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第九十話

2011年最後です!

「唯さん、寒くない?寒かったら遠慮せずに言って頂戴ね。あとでホットミルク持って来てあげるわよ。」


「ほれ、お嬢。菓子でも食うか?」


「あら、駄目ですよ、愁清さん。唯さんまだご飯食べてないんですもの。まず先に朝食ですよ。ね?軽めの朝食作らせてあるから、それを食べなさいな。昨日もスープだけだったでしょう?」


「おお、そうだな。お嬢、腹減ってるか?身体を治すにはまず食事をちゃんと取らんとな。」



朝に目が覚めてからナイトにエサをやって、それからリビングでぼんやりしていると、私がまだ何も食べていない事に気付いた珠緒さんにそう言われた。

珠緒さんと愁清おじい様(おじい様って呼びなさいと言われた。雅ちゃんの時と同じだ…)に事細かく世話を焼かれながら、私はダイニングに追いやられた。すでにそこには給仕スタンバイ済みの渡瀬さんと、ほかほかと湯気が立っている食事が用意されていた。


私がおはようございますと挨拶をすると、朗らかに微笑んだ渡瀬さんがおはようございますと返してくれた。



「唯様はブロッコリーがお嫌いだと昨日伺いましたので、今日はブロッコリーを外しておりますよ。今日の朝食はリゾットでございます。少しお味を薄めにしておますが、リゾットはお好きですか?」


「好きです。私が熱を出した時、パパがご飯を作ってくれるですけど、それがリゾットなんですよ。パパのリゾットも味薄めなので、大丈夫です。量はあまり食べられないかもしれないですけど…」


「そうございましたか。唯様のお父様のリゾットに敵うかわかりませんが、当家の料理長の腕も確かですよ。お残しになっても結構ですので、少しでもお召し上がりになってくださいね。」


「ありがとうございます。じゃ、あの…いただきます。」



スプーンを手に取って一匙(ひとさじ)掬う。

ふんわりと湯気が立ったリゾットは、傍目から見てもすごく美味しそうだ。

ふうと息を吹きかけて少し冷ましてから口に運ぶ。温かいそれは、すぐに舌に馴染んでくる。リゾットのお米は咀嚼する必要もないくらいにトロトロだった。リゾットって基本は芯を残すアルデンテなんだけど、このリゾットはおかゆって言っていいくらいに柔らかい。でも、それが今の私にとってはすごく嬉しい。



「おいしい…」


「それはようございました。もっとお召し上がりたいのでありましたら、まだありますからね。遠慮せずにお申し付け下さいませ。」


「はい、ありがとうございます。」



一口一口を口に運んでいく私を見ていた渡瀬さんだったけど、途中で愁清おじい様に呼ばれたみたいでリビングを後にした。

渡瀬さんがダイニングから出て行った後、私はスプーンを置いた。


確かにリゾットは美味しいし、柔めに茹でられた温野菜も甘くて美味しい。

だけど、喉を通らない。

溜め息を一つつくと、私は完全に食事を諦めた。



昨日の夜、雅ちゃんと珠緒さんに身体を拭かれた際に見た私の身体は、あまりに酷いものだった。まさか胸まで痣があるとは思っていなかったので、それを見た瞬間パニックを起こしそうになった。だけど、珠緒さん達の方がショックを受けているようだったのを見て、なんとか気を持たせた。


問題だったのは、私が眠ったときだった。



あの出来事が悪夢となって襲ってきたのだ。



逃げても逃げても追いかけてくる谷野先生に捕まって。

それから顔を殴られた。

嫌だって言っても、止めてくれなくて。

怖くてどうにかなりそうだった。



それでも泣きながら叫んでいると、珠緒さんが血相を変えて私を抱き締めていた。


最初それが珠緒さんだとわからないし、夢うつつのままに抱きしめられた事で、更にパニックに陥った私はただ無我夢中でその腕から逃げようともがいた。意外に強い腕の力からようやく逃げた私は、ベッドの端っこまで後ずさった。

震えが止まらずガチガチと歯の音も合わずに、焦点の定まらない目で身を護る様にして小さくなっていた私を、現実に引き戻してくれたのはやはり珠緒さんだった。


私の名前を優しく呼び、柔らかい手で頭を撫でてくれた。

そこでようやく夢から覚めた私は、周囲を見回してみる余裕も出来たが、部屋にいたのは珠緒さんだけではなかった。

愁清おじい様や雅ちゃん、先生のパパまでいて、その皆に共通して浮かんでいた表情は驚愕しかなかった。

彼等の表情を見た私は、自分の引き起こした事態に血の気が引いた。



「ご、ごめんなさ……ごめんなさい、ごめんなさい…ごめんなさい…」


「唯ちゃん…」


「お嬢、大丈夫か?」


「ごめ、なさ……」


「みんな。ここは私に任せてくれる?ほら、もう夜も遅いことだし、特に蒼偉。貴方は朝早いんだから、もう寝なさい。愁清さんも、戻っていてくださいな。」


「お義母さん…でも…」


「いいから。あ、雅さん。ホットミルク、持って来てくれる?少し蜂蜜入れてね。」


「…わかりました。」



不承不承ながらも頷いて出て行った彼等を見送った珠緒さんは、私に向き直ってそっと頭を撫でた。



「怖かったわね。でも、ここは安全よ。」


「ごめんなさい…私…」


「謝る必要はないわ。随分な目に合ったんだもの。怖いのは当然よ。それを大丈夫だと思ってても、心が大丈夫じゃないことってあるものなのよ。だから、唯さんが謝らなくてもいいのよ?」


「で、でも…珠緒さんに迷惑がかかる…」


「あら。そんな事ないわよ。むしろ、私に頼ってくれると嬉しいのだけれどね。ほら、ナイト君も貴女を心配してるわよ。ねえ?」



ふとベッド下を見ると、臥せの体勢をとっているけれどパタパタと尻尾を揺らしているナイトがいた。実家でのナイトの定位置は私のベッド下だけど、遠藤邸でもナイトルールは通用しているらしい。

ナイトと小さな声で呼ぶと、すぐさまベッドの淵に前足をかけて私が上に上がれという合図を待っていたので、珠緒さんに許可を得てベッドの上に呼ぶと、すぐさまナイトが私をベロベロと舐めた。



「いたっ、いたいよ、ナイト!」


「わふっ!」


「ナイト君も心配だったものねぇ?」


「わんっ!」


「そうだ。このままナイト君と一緒に寝ちゃいなさい。今雅さんがホットミルク持って来てくれるから、それを飲んで。頼もしい騎士(ナイト)が側に付いてるのよ。悪夢なんて追い払ってくれるわよ。ね?」


「わぅわぅ、わわん!!」


「…じゃあ、お言葉に甘えて…ナイト、一緒に寝ようか。」


「きゅーん!」



ぐりぐりと鼻を押し付けられて苦笑しているとコンコンと控えめなノックの音が聞こえたので、珠緒さんが返事をすると、雅ちゃんがホットミルクを持って来てくれた。

それをありがたく受け取って一口飲んでホッと息を付いているのを見た珠緒さんと雅ちゃんは、幾分ほっとしたようだった。


そのままホットミルクを飲み干し、言われた通りにナイトと一緒に寝た。



悪夢は見なかった。

なんとか間に合った…。今年の更新はこれが最後です。と言っても、あと何十分かで年明けるんですが…(笑)

年明けはなるべく早く更新します。ここらで他者視点挟むかもです。

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