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第八話

19時少し前に晩御飯が出来た。あとはお姉ちゃん達が来るだけだな。

おっと、そろそろお兄ちゃんも起こさないと。


パタパタとお兄ちゃんが休んでいる部屋へ行き、コンコンとノックをして、少し控えめに声をかける。


「お兄ちゃん、入るよ。」


そろりとドアを開けると、お兄ちゃんは夢の中のようだ。まだ寝てる…。でもあんまり寝ちゃ夜に寝れなくなっちゃうし。

ふぅ、仕方ない。気持ちよさそうに寝てるのを起こすのは可哀相だけど、起きて貰わなきゃ。


「お兄ちゃん。ご飯出来たよ。起きてー。お兄ちゃーん!!おーきーてー!!」

羨ましい程長い睫毛がふるりと震えた。眉間に皺も寄っている…

う゛ー…と唸りながら、起こすなとでも言ってるようだ。


あは、面白い…ニヤニヤしながら、お兄ちゃーん、起きろー!!と繰り返す。瞬間、お兄ちゃんにベッドへ引きずり込まれた。

私をキツく抱き締めたお兄ちゃんは「まだ眠い…もう少しだけ寝させて…」と、非常に精神衛生上よろしくない色気を含んだ低く掠れた声で、しかも耳元で囁やかれた。

他の女の子だったら多分コレをされたら、十中八九落ちるんだろうな。しかし、そこは私だ。


「ちょっと、お兄ちゃん!!起きないんだったらご飯抜き!!いいの!?パパとお姉ちゃんにお兄ちゃんの分全部あげちゃうよ!?」


「起きる!!起きます!!」


ふっ。楽勝。

バッチリ目が覚めたらしい。ついでに腕も解いてくれないかな。

ベッドの上で義兄に抱きしめられる図っていうのは、一般論的にまずい。

お兄ちゃんのファンから見たら垂涎物だろうが、小さい頃からそれこそ数え切れないほどされているので、別に何てことはない。

やっぱり早く彼女作ればいいのに…と内心愚痴る。


「んー…?父さんと美奈にあげるって…ひょっとして、二人とも今日来るの?」


お兄ちゃんが、もそもそと如何にもまだ眠そうに身を起こし聞いてきたので、私の体に回っている腕を外しながら、お兄ちゃんが寝ている間にお姉ちゃん達が来ることになった経緯を説明した。


「多分もうそろそろ来るよ。」と言っていると、チャイムの音が聞こえた。


お兄ちゃんと顔を見合わせて、ふふふと笑い合う。


「ほらね?」


「噂をすれば…か。唯、出迎えてきなさい。僕もすぐ行くから。」



お兄ちゃんがふわりと笑いながら、促すのでベッドを降り、玄関へ向かう。

ロックを解除し、ドアを開けると、お姉ちゃんがいきなり抱きついてきた。やっぱりお兄ちゃんとそっくりだ。


「唯ぃ!お腹すいたよー!!」


ぎゅうぎゅう抱きしめられながら、お腹空いたを繰り返すお姉ちゃん。

…この人って、本当にさっき見た雑誌の表紙飾ってた人…?


「こら、美奈。早く唯を離せ。俺も抱きしめたいんだから!」


この深くて渋い声…パパだ…。


…正真正銘、お兄ちゃんもお姉ちゃんもこの人の血を余すことなく受け継いでる!!!!間違いないよ!!!!


「えぇー!?唯はパパに抱きしめられるのは嫌だって。加齢臭がするから。ね、唯?」


にっこりと笑って、とんでもない事を実の父親に向かって吐いた。

ヒクッと顔が引きつった。ちらっとパパの方を見ると、さながらこの世の終わりの様なショックを受けている。あぁ!!そんなこと言わないでよ、お姉ちゃん!!これから宥めるの大変なのにっ!


「ぱ…パパ…?あのね、そんなことな「そうなのか、唯!?嫌なのか!?父に抱きしめられるのは嫌なのか!?」」


ガッと両肩を掴まれ、がっくんがっくん揺さぶられる。

ちょっ…!!頭が…頭回る!!!!


「小さい頃はあんなに俺に抱っこ抱っこってせがんでたじゃないか!!唯、もう父は嫌いか!?顔も見たくないのか!?やめてくれ、唯!!愛する祥子がいない今、俺は唯から嫌われたら生きていけない!!!!」


がっくんがっくん揺さぶられてたのが収まったと思ったら、またぎゅうぎゅうされる。

苦しいなんてもんじゃない。


「僕と美奈から嫌われても生きていけるんだ。父さん…」


「当たり前じゃない。多少はダメージあるかもしれないけど、それ位でパパは死にゃしないわよ。そんなヤワな人じゃないもの。それより、唯に嫌われたらあたしも生きていけない!!」


「同感だ!!」


いつの間にか会話に加わっていた、お兄ちゃんとお姉ちゃんの会話が遠くに聞こえる…

あぁ…こりゃダメだ…意識が…


「というか、父さん。いい加減離してあげたら?本当に唯に嫌らわれるよ?」


「それはいかんっ!!」


すぐにパパの腕から解放されて、ようやく息をつく。くそぅ、涙目になっちゃったじゃないか、パパめ!!


「もう!!帰れ!!ご飯食べないで帰れ!!今すぐ帰れ!!」



私はキレた。えぇキレましたよ。

何だってこんなに背骨が何回も何回も限界まで軋まなきゃいけないんだ!!


むっすーと3人を睨み付ける。

案の定、すぐに3人とも謝ったけど。


ファッション業界のみならず、その他の業界にも知られまくっている桐生総一郎。

その跡を継ぐべく将来を有望視されている息子、秀人。

トップモデルとして、国内外で絶大な人気を誇る娘、美奈。



何を隠そう、彼ら全員私の事を溺愛しまくっているのである。

桐生一家と書いて、唯至上主義ファミリーと読む。

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