業のはずじゃ?ひょっとして予定より早く終わったのかな?)


和希に少しの不安と少しの期待が沸き起こる。


『たいした用件ではないので結構です』

そう言って電話を切ると大通りに出てタクシーを止める

タクシーに乗り込み行き先である彼のマンションのある場所を伝える。


車内では不安に押しつぶされそうな心をケーキを見つめながら何とか耐えている和希、しばらくして彼のマンションに着いた。


オートロックの為入り口で彼の部屋の番号を押してインターフォンを押す

何度か押してみても反応はない。


外に出てマンションの裏側に廻ってみる、ベランダ越に見える彼の部屋に明かりは無い。


(どこかに行ってるのかな?・・・それとも早く終わったから私の所に行ったのかも・・・・)


すぐに彼の携帯に電話をしてみる、しかし聞こえてくるのは彼の声の留守番電話の案内。


何度掛けても繋がらない、小さかった不安が段々と大きくなる

マンションの入り口でそんな不安に耐えながら1時間ほど待っていると一台のタクシーが止まった


中から降りてきたのは芳弘だった、その姿を見た瞬間思わず走り出そうとしたがすぐに足を止めた。


なぜなら芳弘に続いて女性が一人降りてきたのを見てしまったからだ。


タクシーから降りると二人は肩を寄せ合いマンションの入り口へと歩いてくる。


しばらくして芳弘が入り口に立っている女性に気がつく


『ん?・・・・かっ・・・和希か?・・・』


和希は涙をグッと堪えて芳弘を睨んでいた。


二人の雰囲気に何かを察した女性が芳弘に話しかける

『どうしたのぉ?知り合いの子?あぁ~分かった~あの2番目の子でしょぉぉ~』


連れの女性は既にかなりアルコールで酔っ払っている様だった。


すると女性は和希に近寄り話しかけた。


『ごめんねぇ~No2さん、今日は彼のNo1である私が彼と過ごすからぁ~、あなたの出番は無いわよぉ~』


そう言って笑いながら酒臭い息を吐きかける。


その言葉に頭にきた和希は女性に平手打ちを食らわすと芳弘の前まで歩いていき


『何で何にも言い訳しないのよ!ただ黙ってるだけなんて卑怯よ!何処まで馬鹿にすれば気が済むの!』


泣きそうになるのを堪え怒鳴り散らした。


それでも何も言わずただ黙ってうつむいている芳弘に向かって


『あんたなんて最低、バカヤロー』と言って

もっていたケーキを思い切り投げつけて走り出した。


(泣くもんか、あんな奴の為に涙なんて流すもんか)


心の中で繰り返しているといつの間にか駅にたどり着いていた。


人前で涙を見せない様に気丈に振舞ってはいたが地元に戻った瞬間少し気が緩んだのか思わず涙がこぼれた。


一度流れ出した涙はもはや自分意思で止めることなど出来ずとめどなく流れ始めた。


顔を俯いたまま足早に人ごみを駆け抜けていく、途中で小さな公園を見つけると公園に入り夜空を見上げた。


涙がこれ以上流れ落ちないように空を見あげた和希だった。


冬の空は空気が澄んでいて星空がとても綺麗に見える、いつの間にか涙も止まり和希はしばらくそのまま星を眺めていた。



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