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異界嫁日記  作者: Mac G
17/20

capter10

 楓は、真剣を握り、明に向かって闇雲に振るった。


 この世界に来てすぐ、ワイルドエルフの騎士たちから剣の初歩的な使い方と構えを学んだ。日本では武道を習ったことがない。


 そんな楓に明が施す剣技とは、ひたすら自分に斬り掛からせる稽古だった。


「殺すつもりでかかってこい」


「そんな、殺すだなんて」


「お前に必要なのは技じゃない。敵を殺す覚悟だ。他人の命を奪うことに躊躇するなとは言わないが、自分の身を守るために手段を選ぶな。心配せずともおまえがどう攻撃しても俺にかすり傷一つつけることはできない」


 朝のしじまにに響く金属音。


「剣の重さとぶつかり合った時の抵抗を体で覚えることだ」


 おそらく刀と刀を合わせることなく身体を翻すこともできるのだろう。しかし明はあえて楓の振るう剣を全て自分の剣で受けとめる。


 楓の手のひらにはマメができそれが潰れて惨憺たる有様だった。しかし明の特訓は効率的らしく、わずか数日で楓は自身の腕力で操ることのできる最も合理的な剣の振るい方を会得していた。


 姫から聖戦士に賜った銘剣は部屋に置いて一山いくらのありふれた、しかし本物の、人も斬れる真剣を使っている。明はもともと道具を選ばないようだ。


 上等な剣ほど刃こぼれしやすく芸術品としての存在価値が大きい。


 異世界戦士の朝は早い。夜が明け切らぬ前に、楓と明は誰もいない闘技場にこもった。夜はすることがないので早く眠る。だから以前ほど早起きも苦にはならない。


 ラウンジの入り口を、ローズウィップが見張っていた。


「誰も近づけないでくれ」


 城内には常に寝ずの番がいる。現代の日本に比べればと、一般的な町人の活動開始時間も早い。完全に人目を忍ぶという事はこの状態都市の中では難しいことだった。


「了解です」


 この日より、いよいよ楓の能力開発の訓練に入った。


 まずは準備体操がてらの、演武。背筋を伸ばし緩やかな挙動で何度もこぶしを突き出す。


「太極拳みたいね」


「みたいじゃなくて太極拳だよ。内から沸き上がる力を解放するには、体の中の気の流れをコントロールすることが大事だ。力の源がどこにあるのか、どんな経路をたどっているのか探すんだ」


「座禅とか組んだほうがいいんじゃないの?」


「肉体の鍛錬で見つからないものが、精神修養で見つかることがあるな。だが、素人のお前には心と同時に体を動かしたほうが理解が早いだろう。さぁ、俺の動きに続いて」


「はい」


 明は足を開いて腰を落とし、半身をひねった。朝日に向かって足の向きを垂直に、右肩を前に向けながら、前かがみになる。


「あごを引いて、はらわたに力を込める。力をイメージしろ、このように」


 両手でバレーボールを抱えるように、空間を作る。


「気の塊をイメージしろ。見えないボールがあるように感じるんだ。ここにため込んだ力を前に突き出すイメージで放つんだ」


「う、うん(え、これって……)」


 楓は、今自分のしている構えが、何か見覚えのある気がした。


「よし両手を左肩の方に引くんだ。そしてこうを唱えろ」


「はい(まさか、ね?)」


「ではいくぞ。か〜、め〜、は〜……」


「ちょっと待てー!!」


 全力で構えを解く楓だった。


「なぜ止める? 楓」


「○ラゴン○ールか!」


 楓と明の特訓は続く。


 昨日の会話。


「こうして武器をふりまわしているだけでも度胸がつくだろう。そろそろ人を殺す覚悟もできたのではないかな」


 多くは期待しないと言っていたが、楓の剣筋もみるみる無駄のない動きになってきた。


「いいぞ、ブレがなくなってきた」


 短時間での習得のため、楓の筋力と運動神経でできることとできないことを、計算された訓練だった。


 その日、明は剣を抜かなかった。


「剣をおけ。今日からは超能力の訓練だ。剣を持って戦うのは、ここシーブルポリスにおいては敵の軍勢に城塞を責め込まれた時の抵抗の戦の時ぐらいだろう」

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