第六話
あの夏の暑さが嘘みたいに、最近はめっきり寒くなった。昼の暖かさがなりを潜めて、ひんやりとした空気に変わっている。
近くとは言え、私は根っからの寒がりなので、解す予定の白いマフラーを首に巻いてコンビニに向かった。
コンビニへ向かう道中、思い出したのは、日本史の遠藤先生だった。
確かに女子…というか女の人にモテそうな容姿をしている。
はっきりした目鼻立ちで、それが絶妙なパーツ形成を取っている。少し色素が薄い目、それにちょっとだけ癖のある焦茶の髪。180cmをゆうに超えた長身。
加えて、経済界でも有数の規模を誇る遠藤グループの御曹司。年はー…28歳だっけ。
何よりふとした仕草が色気を纏っている…らしい。らしいと言うのは私が興味がないから、そこまで見ていないからで、皆から言わせれば『フェロモン垂れ流し』だそうで…
垂れ流しねぇ…。そうなの?全然気にしてなかったな。
今日皆が教えてくれた話では、この学校には遠藤先生の非公認のファンクラブなるものまであるらしい。
学年や男女問わず(問わなきゃいけないんじゃ…)入会できるが、もし抜け駆けしたら、ファン全体から総攻撃される。
ファンクラブ内でもそうなのだから、もしもファンクラブ以外の誰かが先生の彼女になったら、大変な目に合いそうだ…。かと言って、あの先生が高校生なんかに興味を持つとはとても考え難いのだけれど。
あと綾乃は、若い女の先生も狙ってるんだってーと教えてくれた。
中でも家庭科の有紗先生が本命の彼女っぽい!!と興奮しながら話していた。
だけど、皆が騒ぐほど私は先生がいいとは思えない。
皆が感じているものが、どこか無機質に。とても冷たく見える。
なーんか、すーごい遊んでそうな雰囲気がするんだよねぇ。って言ったら、クラスメイトによると、『来る者拒まず』主義だって言ってた。なんだ、やっぱり遊んでるんじゃん。
と若干失礼な事を考えていたら、すでに目的地に着いていた。
コンビニに入って、すぐにお豆腐を手に取る。
ちょっとだけ雑誌コーナーを覗くと、モデルをしているお姉ちゃんが表紙のファッション誌が何冊も置いてあったので、思わず近くの一冊を手に取った。
ふわー、お姉ちゃん綺麗ー。キラキラしてるよ。
そこには、艶やかな微笑みをたたえたお姉ちゃん。思わず見とれていると、見慣れた名前が表紙に載っていた。
目的のページまでパラパラと捲っていると、お兄ちゃんの特集が組まれていた。
兄姉で同じ雑誌出てるよ…。
と笑いながら、お兄ちゃんを見やる。
お兄ちゃんも遠藤先生に負けず劣らず美形だ。
お兄ちゃんは柔和な目元が印象的だ。中性的な顔立ちに、常に微笑みを浮かべたような淡い栗色の目。。端正という言葉がよく似合う。
彼は大学に通っていた頃、パパがチーフデザイナーを務めていたブランドで、アジアの広告塔になった経歴を持っている。
もちろん、コネではなく実力で勝ち取ったらしい。
兄が広告になった写真の反響は凄まじく、今や広告界の伝説となっている。
それからは、自身がモデルだった経験を生かし、今や新進気鋭の若手デザイナーとして国内のみならず、海外でも活躍が有望視されている。
その為、メディアの関心も非常に高い。
端正な容姿に加えて、スラリとした背格好。新しい服を熱心に語る彼が載ってる雑誌は、売上げが驚異的に上がるらしい。
その恵まれた容姿だが、どうやら産みの母親似らしい。
その彼女の写真を見せて貰ったけど、とても美人な人だった。
彼女は、忙しい夫とのすれ違いに耐えられずに、子供達を置いて他の男の元に走った。
詳しい話を知りたいけれども、義父や義兄、義姉の口からそれが語られる事はない。
まだ幼かった息子と娘を残して出て行った彼女を、彼等はとても嫌っている。
仕事では凄いのになー。なんであんなに私にべったりなんだろう。
まったく、早くお兄ちゃんに彼女出来ないかなー。
パタンとページを閉じ、棚に戻した。来たついでに、新作のチョコレートも一緒に手に取りレジへ向かう。ありがとうございましたーと言う店員の声を背に、家路へと急いだ。
美形をどのように表現するのかって、意外に難しいものだっていうのがわかりました…(撃沈)
精進精進…