第一話「新人代理人ステラと豚の魔王様(貯金箱)」
第一話「新人代理人ステラと豚の魔王様(貯金箱)」
ダンジョン経営代理店。それは多忙な魔王たちの手助けをするために設立された組織だ。今日も世界中あちこちから魔王たちが依頼のために訪れる。
「あ、いらっしゃいませー」
そんな魔王たちを応接室へ案内するのは、新米サキュバスのステラ。男の悪魔たちはサキュバスを見ると興奮するものだが、ステラはスレンダーなため皆一様にため息を吐く。
「も、申し訳ありません魔王様! ステラ! お前は表に出るなと言っているだろう!?」
「で、ですが誰も手が空いていなかったようでしたので……」
「口答えをするな! お前は奥に引っ込んでいろ!」
チーフのガーゴイルに怒られ、ステラは肩を落としながら給湯室に入る。
「また怒られたの? 全く、進歩がないわね」
ステラと同期の新人サキュバスだがグラマーな体型のルーテシアは、今日もダンジョン経営の代理から帰ったところのようだった。
「凄いね……また仕事貰ったの?」
「ふふん、貴女とは違うのよ。あ、お茶は温めにね」
ステラは少し水を足して温いお茶をルーテシアに渡す。
「はぁ……生き返るわ。本当、貴女ってお茶を入れる才能だけはあるわよね。もういっそここの専属になっちゃえば?」
「わ……私だってダンジョン経営の代理をしたいもん!」
「無理無理! 貴女みたいな見た目じゃ尚更ね」
魔界情勢は安定しており、その中でも特にダンジョン経営が安定している魔王がここに足を運ぶ。そのため手腕よりも外見を重視する魔王が増えてきているのだ。
今日も依頼が来ることなく、ステラは帰路に着く。
「早く私も経営してみたいなー」
「……ぬ、お主、もしやダンジョン経営代理人か?」
ステラが振り返ると、手のひらサイズの豚の貯金箱が塀の上に乗っていた。
「えっと……はい、そうですけど?」
「おぉ、それは良いところに! 実はな、我のダンジョンを任せる者を探しておるのじゃが……代理店の者共、我を小馬鹿にして話すら聞かん!」
「そ……それは酷いですね。あの……もしよろしければ、私がやりましょうか?」
「ぬ……じゃがその……余りお金が無くての」
代理人を雇うにはかなりの金額が必要になる。だからこそ安定したダンジョンを持つ魔王しか利用しないのだが。
ステラの手のひらに豚が乗り、お腹に付いている栓を外す。
「えっと……銅貨三枚……ですか?」
この世界には金貨、銀貨、銅貨があり、この順で高価となっている。それぞれ交換するためには百枚必要であり、例えば銅貨百枚で銀貨一枚となる。金貨と銀貨の関係も同様で、代理人を雇うためには金貨が十枚は必要になるのだ。
「う……うぬ」
「あの……じゃあ銅貨三枚で私が代理人をしましょうか?」
「な……何っ!? 良いのかっ!?」
豚が目を輝かせるようにして食いつく。
「は……はい。まだ新人ですが、それでもよろしければ」
「構わぬ構わぬ! はっはっは! お主のこと、好きになれそうじゃ! 我はアル、お主は何というのじゃ?」
「ステラです。よろしくお願いしますね、アルさん」
こうしてステラは代理人として初めて働くこととなった。