第四話
高橋さんが帰って、私一人で住むには広すぎるリビングにお兄ちゃんと一緒に移動する。
お兄ちゃんは海外に行く度にたくさんのお土産を買ってきてくれる。毎回毎回、あまりの多さに次に海外行ってもお土産はいらないと言っても、それが通じることはないらしい。
今回もたくさんのお土産がテーブルの上に溢れている。
これ全部片付けるの大変だなぁ。と思っていたら、小さな箱を見つけた。中を開けてみると、手のひらサイズ程のティアドロップのクリスタルだった。
「うわぁ、可愛い!!お兄ちゃんこれ何?」
と聞きながら、思わず頬が緩む。
「あぁ、これはペーパーウェイトなんだ。可愛いだろう?唯はこういうの好きだろうなと思ってね。NYの店でたまたま見かけた時に買ったんだ。」
「うん、好き。ありがとう、お兄ちゃん!!」
とお兄ちゃんに抱きついた。
なんだか、また流されてるような…
優しく私の頭を撫でていたお兄ちゃんが、ふと視線を上げた。
そこにはソファの脇に置いた私のマフラーと編み棒がある。
そろそろ今年用に新しく編もうかなと思って、去年使っていたマフラーを解そうと考えていたものだった。
解した後の毛糸は、再び手袋か帽子にでも変身予定だ。
「唯、また何か編むの?」
と興味深そうに私の目をのぞき込んでくる。
その顔を手で遠ざけながら答える。
「お兄ちゃん、顔近いよ。うん、今年はね、赤系統の毛糸使って幅が広めなマフラー編もうかなと思って。だからあのマフラー解すの。」
その言葉を聞き、キラキラとした顔をするお兄ちゃん。
「だったらその毛糸で僕のマフラー編んで!!!」
「やだ。」
間髪入れずに答える。
全く毎回毎回、何度言えばわかるのかな。
「私は人には編まないの。知ってるでしょ。」
「僕のたっての頼みでも?」
即却下されたショックからか、些か小声で聞いてくる。
それを見た私は「お兄ちゃんでもやだ。」とトドメをさす。
私は決めている。
『あの』時からもう二度と。
誰かの為に、編むことはないと。