カエルの王子様へ
カエルの王子様についての話です。知らない人はごめんなさい。
「カエルの王子様って知ってる?」
彼女の言葉に、ぼくは吸いかけの煙草を灰皿に押し付けながら頷いた。
「カエルの王子様はなんで王女と結婚したのかしら?」
「なんでって、呪いを解いてくれたからだろ。最後に投げつけられるのも呪いを解くために仕方がなかったことだし」
「私なら、いくら図々しいことをされたからって自分を壁に投げつけるような女なんて御免だけど」
確かにそうかもしれない。キッチンの換気扇を止めた後、ぼくはしばし考え込む。
「その王女様と結婚するまでが呪いなんじゃないか? 王女様と結婚しないとまた呪いが再発するとか」
「えー、なんかそういうの嫌」
「なんだそれ」
「童話なんだからもっと素敵な話にしてよ」
「童話なんてけっこうグロい話ばかりだろ」
そう言いながらもぼくは彼女のために考え込んでいた。惚れた弱みだ。全く嫌になる。
カエルの王子様はどМだった――却下。
王女様より優しい王様狙いで結婚した――却下。
……碌な考えが浮かばない。確かになんでカエルの王様はあんな王女と結婚したのだろうか。
考えられるとしたら……。
「惚れたから、かな」
「どういうこと?」
彼女は小首を傾げる。
「好きになったら負けってことだよ。壁に投げつけられても、なにをされても、それでも王子様は王女様の事が好きだった」
「んー、よくわかんない」
「惚れたことのある奴にしかわからねえよ」
「ふーん、まあいいや。ねえご飯作ってよ」
「はいはい」
ぼくはため息をつきながら、再びキッチンへ向かった。冷蔵庫を開け、食材を探す。
人参に、玉ねぎ、じゃがいも。冷凍室には鶏肉がある。
シチューぐらいなら作れるだろうか。
「ねえ」
「ん?」
いつの間にかぼくの後ろに来ていた彼女はにやにやと笑みを浮かべている。
「私は例え壁に投げつけられても、君の事が好きだよ」
「なっ」
顔が赤くなるのが分かる。そんなぼくを見て彼女はますます悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「じゃあ、ごはんよろしくー」
そう言って彼女はリビングへと戻っていった。
――全く、好きになったら負けである。
読んでいただきありがとうございました。