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第43話

雨が夜景をやけに綺麗に魅せる。

紫煙がけぶる薄暗い部屋の中、俺は水滴が付いたガラス越しに、決して消える事の無い夜景を見ていた。

ホテルの部屋が高層階なのもあって、とても美しい。タバコを吸いながら夜景を見ていると、後ろから物音がして、その音のした方を見るとどうやら女が目を覚ましたようだった。



「…ん…亨…?」


「起きたか。俺帰るけど、そのまま泊まっててもいいぞ。ルームサービスでも何でも好きなの頼め。」


「んー…そうね…。どうしようかな…。」



もぞもぞとベッドから女がこちらを見ているが、俺は一瞥しただけですぐに外の夜景に目を戻した。手にあるタバコは既にだいぶ短くなっている。灰皿に押し付けて消した後、再びベッドを見ると、そこにいる女が艶かしく微笑んでいる。退廃的な情景に目を細めるが、女の誘いには乗らないつもりだった。



「この関係ももう潮時だな。」



口火を切ったのは俺で、彼女は酷く驚いた顔をしているが、それが演技なのはわかっている。わざわざそれを口に出すつもりも無い。俯いている風の彼女が、口を開いた。



「…そう…誰か好きな人でも出来た?」


「お前にそんな事を言う義理はない。」


「あはっ、出来たんだ!おめでとうっていうべき?ねえ、誰?私の知ってる人?教えてよー!!」



やけにしつこい女に内心イライラしたが、平静を装った。面倒くさい。それが頭にあったが、この女を下手に扱うと翼の二の舞になるのが目に見えている。直もしつこく食い下がる彼女に、俺達の関係はそんな感情を持ち込まないことを思い出させようと思った。



「『都合のいい関係』の俺に何かの感情でもあったのか?そんな事ないよな。」



ぐっと言葉に詰まった彼女は、シーツを握り締めたまま再び俯いていた。

それを見て部屋を出ようと思って、ベッド脇を通りすぎようとした時に手を引かれた。見ると、彼女が涙を浮かべて上目遣いで俺を見ている。大抵の男はそれで落ちるだろうが、使う相手を間違えてると思う。



「放してくれないか。」


「…確かに都合のいい関係だと思ってた…。でも、亨…私…!」


「そうやって、俺の中に翼を見るんだろ。いい加減、お前も気付けよ。お前は俺じゃなくて、今も翼が好きなんだって。」



目を見開いて俺を凝視している彼女の手を振り払わないように、慎重に外す。ぱたりと力無く投げ出された腕と共に、彼女はただはらはらと涙を流していた。顔を背けて、それを見ない様にした。なんでかわかないが、堪らなく不愉快になったのだ。

泣く位好きで、双子の俺に翼の面影を見るくらいだったら、何故翼と付き合ってる時に二股なんて真似をしたのだろう。二股が発覚して翼と別れた後こいつは、二股した相手と付き合う事がなかった。だが翼だとて、二股で傷ついたはずだ。暫く彼女を作ることがなかったがようやく傷が癒えて、新しく付き合い始めたと思ったら、今度はコイツが妨害して結局何人も別れる事になっている。

コイツと翼の間で何があったのか知らない。ただ、俺がそれに巻きこまれるのは真っ平ごめんだと思う。


…抱いた後で言うのもなんだが。



「…最後に…キスしてくれる…?」


「何で。」


「最後だから…。お願い。」



再び伸ばされた腕を振り払う事は無かった。

触れるだけの軽いキス。伝わる温度はあるのに、全く感じないソレ。

俺とコイツには、何も無い。

確認と同時に終わる関係。


それだけだ。



「じゃあな、有紗。明日、学校でな。」


「…亨って、本当残酷な男…」



パタンとドアが閉まる瞬間聞こえた声に、俺が振り返る事は無かった。

亨がタバコを吸うのはー…?

はい、御名答☆

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