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第七十五話

賑やかしい佐田先生はどうやら先生のお友達みたいだったみたいで、しかも雅ちゃんに恐怖を抱いているらしい。あんなに優しい雅ちゃんをあんなに怖がるなんてどうしてだろう…。そう思って病院から帰る途中、マンションまで送ってもらう車の中で先生に聞いてみると実に不可思議な答えが返って来た。



「恭輔の奴、母さんを昔『おばさん』って呼んだ事があってな。その言葉を言った瞬間、あいつの顔色がみるみる内に変わったんだ。言われた母さんは俺達には背中向けてたからよくは知らないが、相当怖かったんだろうな。後から翼が『母さんのオーラがどす黒かった』って言ってたから。」


「…み…雅ちゃんって、怖いんですね…。覚えておきます…。」



この頃になると点滴が効いてきたのか、大分身体は楽になって普通に会話出来るようにはなっていた。とはいえ、流石に精神的なショックもあったので、私がぽつぽつと呟いた言葉に先生が一言二言返すという感じだったけれど。


しかし。


私はこれから遠藤邸にお邪魔するのだろうか。こんな格好で?

いやいや、あれは先生が気を使って言ってくれただけであって、本気じゃない。そう。どうしてどうして、生徒の分際でわざわざ先生の実家に…しかも日本有数、いいや、世界でも有名な『あの』遠藤家にどうしてお泊りなんかできようか!

…とはいえ。いくら反対しようが何を言おうが、結局それを却下されまくった私はしょうがなく先生の言う通りにあの大豪邸にお泊りする破目になった。

なんてこった。


会話も途切れ再び車内は静かになった。ぼんやりと車窓を見ていると、いつの間にか見慣れた道路に入っていた。ここまで来ればあと少しでマンションまで着く。

ナイト、待ってるだろうな。今日は朝しか散歩行けなかった。きっと行きたくてウズウズしてるはず。そうなると動きたくて仕方ないナイトが、大人しく車に乗るはずがない。



「先生…やっぱり私…いきま「却下。」…だってナイトが………車に…そうだ。先生、この車に犬乗せたくないでしょう?だとしたら…」


「ラブラドールだろ、あの犬。だったら余裕。」


「…ですよねー…」



どうして今日に限ってヴォクシーなのよぅ…!!て言うか、先生何台車持ってるんだろう。そう言えば翼さんが二、三台って言ってた記憶がある。…けっ、お金持ちめ。

だけど、広めの車内が思ったよりもリラックス出来る環境になっていてほっとする。カーフレグランスの香りはしないし、小うるさい音楽もかかっていない。まあ私が病院帰りだからなのかもしれないし、それはカーナビが付いている隣のパネルにi podがあるのでなんとなく。だけれど。


なんとなく後部座席でそんな観察をしていると、信号が赤に変わって車が停まった。

先生は運転席から顔を覗かせて「大丈夫か」と聞いてきたので、頷いておいた。既にマンションは見えていて、この信号を超えればもう何百メートルも行かないうちに着く。それを確認すると、凭れていた身体をのそのそと直し、エントランスに行く準備をした。

取ってくるものと、必要な物。あとはナイトのハーネスと、エサとペットシーツ…。結構荷物あるかもしれない。


…こんな状態で荷物持てるかな、私…。



少し心配して頭の中でいろいろと考えていると、マンションに着いた。



「じゃ…あの、すぐ取ってきます。すみませんけどナイトも連れてくるので…ちょっと時間かかるかも…」


「………荷物結構あるか?」


「え?はい、あると思います。ナイトのものとか、私の着替えとか…」


「だよな…。どれ、俺も行く。勿論、部屋には入らないで玄関で待ってるから、とりあえず持てない荷物は俺が持ってやる。」


「え、いや、あの…」


「ほら、行くぞ。」



と言って、先生は車を降り、わざわざ後部座席のドアまで開けてくれて私が降りるのを待っていると、すたすたとエントランスまで歩いて行ってしまったので、慌てて追いかけた。



「おかえりなさいま……なっ…なんてことっ…どうなさいました!桐生様!」


「あ、ただ今帰りました、羽生さん。え?あ、あの?」



何時ものように笑顔で帰宅を迎えてくれたコンシェルジュの羽生さんが、珍しく焦った表情をしている。どうしたの?と思ったのも束の間、ああ、きっと湿布を貼った頬の事だなと予想が付いた。



「あ、あの、羽生さん…」


「大丈夫ですか!?何かあったんですか!?」


「う、うん…。あの、あの、ね…?」


「こんばんは、この子の学校の教師をしてます、遠藤と言います。この件に付いては現在対処中ですので、どうか心配なさらずに。」



先生は大いに慌てている羽生さんにそう言うと、羽生さんも落ち着きを取り戻したのか、いつものように

平静を保ってくれた。

それでも心配そうに声をかけてくれる羽生さんに対し、苦笑しながらも「大丈夫」と言うことができた。玄関ゲートを開ける際、あとでもう一回来ますねと言って、そのままゲートをくぐりエレベーターに乗り込んだ。


勿論先生も一緒に。



私の部屋は五階の一室で、すぐに着くんだけれど…如何せん沈黙が痛い。早くナイトに会いたいよぅ。


あ。



忘れてたけど、ナイトって若い男の人嫌いなんだよね。…大丈夫かな。



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