創世神降臨
剣と魔法の世界ルーフェリア。そのルーフェリアには、大いなる自然豊かな恵みの下、数多くの生命が繁栄を享受しているアセト大陸と、苛酷な環境の魔大陸ゴドナが存在した。アセト大陸では、長い歴史の中で様々な種族が幾つもの国家を形成し、時には同盟を結び、時には争い、栄枯盛衰を繰り返してきた。近年、人間族を中心としたブラウン帝国がその勢力を拡大し、アセト大陸全域をその版図に組み入れるに至った。その最中、多くの種族が隷属を強いられ、また滅ぼされていったのである。
神歴3846年、苛酷な環境故に人間族の居住に適さず放置されてきた魔大陸ゴドナの南端に一人の魔王が誕生する。魔王は自身の強大な力を以て周辺の魔族を配下に加え、勢力を拡大していった。新暦3860年、魔王は遂に魔大陸を統一、その支配下においた。神暦3875年、魔王は魔族の大軍団を擁して、突如アセト大陸へ侵攻を開始した。
突如の侵攻によって我が世の春を謳歌していたブラウン帝国は慌てふためき、準備の整わぬ間にアセト大陸の半分が蹂躙された。魔王軍の侵攻に後手に回った帝国は、総力を挙げて反撃に移るも劣勢を挽回出来ず、じりじりと版図を狭め、そう遠くない将来に全土が魔王軍によって蹂躙される事が、誰の目にも明かとなっていた。
神歴3879年、ブラウン帝国皇帝ピスタ4世は、劣勢を覆す最後の切り札として創世神ヴァールスの力に縋る事を決断する。皇帝からの依頼を受けた神殿は、直ちに神官を掻き集め、法皇が中心となって神の降臨を祈ったのである。
静謐な神殿の中で祈りが続く中、突如として光が降りてくる。穏やかではあるが畏怖を感じずにはいられない厳かさを兼ね備えた思念が法皇らの頭に響く。
『助けを求めしは汝らか』
「はい。主よ。創世神ヴァースルよ。どうか我ら人類をお救い下さい」
『救うとは?』
「今、我らは悪逆非道な魔族共に侵略され、滅亡の危機に瀕しております。魔族共は情け容赦がなく、老若男女を問わず嬲り、喰らい、殺すのです。既に、アセト大陸の半分が蹂躙され、我ら人類は滅ぼされようとしております。どうか魔族共に神の鉄槌を下し、主の御力に縋るしかない哀れな我らをお救い下さい」
『何故に?』
「なっ!」
創世神の問いかけに一瞬言葉を詰まらせる法皇。彼は、人類の危機を訴えれば神の助力を得られると、人類を救って貰えると単純に考えていた、いや、そう信じ込んでいたのである。神殿の頂点に位置する法皇たる自分が願えば、神は応えてくれると。
「主の僕たる我ら人類が、悪逆非道な魔族共によって滅亡の危機に瀕しているのです。何卒お救い下さいますよう」
『それが何だというのか』
「主の創造物たる我ら人類を蹂躙する事は、将に主に背き、天に唾するようなもの。その魔族共を放置し、我ら人類をお見捨て…… ひぃ」
突如、強烈な威圧感が神殿内に拡がった。威圧を受けて脂汗を流す法皇と神官達。幾つか床に崩れ落ちる音が聞こえた事から、気絶をした者もいるようだ。頭の中が押しつぶされそうな程の圧力を伴った神の思念が響く。
『何様のつもりか。人間!』
「なっ、何の事……」
『滅びようとしているのは人間族であって人類ではない。違うか? 人間』
「我らは人類を代表して……」
『誰がそのような事を認めたか?』
「我らはこのアセト大陸を支配し……」
『もう一度聞く。誰がそのような事を認めたか? 人間』
「だ、誰も……」
『汝らは勝手に他種族を攻め、蹂躙し、嬲り、殺し、従属させ、滅ぼしている。その汝らが別種族から同じ事をやられているだけではないか。何故汝らだけを助けねばならぬ?』
「そんな! 主は哀れな我らを見捨てるというのですか。悪逆非道な魔族共に蹂躙され、嬲られ、殺される我ら人類を! 主には僕たる我らを守る……」
『都合が良い時だけ被害者ぶるのは止めよ、人間。我が創造物に上下はない。汝らが勝手に増長して特別存在だと勘違いしているだけの事。挙げ句創造神たる吾に責任を転嫁し、特別扱いを求めるとは度し難い程の破廉恥よ』
『その破廉恥な汝らに相応しい裁きをくれてやろう』
「お、お許し……」
◇◇◇◇◇◇◇◇
その日、ブラウン帝国の帝都が地上から消滅した。帝都に巨大な雷が落ちたとも、地面が砕けたとも噂され、何故か人間族のみが尽く死に絶え、他種族の者達は全て生き残ったと記録されている。
ブラウン帝国の帝都が消滅した事で各地の戦線が崩壊。3年後、各地で行っていた散発的な抵抗をも空しく人間族は全て魔族軍によって駆逐され、ルーフェリアに魔王による統一国家が成立したのである。
神歴3882年、人間族はルーフェリアの歴史からその姿を消した。
GW期間。ちょっと暇だったので出来心で書いてしまいました。
そんな都合良く救われる訳がないじゃない。そんな誰もが思いつくような突っ込みを物語にしたらこんな感じに。
誰でも一度は妄想するのではないかなと思ったりするので、似たような話はあちらこちらに転がっているかも知れません。