第七十話
六十八・六十九話の愛理の話していた内容を変更しました。
「ねえ、愛理ちゃん…さっきの話って…」
愛理ちゃんは、先程何やら良くわからない事を言っていたような気がする。
確か、公式なんとかかんとか…。
頬を冷やしながら愛理ちゃんに聞くと、彼女はベッド脇にパイプ椅子を出してすぐ側に座った。
ちょっと照れ笑いのような、バツの悪いような笑顔を浮かべながら。
「あのね、『唯姫を護ろう☆皆の衆』って言うのは、唯ちゃんに変な虫が付かないように先手を打っておく、もしくは排除するって言う会なの。」
「虫?蚊とか、ゴッキーとか…そう言うの…?」
虫って何だろう。そりゃあ確かにゴッキーは嫌いだけど…。
「…ああ、うん。そう言う感じね。」
「?」
「まあ、とにかく。篠宮先輩が発起人でもあり、会長でもあるのね。だからこその組織力と団結力と実行力!だから唯ちゃん、安心して高校生ライフを送れるわよ!!」
「あ、ありがとう…?」
力説している愛理ちゃんをどこか遠い目で見ながら、頬を冷やすためにタオルを冷たい方へとたたみ直していると、「もう一回水に濡らして来るね」と愛理ちゃんが言ってくれたので有難くその言葉に甘えた。
そう言えば…どうして愛理ちゃんがあの場にいたんだろう…。
ぼーっとしたまま考えていると、ブルリと悪寒がしたので着ていた服をかき合わせた。
ふと目線を落とすと、先生の白衣がちょうど私の体をすっぽりと覆うようになっている。こんなに体格差があるんだな…とぼんやり考えていると、愛理ちゃんが戻って来た。
ありがとうと言って冷えたタオルを受け取ると、私は彼女に質問を投げかけた。
「ねえ愛理ちゃん…もういっこ聞いていい?」
「うん、何?」
「どうして愛理ちゃんは、あそこにいたの?」
「…うん。聞かれると思ってた。あのね…『皆の衆』会の事もあるんだけど、唯ちゃん以外のクラスの全員で話し合ってた矢先だったんだ。あの子…吉川さんって言うんだけどね。吉川さんって、会長の事好きすぎて結構中等部の頃からイタイ事してたみたいなの。まあ、これはもう知ってるかもしれないけど、だからこそクラスで話し合ったんだ。吉川さんなら絶対唯ちゃんに何かするって。だから皆で決めたの。唯ちゃんを皆で護ろうってね。」
「クラスで…?」
「うん、そう。だから綾乃もわかってたから放課後に言ってたでしょ?『誰かに呼び出しとかされてものこのこ行ったら駄目だからね』って。だけど今回は誰もこんなことになるとは思っても見なかったとは言え、どこかで危険信号鳴ってたのかもしれない…。だから、なんか急に不安になって私教室に残ってたの。他にもクラスの子が何人か残ってたんだけど、私はたまたま喉乾いたから購買部に行こうかなと思って廊下歩いてたの。そしたら、再テスト受けてた子と会ってね。その子に唯ちゃんの様子を聞きたんだけど、遠藤先生もいるから安心かなって思ってたんだ。そしたら遠藤先生が呼び出されたじゃない?」
愛理ちゃんが言う言葉に、首を縦に動かす。
そう、遠藤先生が呼び出されてからあの変態が…。
あの光景を思い出し、再び悪寒がしてふるふると震えてしまう。はっと気付いた愛理ちゃんが、ベッドに横になった方がいいよと寝かせてくれた。
「唯ちゃん…大丈夫?」
「…だいじょ、ぶ…。」
「ちょっと、ごめんね。」
そう言うと、私のおでこに手を乗せた。
ひんやりした手が気持ちいいなと、目を閉じる。すると、愛理ちゃんが短く「うわっ…!」と声を上げた。
「ちょっ…!唯ちゃん熱あるよ!!」
「…ねつ…?」
「待って!体温計、体温計…!あ、あった!!」
急に慌て出した愛理ちゃんをボーっと横になりながら見ていると、体温計が差し出されたので大人しく体温を測った。
ピピピピっと電子音が鳴って表示を見る頃には、私が感じている寒さはもうどうしようもなくなっていた。
「うっそ…!37.7℃…!!え、どうしよう…保健室の先生は外出中だし…」
「…さむ…ぃ…」
「えー?どどど、どうしよう…。とりあえず暖かくしないと!毛布、毛布…」
焦っている愛理ちゃんをどこかおかしく思いながら、そこで私の意識は途切れた。
『唯姫を護ろう☆皆の衆』について。
☆会員資格…神崎唯に多大なる護ってあげたい願望がある人間。
☆会員規約…抜け駆け厳禁。何時いかなる場合も、姫と想いを通じるような事があった場合、大人しく会員達のやっかみと八つ当たりを覚悟する事。
龍前寺父が理事を務める学校全体(中等部・高等部・大学部)で、会員数は遠藤亨ファンクラブ、龍前寺翔ファンクラブの総数を超えるぐらいの規模を誇る。
会長は高等部生徒会副会長、兼、剣道部副部長・篠宮奈津美。
□藤田愛理 16歳
唯の高等部からの友人。性格は至ってノーマルだが、たまにドSになるときがある。
唯・綾乃と三人でよく遊んだりしているが、高校からの友人なので唯の家庭事情をまだ知らない。
『唯姫を護ろう☆皆の衆』の会員。