第八十六話
「お前、まだ食って………。これまた綺麗にブロッコリーだけ残ってるな…」
呆れたように私を見てる先生の視線をまともに見られない。
だってブロッコリー嫌いだし。
美味しくないもん。
「………ごめんなさい。でもブロッコリーだけは食べられません。」
「身体にいいんだぞ。」
「いいわけないじゃないですか!!ブロッコリー食べてホー○ーが死んじゃったんですよ!?」
「ホー○ー…?」
「はい!シンプソン○のパパ、○ーマーもブロッコリー大嫌いなんです!で、ママのマー○に食べなさいって怒られてむりくり食べたら天国に行っちゃったんです!!」
私大好きなんだよ、ザ・シンプソン○!
今はもうアメリカでも放映されてないから寂しいけど、それでも大好き!DVDも全巻持ってるし!でもやっぱり映画版の吹き替え声優が納得出来なかった!
ちなみに私が小さい頃にお母さんが見せていたのはシンプソ○ズだったらしい。普通はセサミスト○ートとかなんだけどね。
そんな私が大好きなホー○ーがブロッコリー食べたら死んじゃったのは本当で、しかも魂で天国に行ったにも関わらずまたブロッコリー食べて死んじゃうんだよ。二重苦だよ!
滔々と私が説明していると、途中を遮るように先生が「もういい」とうんざりしたような顔で言うので、少しムッとした。せっかく私がシン○ソンズの説明を噛み砕いて説明してるのに!
「残したんならちゃんと渡瀬に謝っておけよ。お前が好き嫌いして残したんだからな。」
「うー……。渡瀬さんは今いずこですか…?」
「お前の泊まる部屋の用意だと。さっきの部屋じゃないから安心しろ。」
「はぁい…。じゃ、後で言っておきます…」
「ああ。さて、俺は帰る。明日、お前は学校休むって担任の先生に言っておくから、桐生さんが来るまでうちにいろ。」
「え…帰るんですか?」
ちゃっかちゃっかと爪の音が聞こえたので、私が座っているイスの横を見るとナイトがぱたぱたと尻尾を振って鎮座していた。
もうご飯食べちゃったのかな。相変わらず早食い…。指先をナイトの鼻先に持っていくと、ぺろっと舐められた。
「帰る。マンションになんだかんだあるしな。なにより、お前がいるのに教師の俺が同じ屋根の下にいるのはヤバイだろ。」
「同じ屋根って…こんな広いお家でそれが通用するんですかね…」
「…それでもだ。俺は教師、お前は生徒。その線引きはちゃんとしておくもんだ。」
「はい、わかりました。じゃあ、申し訳ないですけど明日おじいちゃん先生によろしくお願いします。」
「おじいちゃん先生…。まあ、いいけど。じゃ、ちゃんと安静にしてろよ。」
そう言うと先生はダイニングを出て行った。
多分これから先生のマンションに帰るんだろう。時計を見ると既に21時を回っていて、こんな時間まで私の為にいろいろと苦慮して貰った事に居たたまれなくなった。
後でちゃんとお礼言わなきゃ。
よし。と勢いを付けてイスから立ち上がると、丁度渡瀬さんが入って来たので残したブロッコリーの事を謝ると、逆に「嫌いな物を入れてしまって申し訳ないです」と謝られた。
どちらも恐縮しながら謝っているのもなんなので、私も渡瀬さんもいいところで譲り合い、そして私は皆さんが勢ぞろいしているリビングに追いやられた。
「あら、唯さん。ちゃんと食べた?」
「はい、ご馳走様でした。美味しかったです。(ブロッコリー以外は)」
「ささ、唯ちゃん、こっちにいらっしゃい!あ、それともお風呂に入りましょうか!!そうね!それがいいわね!!」
「駄目だよ、雅さん。その子は点滴を打って来たと亨が言っていただろう?唯さん、今日お風呂は我慢しなさいね。その代わり、身体を拭くことは大丈夫じゃないかな。」
「お嬢、熱を出したらしいな。だったら珠緒、お嬢を拭いてあげればいいんじゃないか?」
え。
「あら、そうねー。じゃ、行きましょうか。」
「ま!お義母さん、私も一緒にやります!さ、唯ちゃん、おいでなさい!!」
「いってらっしゃい。」
「二人とも、ほどほどにな。」
お。
おおお。
おおおお!?
にこにこと微笑みながら女三人を見送っている先生のパパとお祖父ちゃんが、何時の間に私に対してフレンドリーになったのとか、お祖父ちゃんが私の事を『お嬢』って呼んでるとか。
私はいろいろと聞きたい事があったのだけれど、一気に珠緒さんと雅ちゃんに背中を押されることで何も聞けないままリビングを後にしたのであった。