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第七十四話

何か物音がして、その音でふっと意識が浮上する。


熱い。


物凄く熱い。



なんでこんなに熱いんだろうと思って身体を捩ろうと思うのだけれど、それも身体が重くて叶わない。

目を開けようとして驚いた。何かで接着されたんじゃないかと思うほど、目が開かない。

それでも何とか頑張ってなけなしの力を振り絞って目を開けると、視界に入って来たのは見覚えの無い真白い天井だった。



「…ぇ……」



ここは…一体何処だろう?

一応動かせる首をぐるりと天井から横に向けると、細いチューブが見えた。それの終着点を辿って見ると、どうやら私の腕にあるらしい。発着点はといえば、頭上にある点滴からそれは伸びていた。


確か私は学校の保健室にいて…そう言えば愛理ちゃんが熱があるよとかなんとか言ってたような記憶がある。

うーん…そこから記憶がないってことは、多分私が意識を失ったかなんかしちゃったのだろう。そしてそれを見かねた保健の先生か担任のおじいちゃん先生かが病院に連れて来てくれた…んだと思う。

なんにしても一言御礼を言わないといけない。



「あ、気が付いた。どう?身体起こせそう?」



ぼんやりする頭でいろいろと考えていると声がして、そちらを見ると病院服を来た人が立っていた。IDカードを見ると『佐田恭輔』と書かれていて、それでその人が医師なのだと判断。先生の問いに、ぼーとしながらも頷いて返事を返した。



「丁度点滴も終わったところだったな。はい、腕出して。針抜くから。」



と言われて大人しくチューブが伸びた腕を出す。いつの間にかジャージに着替えさせられていたのに気がつく。多分愛理ちゃんが着替えさせてくれたのだろう。

本当にいろいろと迷惑をかけてしまった。でも愛理ちゃんがいなかったら、あの時確実に私は…。


そこまで考えて、意図せずぶるりと震えた身体を抱き締めるように小さくさせると点滴の後処理をしていた佐田先生が気が付いた。



「まだ熱あるみたいだから、今日は、と言わずに明日も大人しく寝てるんだよ。学校は休んでもいいから。って…あ、もしかして皆勤賞とか狙ってる?」


「…あの、い、いいえ。狙って無いです。」


「じゃあ明日休んじゃえ。」



ケラケラと笑ってカルテに何かを書いている先生を苦笑して見ていると、カラカラと入り口のドアが開かれた。



「お、亨ってばナイスタイミング。この子目が覚めたぞ。」


「ああ。じゃあ、連れて帰れるか?」


「おう、いいぞ。明日は学校休むように言っておいたから、学校の方には言っておいてくれ。なんだったら今週一杯休めるように診断書でも付けてやるけど。どうするー?桐生さん。」



しばらくぶりに桐生と呼ばれて、一瞬間が空いた。それを見ていた大人二人が訝しげな顔をしたものの、その反応は単に具合が悪いからだと思われたらしい。

ふるふると首を振って診断書はいらないと示すと、「そう?」と佐田先生がカルテにまた何かを書きこんでいたのを、やはり熱の下がりきらない頭でぼんやりと見ていた。




桐生  唯。



捨てようとしている名前で呼ばれることほど、自分の身勝手さを思い知る事はない。

だからと言って、勝手に名乗っている『神崎』と言う姓もまた、自分のワガママの結果でしかなく。


結局は、私は私のままで。


でも何かに依存したくて堪らない。


寂しくて、寂しくて。




全部のぬくもりを拒否しているのは私なのに。





「おい、どこか痛いのか?」


「…え…?」


「泣いてる。」



先生に指摘されて気が付いた。

どうやら私は涙を流していたらしい。のろのろと手の平でそれを拭おうとしていると、目の前にティッシュが差し出された。



「あ…ありがとうござい、ます…。」


「別に。」



むっつりと言う先生に萎縮しながら、涙を拭いているとふと疑問が浮かび上がった。何で先生がここに?



「…あの、なんで先生がここにいるんですか?」


「は?俺が連れて来たからに決まってるだろ。」


「な、なんで遠藤、先生が…。保健室の先生とか、担任の先生とかじゃない…」


「俺が車持ってて、尚且つお前の色々な事情を知ってるからだろ。全く、何で俺が…」


「…す、すみません、なんか…」



如何にも面倒くさい事この上ない。みたいな顔で言う先生に、少ししゅんとしていると佐田先生が抗議の声を上げた。



「亨!病人相手にきつい事言うんじゃないっつの!!」


「病人がいるのに、お前みたいに大声出す方が問題だろ。」


「うっわ、ムカつく!ね、桐生さん。こいつ、本当に先生してる!?俺どうしても信じられないんだけどさ!!」


「…あ、あの…?」


「ほら、帰るぞ。恭輔の馬鹿は放って置いていい。どうせコイツが興味あるのは人の脳味噌だけだしな。」


「失礼な!!俺は女の子にも興味ありますーーーー!!」



喧々囂々。

目の前で繰り広げられている光景を唖然として見ていると、先生が私に言った。



「母さんがうちに連れてこいって言ってる。どうする?」


「????なんで、雅ちゃんが…?」


「お前、今日本に三人ともいないんだろ。心細いと思って、本当はばあさんに頼もうと思ったんだんだがいなくてな。母さんに頼んだら二つ返事で『連れて来い』って。」


「…雅ちゃん…でも、あの、私、あの…ナイトが…」


「ナイト…ああ、あの犬か。大丈夫だ、母さんも父さんも犬好きだしな。」


「はいっ!俺、質問!!」


「………なんだ、恭輔…」



嫌そうな声で佐田先生を見た遠藤先生は、これでもかという位嫌そうな顔をしていた。



「なぁなぁ!雅『ちゃん』ってなに!?あのおば…………雅さんを『ちゃん』付け!?亨、一体この子何者!?」


「普通の女子高生。」


「嘘だ!!お……雅さんを『ちゃん』付けだなんて!!俺の世界が崩壊するぐらいの衝撃だ!!ねね、桐生さん。君本当に何者!?」


「…あの…?」


「気にすんな。こいつは母さんに対しての恐怖心が尋常じゃないから。」



あの雅ちゃんに対して、恐怖心?



「雅ちゃんに?」


「また言った!!凄いよ、この子!!そう思うだろ、亨!!」


「……帰るぞ、神崎。」



一向に興奮したまま収まりを見せない佐田先生に見送られて、私と先生は病院を後にした。

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