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第45話

「神崎ちゃん、英語満点でしたよ。聞いたところによると、数学と国語もほぼ100点らしいですね。凄くないですか?」



金曜日の放課後、日本史準備室で仕事をしていると、悠生が缶コーヒーを二つ持って入ってきたので、有り難くコーヒーを貰い、ついで休憩も兼ねて悠生の話を聞いてやった。

意気揚々とテストの事を話す悠生を見て、軽く溜め息をついた。


そりゃあ自分の惚れてる子が、自ら担当している英語で100点を取って嬉しいんだろうが、こっちは赤点取られてる。おまけに24点の最低点。

見事に神崎の担任に絶句された上に、もう一人の日本史のクソジジイにも下びた笑いと嫌みな言葉を献上された。



「遠藤先生の教え方が駄目なんじゃないですかぁ?私のクラスで、赤点を取った生徒は居ませんでしたよ。それより、補習授業にならないように追試でしっかり点数取らせて下さい。ま、日本史以外は平均90点以上取ってる神崎なら、ちゃんと教えれば簡単なものでしょうから。頼みましたよ、遠藤先生。」



いちいち反論するのも面倒くさいのでさっさと準備室に戻った。

準備室には一応クソジジイの席もあるのだが、あいつは大概職員室の方に入り浸っているので、ほとんどこの準備室は俺一人の部屋と化している。


その為、よくこうして悠生や龍前寺が来たりする。



「そう言えば、亨さんの所はどうだったんですか?日本史。赤点いました?」


「神崎が赤だ。」


「うっそ!?真面目に!?ちなみに何点なんですか!?」


「24。」


「…うわっ…。」



あーあ…と言う感じに口元を覆った悠生は、コーヒーを一口飲んだ。

俺もそのコーヒーを飲んだが、微妙に甘めのコーヒーが疲れを癒やす。



「じゃあ、追試ですか。他に再試受ける子いるんですか?」


「あぁ、当日休んだのが二人いるから、そいつらと一緒に来週再試。まあ、問題は同じだから大丈夫だとは思うんだがな。補習は流石に…。」


「あー…補習もありますもんねぇ。そう言えば、補習授業って亨さんじゃないんでしょ?」


「そう、俺じゃなくて、そっち。」



顎をしゃくって、誰もいない席を示す。

途端に、悠生の顔が嫌そうに歪んだ。



「うわー、ザビエル!?最悪っすね。」


「ははっ、ザビエルって…。」



くっくっくと笑ってザビエルと呼ばれたクソジジイの席を見た。

本当、たまにしか来ない席なのに、何故か教材やらプリントやらが散乱している。整理しろと言ってやりたいが、一応あっちの方が先輩なので黙っているのだが、そもそもあまり準備室に来ないので、言うタイミングも無い。

だがどうにかして欲しいのは事実で、職員室にいるクソジジイに黙って全部棄ててやろうかといつも思っている。


そのクソジジイの寂しい頭頂部の有り様を見てザビエルと呼んでいるのは生徒達だが、言い得て妙なわけで。今や教員達の中でもザビエルで通じるようになっている。

実際、あの男はモデルとなったザビエルの様な生き方はしていないのだが…。

むしろ比べるだけザビエル…いや、イエズス会に対する冒涜だ。



「だって、ザビエルじゃないですか。ていうか、名前何でしたっけ。」


「お前、いくら何でもそれは失礼すぎる。谷野(やの)だよ、谷野。」


「あー…そういや、そんな名前でしたねぇ。でも、ザビ…おっと、谷野先生が補習とかよくやりますね。あの人、面倒くさいの凄い嫌ってるじゃないですか。噂じゃ、矢野が受け持ちのクラスで赤点ないのって、問題をわざと簡単に作ってるって聞いたんですけど、本当なんですか?」



確かにそれはある。

俺のクラスとは少し進行状況も違うのだが、基本的に谷野が作る問題は簡単だ。もしくは、採点が甘め、だからこそ赤点が出ない絡繰りがある。

一応テストの設問に関しては一定の基準がある為、谷野が、とりあえず赤点を出さないように作られた問題を、学但はなかなかOKを出さない。毎回毎回テストの度に、ギリギリまでテスト問題作成に苦慮している谷野の姿はいつしかテストが始まる恒例行事となっている。



「多分、谷野が作ったテストなら神崎も赤点じゃなかったと思う。」


「ははっ!そんなに簡単なんですか?」


「俺やってみたけど、十分で出来た。」


「マジですか!俺もやってみたい!問題あります?」



手元にあった問題を悠生が面白そうに解いている間、明日神崎に教えてやる事になる教材をパラパラと読んでいた。

とりあえず、後で祖母に電話をして俺が神崎に勉強を教えててやる旨になった事を説明して、渡瀬にももう一度、彼女の住んでいるマンションの住所を教えねばと考えていると、悠生が顔を上げた。どうやら解き終わったらしい。


採点してやると、イージーミスはあったもののほぼ満点だった。



「懐かしいですねー、日本史!ていうか、本当に簡単でした、これ。いくら持ち上がりとは言え、こんな問題でいいんですか?」


「いいはずはないな。そろそろ理事長が動き出しそうだし。来年度にはいないんじゃないか?」



くっと口端を歪めて笑うと、悠生が軽く身を引いた。



「うわぁ、亨さんこわーっ…。ま、同情する気になりませんけどね。俺もザビエル嫌いだし、何よりも神崎ちゃんを見る目が嫌い。」



心底嫌そうに言った悠生の言葉が引っかかって、もう一度聞いた。



「何だ、それ?」



「亨さん、気付いてませんでした?ザビエルが神崎ちゃんを見る目が、すんげえ舐めまわす様に見てるの。幸い、神崎ちゃんは気付いてないみたいだけど、アレ、マジでヤバい。もし再試が駄目で補習を受けるのが神崎ちゃんだけだったりすると、危ないと思うんですよね。」


「本当か?」



うんうんと頷いた悠生が、放送で呼び出されてしまったのでその話は終わったが、何とも言えない感じがする。



悠生がああ言っている以上、確かに補習で二人きりにさせるのはマズい…。

これは、本格的に再試で合格点を取らせないといけなくなったな、と少し焦りにも似た思いが俺を支配した。



その後マンションに帰り、早速祖母に電話をした。

珍しく俺からかかってきた電話に初めは訝しがっていた祖母だが、事情を話すと快く請け負ってくれた。



「じゃあ、渡瀬を迎えにやるのは午前中にして下さい。俺も時間を見計らって行きますから。」


『そうね、そうするわ。亨が来るまで、マフラー編んでてもいいしね。あ、でも雅さんがいるわねぇ。』



…いるのか。



「母さんに神崎を会わせないで下さい。嫌な予感しかしないので。」


『善処するわ。じゃあね、亨。早く来なさいね~。』



祖母の楽しそうな声に何やら嫌な予感がしたのだが、聞かなかったふりをして祖母との電話を終えた。


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