#2
楓が鏡の前で身だしなみを整えていると、乱暴な音とともに勢い良くドアが開かれた。
「楓はいる?」
現れたのは女騎士・ローズウィップ。美しいバラにはトゲがあるという言葉を体現したような、艶やかかつ勇猛な剣士だった。なお、彼女の特徴としては剣士でありながら鞭を一番の得意な得物としている。
「うわ、びっくりした。急に何よ」
「リリーナ姫はここにいる?」
「見ての通り、ここにはいないわよ」
ローズウィップはなにか慌てた様子でいたが、楓の回答は聞かずともわかっていたらしい。でも仰いでため息を吐く。
「あちゃー、やっぱり」
「なんなのよ」
「城内に姫の姿がないの」
「どこに行かれたのかしら」
ローズウィップは苛立ちを隠さずに言った。
「鈍いわね。わたしたちはリーダーが一人の時は、リリーナ姫がどこにいるのか目配りしてるの。さっき、女官に聞いたら、楓と話したいからって人払いをしたと言うから来てみたのよ、そうしたら案の定……」
「おかしいわね。ここには来てないし……はっ!」
「リーダーの寝所に向かうわよ」
楓とローズウィップは急ぎ城を出た。
5分も経たずに離宮到着。断りもなく屋内に入る。一応衛兵がいるが、この二人なら顔パスだ。
三階建ての屋敷の二階ロビーに見知った女官がいた。楓たちと目が会うと驚いたように口元を押さえ、音を立てて椅子から立ち上がる。
「あ、そのままでいいですから。あなたを責めるつもりはありません」
ローズウィップがストップジェスチャーで婦人を釘付けにする。
その間に楓は明の部屋の前へ。そうっと忍び足で部屋の中に入る。さすが王族の離宮、 一つの部屋にまた奥の間がある。
「奥の間にいるのね」
扉は閉ざされていた。蹴り破りたい衝動に駆られて、そっと耳を当てる。
『ヒィッ!』
リリーナ姫らしき悲鳴? これはすぐにでも飛び込む状況か?
『ち、ちょっと明あきら卿、ま、待って』
(明、なにをしている!?)
『い、いやですか、姫様?』
『え、そういうわけでは』
どうやら、無理矢理にというわけではなく彼なりにリリーナを口説いているようだ。
『じゃあ、続きを』
そうは言っても、この時点で楓は『おこ』状態だ。
『ま、待って、まだ心の準備が』
「なにが心の準備よ」副官の怒りは『まじおこ』状態に移行。
『公女に二言はないと言ったじゃないですかー、やだー』
『激おこぷんぷん丸』状態。
『夜着を脱がさせていただきます』
ビリッ。衣服のを破れる音がした。『ムカ着火ファイアー』
『あっ!……あっ』
リリーナ姫の声もか細くなっていく。『カム着火インフェルノォォォォオオウ』
『キャー、明、抱いてー!!』
姫は陥落した。その声は嬌声と言ってもいい。
『げきオコスティックファイナリアリティぷんぷんドリーム!!!!!』
楓の特異能力「パイロキネシス」が発動して、木製の堅牢な扉を吹き飛ばした。
「二人ともそこ動かない!」
「のわー!!」
「か、かえで? って、キャー!!」
あられもない姿のリリーナはあわてて、ベッドのシーツを引き寄せ裸身を隠そうとする。
「あー!」
後から飛び込んだローズウィップも思わず、腰の鞭に手を伸ばす。
「り・ー・だ・ー」
「おまえたち、こんな夜更けになにしているだ!」
思わず言葉も鈍なまる。
「「それはこっちの台詞よ!!」」
楓とローズウィップの言葉がかぶる。
「リーダー、お話があります」
ローズウィップの妙技が炸裂。彼女の名前を表すバラのいばらのように地を這うように伸びた鞭がするすると明の身体に巻き付きながら首元へ登っていく。
「とにかく、姫はわれわれで王宮までお送りいたします。すぐにお召し物を整えてください」
「は、はい」
叱られた子どものようにシュンとなるリリーナだった。