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第78話

顔が思いっきり引きつりつつも何とかマリアに別れを告げると、当の本人からは盛大なリップ音付きの投げキスを飛ばされた。それを叩き落としたいと思ったのも束の間、マリアは「若いっていいわねー!!羨ましいわっ!ぶほほほほっ!!」と笑いながらエレベーターの中へと消えて行った。



そして今、俺は何故か物凄い勢いで真っ黒な犬に唸られている。



以前何回か神崎を送り届けた時に感じた通り、こいつは高校生という立場には似合わないほどのいいマンションに住んでいた。

さっき通って来たのでわかっているがコンシェルジュがいるフロントに、静脈認証のオープンゲート。各階専用キーが付いたエレベーターに、極めつけが住んでいるフロアに部屋が二件だけというマンション。まあ二部屋しかない部屋の内、隣人があの小煩いニューハーフのマリアだと言うのはマイナスポイントだとしても、それでもいい物件に住んでいると思う。


まあ俺の住んでいるマンションがペントハウスなのでこの物件自体に何も言うつもりはないが、それでも父親が娘を相当に可愛がっている様には、驚くよりも正直呆れが勝った。



なるべく表情に出さないままマリアが去った後、妙に疲れた神崎がガチャガチャと玄関を開けているのを見ていると、そこには何回か見たことのある黒いラブラドールが興奮ぎみだが、大人しく鎮座していた。



「ただいま、ナイト。いい子でお留守番してた?」


「わん!!」


「んー、そっかそっか。」


「わふっ!」



と、頭を撫でたり、身体を撫でたりと仲睦まじげな飼い主と飼い犬のやり取りを黙って見ていたのだが、ふと犬が俺の方に視線を寄越した。その途端、主人が帰って来た嬉しさから尻尾をパタパタと千切れんばかりに振っていたそれが、突然止まった。

そして、物凄い勢いで吠えられた。大型犬なだけあって、吠えられると煩い。



「わっ!こら、ナイト!!」


「………」


「すいません、先生。ナイト、こら駄目でしょ?ほら、落ち着こう?ね?」



吠え立てる犬の首に抱き付いて何とか大人しくさせようとしている神崎のお陰かどうかはわからないが

、本人(犬)はまだ納得していないようだったが何とか吠えるのだけは収まった。

とは言え、まだ不穏に睨まれて唸られているが…。


吠えられることが無くなった俺は、一応ほっとして辺りを見回した。

広めの玄関、すぐそこにはシューズラックが並んでいて、美奈のものらしい靴が並んでいる。あいつは、ほとんどここに荷物置いてるんじゃないかと思うほどの靴の数。それに呆れたものの、一応は他人の部屋なので深く詮索はしない。最も、美奈の事なんぞ知りたくも無いが。

廊下が延びている先にはドアで仕切られた部屋があり、多分そこはリビングだろうと予想が付く。きっとこの分だとかなり広めのリビングだと予想を付けつつ、ふと壁に掛けられた写真が目に付いた。



義妹の頬にキスしている桐生さん。


義妹に思いっきり抱き付いている美奈。


義娘の肩を抱きつつ満面の笑みを浮かべる桐生総一郎。



…やっぱり桐生家の三人は神崎の溺愛度が半端無い。

改めて神崎を敵には回したくないと思う。



見てはいけない物を見てしまったからではないが、素直に思った事が口に出ていたらしい。



「…いいとこ住んでんな、お前…」


「う…元々パパが仕事用に借りてたんですけど…一人暮らしするって言った時にここにしろって。私はこんな広い部屋は嫌だって言ったんです。…言ったんですけど………」


「……ああ、言わなくていい。何と無くだがほとんどわかったから…」



そしてその予想は多分外れていない。

まあここならセキュリティーも万全そうだし、そうそう泥棒だとか変質者とかは入れない。あれだけ娘を可愛がっているあの人のことだ、生半可な物件では一人暮らしなんかさせなかったんだろう。

まあ、家賃なんかは父親が払っているらしいし、彼女一人分の食費や携帯料金は自分のバイト代で払っているようだ。以外に堅実と言うか、何と言うか。

とは言え、これだけ分不相応なマンションに住んでいても、そう言ったちゃんとした金銭感覚があるのは安心する。

これだけ甘やかされているように見えても、ちゃんと現実は見えているらしい。



「ナイト、駄目だよ。唸っちゃ。ほら、機嫌直して。これからお出かけするんだよ。」


「きゅーん?」


「だからごめんね、今日は散歩行けないけど、先生のお家は庭が広いから。だから明日一杯走りまわれるよ?」


「くぅーん…」


「よし!じゃあ私仕度してくるから。ほら、おいで!先生、本当に中入らないんですか?待ってもらっている間、お茶出しますけど…」


「いや、いい。と言うか、それよりも…」




と俺が言い掛けたその時、彼女の部屋の電話が静かなリビングの空間に響いた。

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