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第五十八話

いつものようにナイトに起こされ、眠い目を擦りながらむくりと体を起こす。起き抜けのぼーっとした頭で、隣に寝ているお姉ちゃんを見下ろした。

何でお姉ちゃんがいるんだっけ…。あー、そうだ。昨日泊まっていったんだ。ついでに今日からグアムに行くって言ってたなぁ。


お姉ちゃんが部屋に泊まる時は、客室のベッドではなく私のベッドで一緒に寝る。何故だか、私のベッドはダブルサイズ。ダブルなんて一人で寝るには広すぎるのに、お姉ちゃんが買ってあげるからとごり押しされて、結局根負けした私は、自分のベッドとして使っている。お姉ちゃんがごり押ししてまで買った理由は直ぐにわかった。泊まるーと押しかけた時、私と一緒に寝るためだったという事は…。

もそもそとベッドから降りて、ナイトを引き連れて部屋を出た。歯磨きやら洗顔を終わらせる頃には、寝ぼけていた頭も覚醒し、着替えてナイトの散歩に出掛けた。


だいぶ寒くなってきた風に身震いしつつ、たっぷり一時間の時間をかけてナイトと散歩をして来た。見逃せない程ではないものの、やっぱり太ったナイトには運動をさせなければ!

帰って来た時には珍しくお姉ちゃんが起き上がっていて、相変わらずの低血圧っぷりを披露していた。そんなお姉ちゃんを見つつ、ナイトの脚を拭いて部屋に上げ、水を与えてから朝食を作る。


いつもと変わらない光景だけれども、相変わらず胸にもやもやと残っているのは彰義さんの事で。

元々内緒話の類が苦手で、どうしてもはっきりさせておきたい時は、玉砕覚悟で本当のところを聞いてみたりした。まぁそれが、幸となった記憶はあまりないけれど。でも、そうして心の平穏を保つのは必要だと思う。

かと言って、直にお姉ちゃんに『彰義さんが浮気してるの?』とも聞けるはずもなく…。


なんとなくベーグルサンドを作る手が重い…。レタスやらトマト、ベーコンと目玉焼きを挟むだけの簡単なサンドイッチは、見かけに通りに量が多いが、お姉ちゃんはこれをリクエストしたのできっと食べてくれるだろう。

昼からのバイトだから、割とゆっくり出来ると思いながらナイトにエサを上げていると、バッチリ決まったお姉ちゃんが挨拶代わりとばかりに抱き付いてきた。まぁ何時もの事なので、私もぎゅうっと抱きつくとほっぺにちゅうされた。いつも思うんだけど、パパもお兄ちゃんもお姉ちゃんも、ちゅう好きだよね。…ま、いっか。



「「いただきまーす」」



もぐもぐと食べている時に、帰国する日などの細かい事を聞いた。一週間だというから、あちらからのメールは毎日するねという満面の笑顔付きで。

和やかに朝食を取っていると、お姉ちゃんがふと言葉を零した。



「そう言えば、彰義君にも最近会えてないんだよねー。」


「ぐっ…!ごほっ!!」


「やだ、唯、大丈夫?はい、お水。」


「ん…ごほっ、ありが…ごほっ!」



急に言うんだもん。予想してなかったから、驚くよ、そりゃあ。

とは言え、水を飲んで息を整え、涙目になってるなと自覚しながらお姉ちゃんを見る。心配そうに覗きこんではいるが、その顔はあくまでも私を気にしているのであって、彰義さんの事を微塵も疑ってはいなさそうだけど。



「大丈夫?」


「う、うん。大丈夫だよ…それより彰義さんに会えてないって…」


「そうなのよねー。昨日もね、グアムに行く前に会う約束してたのに、急に仕事が入ったって。まぁ、営業職だから、休日出勤なんて事はいつもだったんだけどね。最近本当に忙しいのか、前みたいに会えてないの。寂しいけど、私も仕事で予定がなかなかつかないし、難しいわねー。」


「…そうなの…?」


「うん。ここに来て倦怠期かー。クリスマスに期待しようかな。」


「そ…そうなんだー…」



あはははと引きつった笑い顔をしている自覚はあるものの、それがお姉ちゃんに追求される前に出なければいけない時間になったらしく、慌しくベーグルサンドを頬張っているお姉ちゃんに、憂いの思いはないようだ。朝食を全部食べ終わり、ナイトの頭を撫でてハグしてお姉ちゃんは出て行った。

急に静かになった部屋で、一人でもそもそとベーグルサンドを食べるけれども、どうにもこうにも食欲がわかない。こんな事は珍しいけど、私が大抵こんなもやもやしている気分の時は、食欲にもろに出る。なんとか最後の一口まで食べ終わると、嫌な気分を一蹴するために部屋を掃除することにした。


綺麗な部屋には、綺麗な気が宿るというらしいので、いつもはやらない窓拭きなんかもしてみる。抜群に透明感を増したガラスから見える空は、今日も青い。

幾分気分が回復して、次々と掃除していると、バイトの時間になっていた。



「おはようございます。」


「おはよう、最近めっきり寒くなったねー。」


「そうですね。あ、桜さん、見てくださいよ。昨日、新しいマフラーが編みあがったんです。」


「へー…ほうほう、なかなか凝った編み方だねぇ。さすが唯ちゃん。」



昨日と言わずに、一昨日あたりに出来上がっていた新しい赤のマフラーを今日初めておろした。凝った編み方と言われても、そうかなーと言う感じだけど、桜さんから言わせれば凝っているらしい。

お客さんの入りも上々で、ふとお客さんが切れた時に、お姉ちゃんの事を漏らしたのがきっかけで少し話が盛り上がった。



「桜さん、もしも。もしもの話だけど、自分の知り合いの人が、恋人と違う人を連れてるの見た時、桜さんだったらどうする?」


「ん?具体的に言うと?」


「例えば…私の友達の彼氏が、他の女の子とラブホ行って「殴る。」…なぐ…即答ですか…?」


「当たり前じゃない。見て見ないフリなんて、あたし出来ないし。二股とか本当最悪。男をボコボコにしてやらないと気がすまないかも。だって、自分の友達を裏切ってるんだし、その浮気してる女にも誠実じゃないんだもん。」


「そうですよねぇ…。」



うーん…。桜さんの意見も最もだ。

二股かぁ…。付きあった事がない私には男女の事はよくわからないけど、やっぱりもやもやしたままなのは駄目だ。お姉ちゃんがグアムから帰国したら、ちゃんと聞いてみよう。それがどういう状況になるのかはわからないけれど、何も知らないまま嘘付かれてるのは良くないと思う。

黙りこくった私を見た桜さんは、怪訝そうな顔をしていたけど、笑ってごまかしておいた。


私は密かな覚悟を決め、お客さんが入って来たのを見て元気よく、いらっしゃいませと声を出した。

次話は亨。遂に、亨の祖父と父が出てくる予定です。

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