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第六十八話

「何してんだ、お前。」



いつも怒られる時以上の低い声。

自分の長くて今は乱れた髪の隙間から目の前に立ちふさがっている人物を見上げると、顔は見えないものの、圧倒的な憤怒を纏っているようだった。


どこかぼんやりと…しかし混乱した頭でその光景を見ていると、ふわりと香った匂いに気が付き、その在所を探せば、それは白衣で。

谷野先生の匂いがこびり付いている私の身体、それがとても耐えられるものでは無かったのに、何故か遠藤先生の着ていた白衣の匂いが不安と混乱を抑えてくれているように感じて、少しだけ…ほんの少しだけホッとする。

そう言えば今し方、先生が私に白衣をかけてくれたなと思い出し、自分の格好を今更ながらに自覚した。


元々短い方では無かったとは言え、膝上のスカートは太腿(ふともも)まで捲れ上がっているし、制服のブレザーは片腕だけが辛うじて引っかかっている状態で、引きちぎられたブラウスはボタンがいくつか飛んでいた。ボタンが意味をなさなくなったブラウスからは完全に下着が覗いている。付けていたブラは一応無事だったけど、胸に残った赤い指の跡を見るや否や、血の気がザッと引いた。

目線を移して両手首を見ると、そこにも押さえつけられた時に付いた赤い痣。


今までに起こった事をフラッシュバックさせた私は、ガタガタと震え先生が羽織らせてくれた白衣を必死に握り締めて前を合わせた。


身を縮こませて今起こった事を辛うじて堪えていると、すぐ隣から声がかかった。



「神崎ちゃん、大丈夫!?」



早乙女先生だと言うのは声でわかったが、顔を上げる事が出来ない。ふと、頭に何かが触れる感触がし、その瞬間私はひっと言う短い悲鳴を上げて、その感触を振り払った。



「あ…ごめ…」



私が振り払ったのは早乙女先生の手だったらしく、振り払われた手を見て驚いた様な表情を見せた先生に対し、私は罪悪感に襲われた。しかし、そんな私の内心を知ってか知らずか、いつものようにへらっと早乙女先生は笑った。



「もう大丈夫だからね。何にもされてない?」


「その状態で何もされてないわけないだろ、馬鹿。」



先ほどの低い怒声とは一転、呆れたような声音をさせた遠藤先生はその秀麗な顔に心配そうな表情を乗せ、私の前にしゃがみこんだ。



「神崎、お前あいつに何された。」


「ちょっ!直球すぎ、遠藤先生!!」


「お前は黙ってろ。神崎、俺と早乙女にはどう見てもお前が谷野に襲われてるようにしか見えなかった。一体何があった。」


「…あ…あ、あの………」



先生方の心配そうな顔にも、間違いなく怒りの色が見え隠れしている。だけど、私がただ震えて声を出せずにいる中で、場違いなほどの裏返った声で「違う!」と叫ぶ谷野先生がこっちに向かって来たのが見えた。

その姿を見て私は反射的に身を引いたけれど、それより早く先生達が立ちふさがってくれた。



「僕が襲った!?何を馬鹿な事を言うんだ、君ら!!」


「どっからどうみてもてめぇが襲ってただろ。」


「だから違う!神崎が誘ったんだ!あの子がテストの答えを教えてくれって言うから!勿論、何を言ってるんだって叱ったよ?それなのに神崎は一歩も譲らないんだ!そればかりか、自分から迫ってきたんだ!」



私は目を見開いて、その言葉を反芻した。

どう考えても私が谷野先生に迫った記憶なんてないし、テストの答えを教えてくれって頼んだ覚えもない。



「…っ!ち…ちが…!!私何も…!」



反射的に顔を上げて反論すると、意地の悪そうな顔と目が合った。

この顔は、さっきまで私に圧し掛かっていた時にしていた表情…。



「あぁ、もしかして色仕掛けをしてまで再テストに受かりたかったんだね。まぁ確かに24点は無いよ。だけど、自分からブラウスを引きちぎるって言う行動はどうかなぁっておも」



――バン!!!――



突然響いた音。それは遠藤先生が机を思い切り叩いた物だとわかるのには数秒かかった。何故なら、それ以上に怒りのオーラがビシビシ感じられたから。



「…悠生……」


「は…はい!!」


「生徒会の誰か呼んでこい。今なら篠宮か誰かいるだろう。」


「生徒会?」


「出来れば龍前寺がいい。それから理事長に話持ってくぞ。」



そう冷たく言うと、早乙女先生は「はい」と言う短い言葉を発した。「ちょっと待て」と焦っている谷野先生を完全に無視し、踵を返した早乙女先生。

だが、早乙女先生がドアを開けようと取っ手に手をかけた瞬間、にっこりと満面の笑みを浮かべた愛理ちゃんがそこに立っていた

しかも何故か、その手には私のノートを破った持ち上がりの彼女の髪の毛が握られて…

って…


え?



「唯ちゃん大丈夫?あのねー、遠藤先生、早乙女先生。この子主犯格。はい、これ証拠。」



そう言って髪の毛を鷲掴みにしていた反対の手からぷらんと差し出されたモノ。それは彼女の物らしい携帯で、その光景を呆然と見ていた私達は愛理ちゃんの真っ黒すぎる笑顔を見た。



「なんかねー、唯ちゃんが襲われてるところをケータイで撮ってたみたいですよ。あ、谷野先生、勿論先生の変態行為も入ってますから~。唯ちゃんが誘ったとか、そんな可笑しな事言って言い逃れ出来ませんよ~。」


「え…愛理ちゃん…?」


「うふふ、谷野先生?逃げたら私達総出で追いかけますからね。勿論、地獄の果てまで♪」



………。



「藤田ちゃん…?全員って何の事かなー…?」


「ああ!早乙女先生は知らないかもしれませんね!!実はうちの学校には、唯ちゃんの公式護衛会、通称『唯姫を護ろう☆皆の衆』っていう会があるんです。」



え。



なにそれ。



そこにいた愛理ちゃん以外が固まった瞬間だった。



あれ…シリアスになるはずが…。

愛理の詳しいプロフは次回!

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