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第四十一話

「違う!年代を適当に書くな!名前を勝手に造るな!」


「江戸の三大改革を行った人物達がバラバラ、しかもなんでこの江戸時代に建武の新政が出てくるんだ?」


「お前は…織田信長、豊臣秀吉、徳川家康くらい覚えておけよ…。」



…ちーん…。

心なしかシャーペンを持つ手がぷるぷる震えてるのは、気のせいじゃないはず。そして、目の前のテスト問題に向き合ってる私が撃沈するのも近いと思う。

隣に座っている先生は既に、可哀想なものを見る目を隠そうともしない。でも文句は言えない。言える立場じゃない。



「壊滅的だな、お前…。それでよく新入生代表やったな。」


「うー…すみません…。あれ…先生、よく覚えてましたね、私が新入生代表だって。すっかり龍前寺会長の影になって、結構忘れてる人も多かったのに。」



そう、私は一応新入生代表で入学式で新入生の挨拶を読んでいた。でも、別に目立った感じはしなかった。ていうか、私の挨拶後の龍前寺会長挨拶の方が大変だったせいで、私の挨拶はかき消されたようなもんだ。



「あぁ、龍前寺な、確かに。」



うんうんと同意してくれる先生を横目で見て、日本史から現実逃避をしようと当時の事を思い出した。




「生徒会長挨拶。生徒会長、龍前寺翔。」


「はい。」



そう名前を呼ばれて、壇上に上がった会長。それを見て盛り上がったのは、かなり派手な子達の集まりだった。後から聞いたのだけど、彼女達は幼稚舎からの持ち上がり組だったらしく、高等部の入学式では固まりになって騒いでいて、かなり悪目立ちしていた。

この学校は有名な私立学校なだけあって、中高の倍率は結構高く、偏差値もなかなかだったりする。だけど、幼稚舎、小等部の入学基準はそんなに厳しくない。なので、その持ち上がり組と、中・高等部の入学組はクラス分けされていて勉強内容も全然違う…らしい。その結果、持ち上がり組と新入学組はあまり仲が良くないとされている。

私はそんな事ないと思うんだけど、結構そういう風に感じてる子はいるみたい。

現に、愛理ちゃんは持ち上がり組が苦手らしい。すれ違い様、あからさまにイヤミ言われたとかって言ってるから。



「きゃー!翔さまー!!」


「かっこいいですー!!こっち向いてくださーい!!」


「龍前寺かいちょー!!!!」



キャーキャーと騒ぐ彼女達に、私達は驚いて何事かと思っているし、中学からの子達はあからさまにうんざりした顔をしていた。そして、その内の何人かが壇上前に駆け寄って行こうと席を立った。あまりの光景に先生達が席に戻れ!!とか、なにやってるんだとかって一時騒然となった時に、マイクから静かな声がした。



「そこの持ち上がり4人。今から1週間の停学処分を下す。さっさとこの会場から出ていけ。目障りだ。」


「え…でもあたし達…」



呆然としている彼女達を尻目に、更に会長は追い討ちをかけた。



「聞こえなかったのか?全く当校の恥さらしも良いところだ。だから何時まで経っても『持ち上がり組』と揶揄されるんだ。すまないが、篠宮副会長、この4人をここから出してくれ。邪魔だ。」


「わかりました。そこの4人、早く来なさい。」



無表情なままの龍前寺会長に見向きもされなかった4人は、篠宮副会長に連れられて項垂(うなだ)れながら会場を出て行った。中には泣いてる子もいたみたいで、他の騒いでいた子達も一気に大人しくなっていた。

再び静かになった会場は、今までの出来事を改めて振り返っていた。そして、皆である一つの結論に達する。



『生徒会には絶対に逆らうな』



これは今でも一年の間で暗黙の了解だったりする。それから、何事もなかったかの様ににこやかに挨拶をした龍前寺会長と、戻って来て微笑みをたたえながら私達新入生に拍手を送ってくれた篠宮副会長を見て、更にその思いは固くなったのである。



と言っても、私は龍前寺会長を入学前から知っていたし、新入生代表をやる時に親切にしてもらった篠宮先輩とも親しかったりするのだけど。

その入学式の帰り、生徒会室に呼ばれた私は、涙を流して爆笑する篠宮副会長と、だるーんとソファーに寝転がっている会長を見かける事となる。



「もーさぁ、何であの場面で出てくるんだよー!絶対夜にオヤジから説教だよ。あーもう、オレのせいじゃねーのに!!」


「あははははっ!!!あー!!もう駄目、お腹痛ーい!!ねぇねぇ神崎ちゃんさぁ、翔ったらこうなる事わかってたのに、結局今日まで対策立てられなかったのー!!ばっかよねぇ!」


「バカってなんだ、ナツ!大体気づいてながら、ナツも止めなかっただろ!」


「だってあたし、あの子達の勢いに勝てないしぃ~。か弱いから。」



「か弱い?か弱いって言ったか?なぁ唯、聞いた?ナツがか弱そうに見えるか!?」



え、私?とびっくりして、思わず篠宮先輩を見てしまった。

篠宮先輩は、少しだけ茶色いショートボブに緩やかなウェーブがかかった髪で、切れ長で意思の強そうな目をした凛々しい美人さんだ。

だけど哀しいかな、か弱そうには見えない。それに、剣道部の副部長も兼務してるって紹介されてたし。しかも何気に強いらしい。

そうだなぁ。篠宮先輩を形容する言葉は、『か弱い』ではなく…



「雄々しいです、篠宮副会長。」



その後、ビシッと空気が凍ったのは言うまでもない。




「おいこらっ!勝手にトリップしてんなっ!!」


はっ!

そうだ、今は勉強中だったんだ!

コンコンとペンを机に叩きながら、私を見ている先生にうっすらと角が見える気がする。



「お前のこの小っさい頭ん中は、一体何考えてんだろうなぁ?あ゛?」


「ごめんなさいぃぃ!」


「だから、適当に年代を書くなっつってんだろ!!」



結局、昼食でございますよと救世主の渡瀬さんに呼びに来られるまで、散々怒鳴られた午前中。

だって、改革が多すぎるんだもん!!!これで本当に大丈夫なんだろうか、私…。

またまたキャラが増えた…。



篠宮奈津美(シノミヤナツミ) 17歳

唯の高校の生徒会副会長。剣道部副部長と兼務している。剣道の腕前は有数。

薄い茶色のショートホブ。切れ長の目で、意志が強そうな凛々しい印象を与えている。唯は雄々しいと感じているらしい。

笑い上戸。翔にはナツと呼ばれている。

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