第八十四話
ピンクのベッドカバーに真っ白いフリルたっぷりの枕カバー。よくよく見るとベッド自体が、これまた薄いピンクのカーテンで囲われている天蓋ベッド。
そっと閉められていたカーテンを開けてみると、ネコ脚チェストに、ピンクのリボンがたくさんあしらわれたカーテンがお目見えした。
…。
ここ、どこ…?
確か私は先生の車に乗ってて、ナイトを膝に乗せて頭を撫でていたはず。
うつらうつらしてたのは覚えてる。車内が暖かかったし、ナイトの重みが心地よくてつい眠くなってしまったのだ。まあ、先生が道中何も話さなかったって言うのもあるけど。
寝起きでうんうん唸って考えていると、ふとベッド脇のサイドテーブルに置かれていた荷物が目に付いた。
マンションを出る間際に、羽生さんから渡されたF○dexの大きな箱の差出人はパパだった。
「さきほど宅配が届いておりましたので、サインをお願いしますね。」
「はい。えーっと……差出人はー、パパ?…何だろう…。はい、ありがとうございました。あの羽生さん。私二、三日マンション空けることになったので、もし荷物が届いてたら預かっててもらえますか?週末になったら戻ってくるので。」
「はい、わかりました。お気を付けて、お休みなさいませ。」
にっこりと羽生さんに微笑まれて見送られた事を思い出しながら、大きな箱を手繰り寄せた。
荷物自体はそんなに重いわけではないけれど、結構大きめな箱には何が入っているのかわからない。なんだろうと思って振ってみるものの、カサカサって言う音しか聞こえない。
さっき『すかいぷ』した時に、パパは何も言ってなかった。と言うか、多分機嫌悪かったから荷物の事忘れてたんだろうなぁ。
んー?と思いながら箱を開けようとしていると、コンコンとノックの音がしたのではっと思い出して、ここはどこなんだろうと言う疑問が再登場した。
どこかわからないものの、ノックされてるから返事はしないといけないだろう。
「は、はい…?」
「あら。唯ちゃん、目が覚めた?ちょっと入っていいかしら?」
「え、あ、はい。」
女の人の声がして返事をすると、扉から現われたのは雅ちゃんだった。この前お邪魔した時と同じく薄紫の和服をぴしりと着こなしているその姿に、佐田先生じゃないけど本当に年齢不詳なイメージぴったりだなぁとぼんやり思った。
先生のお母さんだから、四、五十代かな?多分お母さんより年上だろうなぁと思うけど、お母さんはお母さんで実年齢に絶対見られないいわゆる美魔女ってやつだったから、そもそもが当てにならないけど。
そんな事を考えてたら、じーっと私を見てる雅ちゃんが微動だにしない事に気付いた。あれ?雅ちゃんがいるって事は、ここ先生のお家…?
て言う事は、ここ遠藤邸の一室?そう言えば、先日お邪魔した時にちらっと部屋を見たような気がするんだけど。
雅ちゃん=乙女主義=この姫部屋の主は雅ちゃん?=私邪魔
なんとなく浮かんだ方程式にはっとする。
もしかしてここ、許可なく私が占領してるってこと!?駄目じゃん!!
あ、そう言えば挨拶もまだだった!
「あ、こっ、こんばんは!」
「………」
「…あ、あの、こんな夜にいきなりすみません!しかも、もしかしてこの部屋、雅ちゃんのですか!?ごめんなさい!!今すぐ出ていきま「きゃーーーーーー!!!!!!!!!!」っ!?」
「蒼偉さぁーーーーん!!ちょっと、ちょっとーーーっ!来てちょうだーーーい!!」
な…………何…!?
いきなり雅ちゃんが大絶叫したんですけど!!
突然叫んだ雅ちゃんにびっくりしてぽかーんとして前を見ていると、廊下をぱたぱたと歩いてくる音がした。その足音を聞いた雅ちゃんが、ぱっとドア口に身を翻した。
「蒼偉さん、蒼偉さん見て見て!!んもう、お姫様がいるのぉーーー!!」
「雅さん、ちょっと落ち着こうね。あの子はまだ起きたばっかりなんだろう?そんな寝起きでいきなり大きな声出したら駄目だよ。」
「でもでも!もう本当に可愛いの!!」
「そうかぁ。でも私は雅さんの方が可愛いと思うよ?」
「やーだぁ、蒼偉さんったら!!お世辞を言っても何も出ないわよ!」
「お世辞じゃないんだけどなぁ。」
とまあ、こんなバカップルのようなやり取りを繰り返している男女の会話をドアを挟みながら聞いていた私は、多分この男女が先生の両親なんだろうなーっと思った。
…て言うか、雅ちゃん興奮しすぎ…。