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第六十二話

少し、急展開します。

遂にやってきた再テスト日。水曜日の放課後に指定された教室へ来いという通知があったのは週明けで、月曜、火曜と死に物狂いで勉強した。勿論その勉強がてらバイトに行ったり、パパとお兄ちゃん、お姉ちゃんとの電話にメール攻撃を毎日返し、その忙しい中でもお姉ちゃんと彰義さんとの関係に頭を悩ませたりしていた。そのお陰で少し寝不足だ。

最近寝不足の頻度が高いような気がする。ちゃんと睡眠時間は取れているはずなのに…やはりN.Yから電話をかけてくるパパのせいなのかもしれない…。


ふあー…とあくびをしながら、昼休みのお弁当を食べる。もちろん、ちゃんと日本史の再テストぶんの勉強したノートがご飯のお供だ。

特に素敵とも思えない徳川秀忠の肖像画を見ながら、秀忠さんの事業を頭の中に叩きこむ。そう言えば来年の大河に出るとか、出ないとか綾乃が言ってたような気がする。正直そんなのに興味はないけれど、綾乃が好きな俳優さんが出るとか出ないとか…。私はテレビをあんまり観ないので、俳優の名前を言われてもピンと来ないのが実情だ。



「神崎ー、お客さんだよー!」


「はいはーい。ちょっと待って下さいねー。」



クラスメイトの男子から声が掛かって、じーっと見ていたノートから目を上げた。教室の入り口にいるのは四人程度の女の子達。よく見るとリボンの色が違う。という事は、持ち上がりクラスの子達か。一体何の用だろう。

はて?と疑問に思っていると、その子達がズカズカと教室の中に入って来た。クラスの子達が嫌そうな顔をしていたけれど、それに私は気付く事が出来なかった。



「神崎さん?ちょっと顔貸してくれない?」


「私の顔はレンタル出来ませんけど。」



あれ、何で怒ってるの?



「あんた、馬鹿にしてんの?」


「してませんよ。されたと思ってるんだったら、それは自分が馬鹿な事をしてると思ってるからでしょ?」


「っ!!いいから顔貸しなさいって言ってんのよ!」


「だから、私の顔はレンタルしてませんって。それに、今私忙しいんです。明日とかじゃ駄目なんですか?」


「あんたに断る権利なんてないのよ!!さっさと来なさいよ!!」



えー、面倒くさーい。それに、今少しでも勉強しないと放課後の再テストに間に合わないんですけどー。そう言うと、彼女達はあからさまに人を小馬鹿にしたような笑い声を漏らした。



「あんた、再テストなの?新入生代表までやっておいて?」


「やーだー!途中組なくせに頭悪いわけー?再テストって超恥ずかしいー!」


「あのー…あなた達は何しにうちのクラスまで?早く用件言ってもらえません?勉強する時間なくなっちゃうんですけど。」



カチンと来たけど、でも再テストなのは事実だし反論は出来ない。なのでぐっと言葉を飲み込んで、彼女達を教室から出て行かせようと思った。それに心無しかクラスの雰囲気が悪くなっているような気がする。今まで談笑していた皆が彼女達を凄い目で睨みつけているのは気のせいではないだろう。今は生憎綾乃と愛理ちゃんが購買部にお昼を買いに行っているので不在だけど、いたらものすごい憤慨していただろうな。



「ここで言っちゃってもいいわけ?」



にやりと笑ったリーダー格の子。名前何て言ったっけなー…。吉田…吉田…吉田?あれ、吉田だっけ?



「良いですよ。」



彼女が何を言っちゃってもいいのか、さっぱりだ。

名前を思い出そうとするけれど、やっぱり出て来ない。参ったなー。



「じゃー、言うけど。あんた、翔様と付き合ってんの?」


「……は…?」



龍前寺会長と私が付き合ってる?

何がどうして、どこがどうなってそうなったのさ。



「とぼけるんじゃないわよ!あたし達見たんだからね、電車で一緒に帰ってるの!!」


「翔様の降りる駅通過してあんたと一緒に駅から降りたじゃない!!」



…えーっと…。それはこの前の日本史で撃沈した日の事かな?

ああ、そういえば確かに会長と一緒に帰った気がする。でも会長とはマンションの前で別れたし、駅で降りたってだけで付き合ってるって直結するのは安易過ぎるような気がするのだけれど。

あー、もしかしたらマンション見られた?会長と付き合っている云々より、そっちの方が何気にマズイ。万が一見ていたらヤバイので、話の本筋を逸らそうと話を続けた。



「会長が降りる駅、把握してるんですか?」


「当たり前じゃない!!翔様を見るために、毎日毎日同じ電車に乗ってるんだから!」


「うわー…ストーカーっぽいですねぇ…」


「なんですってぇ!?」


「あ、気に触ったんならごめんなさい。ていうか、私と龍前寺会長は別に付き合ってないですけど。それに、私が付き合ってるとなんで思ったんですか?駅での事以外にあるんでしょう?」



全く、偉い誤解をされたもんだ。迷惑、迷惑。

すいません、会長。心の中で謝っておくので、許してくださいね。



「はあ!?あんなに翔様と仲良くしてるじゃない!!」


「それだけで私と会長が付き合ってるって考えたんですか?早計過ぎますよ。それに、そう言う事は直接会長に言えばいいじゃないですか。何でいちいち私に聞きにくるんですか。私だって急がしいんですよ。それなのに、私の都合をまるっと無視して勝手に勘違いして怒鳴り込んでくるなんて、それこそ会長が嫌がりそうなものですけどね。」


「ほんっとムカつく、この女!!」


「だから。ムカつくのはこっちだって言ってるんですよ。自分達が勝手に早とちりしておいて私に逆ギレしてんじゃないって話。わかったらさっさと出て行ってくれませんか?ほら、皆にも迷惑かかってるでしょ?」



ぐるりと見回すと、明らかにクラスの皆が彼女達に冷たい目線を送っていた。そもそもあまり仲が良くない持ち上がりの子達がうちのクラスに来て、好き勝手に喚き散らしたのが気に入らなかったのだろう。もしかしたら煩すぎた…?あー、あとで皆に一言謝っておかなくちゃ。折角の昼休みなのに…。

と思っていると、彼女達のうちの一人が広げていた私のノートを取り上げた。



「ちょっと!」


「あんた、再テストなんでしょ?って事はそれに不合格だったら補習?うわ、いい気味~!」


「補習って遠藤先生が教えるんじゃないんでしょー?ザビエルよ、ザビエル!」


「だから何!!ノート返してよ!!」


「返して欲しかったら、もう翔様に近づきませんって土下座しなさいよ。」


「あははっ!それサイコー!!ほら、返して欲しいんでしょ?だったら早くしなさいよー!」



なんでそんな事しないといけないの。私何もしてないのに!!

ギリッと唇をかみしめて彼女達を睨んでいると、それまで状況を見ていたクラスの子達が堪りかねたように怒った。



「お前等いい加減にしろ!!人のクラスに来て何言ってんだよ!」


「馬鹿なのはおめーらだろ!何勝手にうちのクラスに入って来てんだよ!!馬鹿は馬鹿なりに持ち上がりだけでつるんでろや!!」


「そうよ!神崎さんにノート返しなさいよ!」


「大体土下座!?唯ちゃんは会長と付き合ってないってはっきり言ってんじゃない!それなのに自分達だけで判決下してんじゃないってのよ!!」


「おい、誰か会長呼んで来い!!こいつらの自己中っぷりで神崎が迷惑してるって言えば、お前等どうなるかわかってんだろうな!!」



騒然となる教室。周りから物凄い勢いで怒鳴られている彼女達は明らかに面白がっていた表情を強張らせ、今や身を寄せ合っている。それでも強きな姿勢を崩さないのはさっきから私に突っかかって来たリーダー格の彼女だった。



「うるっさいわね!!ちょっと頭いいからっていい気になってんじゃないわよ!」


「あ?大体持ち上がりの日本史の担当って、谷野だろ。あいつが作ったテストでいい点取れてても、遠藤の作ったやつと比べりゃあんなんクズだろ。」


「それで良い気になってんじゃないとかって言われてもねー。」


「っ…!どいつもこいつも、中途組のくせに…!!」


「おい、それ俺達中途組に対する宣戦布告だって捉えてもいいんだろうな。丁度いい。他の中途組のやつらも外で見てる事だし、てめーら持ち上がりと中途組、全面戦争と行こうか。」



え…!?ちょっと、それはマズイよ!何でそうなるの!?

何気に廊下側を見ると、ギャラリーが出来上がっていて他のクラスの子達がうちのクラスの様子を伺っている。明らかに憤慨している子もいれば、我感せずと言った子もいる。前者は高校入学組、後者は中学入学組っていう感じだ。

わわわ、皆落ち着こうよ!私だったら大丈夫だからさ!と、思ったら目の前で私のノートが破かれた。



「あ…」


「面白いじゃない!受けて立つわよ!!ほら、返してあげる!もっとも、読めれば。だけどね!」


「わっ!」



咄嗟に手で顔を庇ったけど、その手に当たる衝撃。彼女達は腹いせのように、私のノートの残骸を私目掛けて投げつけて息荒く出て行った。

何人かが私のところに来て、心配そうに「大丈夫?」と声をかけてくれたけど、曖昧にしか笑えなかった。そんな私の様子を見たクラスの子達がまたしても怒ってしまい、結局昼休みの終了のベルが鳴るまで教室は怒りの渦に巻きこまれた。





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