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第四十話

「ねえ、唯ちゃん、こっちの服着てみて?絶対似合うと思うの!!そう思いませんか、お義母さん!!」


「あら、そちらの服よりこちらの方がいいんじゃないかしら。ほら、唯さんの可愛らしさが前面に出るデザインよ?」


「あら、本当ですねー。本当可愛いわ、唯ちゃん!でも、やっぱりこっちも捨てがたいのよねぇ。」


「そうねぇ、それは髪を結い上げるともっと素敵になるんじゃない?ねぇ、雅さん。」


「唯ちゃん、こっちおいでなさい!髪結ってあげるわ!!」



…かれこれ小一時間この状態ですよ。

完全に珠緒さんと、雅ちゃん(雅ちゃんって呼んでって哀願された)、それにメイドさんらしい人達数人に、よって(たか)って着せ替え人形にされている私。あまりの強烈さに、小さい頃、お姉ちゃんが持ってた着せ替え人形の真似させられたな…なんてぼんやり思い始めている。

あれ、今日一体何しに来たんだっけ…。



「二人とも、何してるんですか。」



冷静な声が、きゃあきゃあと騒いでいた部屋に響いた。

声がした方を見ると、無表情な先生が腕組みしながらこちらをガン見。チラリと私を見た先生は、盛大に顔を顰めた。


「神崎、遊ぶつもりで家に来たんなら俺は帰るぞ。」


「いえっ!!違います!!」



慌てて訂正したけど、この格好じゃ遊んでるって思われてもしょうがないよね。

だってさ…ピンクのメイドさんの格好なんだよ、今…。ニーソに、ヘッドドレスまで装備。フリルたっぷりのスカートが短いったら無い。



「あら、亨、帰って来たの?もー、もう少し遅く来てくれればいいのに、気のきかない子ねぇ。折角、唯ちゃんにメイド服着せてこれから遊ぼうと思っていたのに!」


「母さん、俺はそんな事をさせる為に神崎をこの家に呼んだんじゃないんだ。おい、神崎、早く着替えて勉強道具一式持って、リビングまで来い。」


「ええ~!?亨ったら、なんていけず!ねぇ、唯ちゃん、この子本当に先生してるの?いーっつもこんなむすっとした顔してるんじゃなーい?」


え!話を私に振らないでくださいよ!!しかも、そんな答えにくい質問を本人の目の前で答えろと?

ほら、先生思いっきり睨んでるし!!おぉう…なんて言えば…。

珠緒さんの方を見て助けを求めたけど、わかっているのかいないのか、珠緒さんはただ、うふふと微笑むばかりだ。あ…駄目だ。当てにならない…。途方に暮れていると、先生が携帯を取り出して何やらいじり始めた。あ、あい○ぉんだ…。



「神崎、こっち向け。」


「はい?」



―――カシャ―――



一瞬何が起きたのかわからなくて、ぱちぱちと瞬きをした。

先生を見ると、何やら黒い…真っ黒い笑顔を浮かべて…



「これ、桐生さんに送られたくなかったら、さっさと着替えろ。」


と言われて携帯の画面を見せられた。写っているのは、今のメイド服を着ている…私!?



「えー!?やだやだやだ!ちょっと、それ消してくださいよ!!」


「何度も言わせるな。消して欲しかったら早く勉強するぞ。ほら、いーち、にー」


「わわわかりましたから、ちょ、出てってください!!すみません、珠緒さんと雅ちゃんも…」


「…雅ちゃん…?」



低い声でそう言った後、先生は雅ちゃんを凝視していた。雅ちゃんは悪びれる事無く、先生の鋭い視線をさらっと受け流している。さすが、遠藤グループの社長妻。ちょっとやそっとの睨みじゃビクともしてませんよ!!


…ていうか、私は正直それどころではないんだけど。早く着替えないと、あの写メをお兄ちゃんに送られる。と言う事は…あまりにも想像に難くない事に背筋が冷えた。

今日は土曜日と言え、お兄ちゃんは仕事のはずだ。それをほっぽり出そうとして、高橋さんにこっ酷く雷を落とされるに違いない。そして、雷を落とされたのにも関わらず、何事も無かったかのように私の所に来るはずだ。勿論、その写メはパパとお姉ちゃんにももれなく転送されるだろう。そして…うわ、怖い。怖すぎる…。



「あらやーだ、亨ったらこわぁい。じゃあお義母さん、仕方ないですね、私達もリビングに行きましょうか。唯ちゃん、着替え方わかる?なんだったらお手伝いするわよ?」



ちっとも怖いなんか思っていない声で、私で遊ぶのに満足した…若干物足りなさそうだけど…雅ちゃんは、私が手伝いを断ると、珠緒さんと先生を伴ってリビングに移動してくれた。

このメイド服、脱ぐのがちょっと面倒くさい。そういうところは残ったメイドさんが介助してくれて、ようやくこの家に着て来た服に戻った。

手が隠れるぐらいのニットカーデに、ショートパンツ。まぁ、ニーソに関しては、来た時から穿いてたからいいんだけど。

でもあのメイドさんのニーソさぁ…必死に拒否したけど、本当はガーター付きだったんだよね…。一体雅さんの趣味ってどうなってるの?


不思議に思うことは幾つかあったけど、まぁいっか。着替え終わって勉強道具の入ったカバンを持ち、メイドさんに案内されてリビングに行くと、そこにはアンティークと思われるソファーに座って、優雅にお茶を楽しんでいる風にしか見えない遠藤家の面々が。

なのに、なんだろう。穏やかに見える水面下でバチバチやり合っている雰囲気が…。



「あの…すみません、お待たせしました。」


「唯ちゃーん!待ってたわー!!お勉強する前に、お茶を一杯どう?ね、亨、それ位はいいでしょう。」


「…お好きにどうぞ。」



仕方がないと言った風情で、先生はカップを口に運んでいた。

どこに座ればいいんだろう。と思ったら、珠緒さんが自分が座っている隣をポンポンと叩いて私を促したので、大人しくそこに座ることにした。



「本当にお久しぶりね。元気にしてた?」


「はい、とても。珠緒さんもお元気そうですね。」


「そうね、私も代わりはないわよ。そうそう、唯さんのバイト先のお店に行って、店長さんにも編みかけのマフラーを見てもらったんだけどね、どうもしっくりこないのよ。」


「桜さんにですか?あ、じゃあ後でどうなってるか、見せてもらえますか?一緒に編みましょうね。」


「うふふ、ありがとう。」



にこにこ笑っている珠緒さんと一緒に和んでいると、渡瀬さんがお茶を出してくれた。

ありがとうございますと言って手に持ったカップは…これはあの有名磁器メーカーのやつですか。怖くて触れないんですけど!

恐る恐るお茶を口に運ぶと、雅ちゃんが身を乗り出して来た。



「ねぇねぇ、まさか唯ちゃんが今着てるお洋服も自分で編んだの?」


「あ、はい。私、身体が小さいので手間なく編めるんです。」


「え、本当!?唯さん、すごいわ。本当に編み物上手なのねぇ!私にも何か編んで貰いたいわ!」



期待を込め、キラキラした目で私を見てるけど、私には珠緒さんだけじゃなく、誰にも編んであげられない。


だから、心の中でごめんなさいを繰り返す。



繰り返し。



繰り返し。




「…すみません。私あんまり人に編んであげるのが得意じゃなくて…」



そう言うと、珠緒さんと雅ちゃんに怪訝そうな顔をされた。

当たり前だよね。自分には編むのに人には編めないんだから。

俯いてカップをいじっていると、黙っていた先生が立ち上がった。私もつられて目線を上げた。



「もういいですか。そろそろ勉強したいんですが。」


「あら、そうね。じゃあお勉強が終わったらまたリビングにいらっしゃい。亨、何時くらいまでかかりそう?」


「そうですね、昼には一旦下りてきます。とりあえず、今はそうとしか言えません。おい、行くぞ神崎。」


「え?リビングで勉強するんじゃないんですか?」



そう言うと、先生はあからさまにバカにしたように、はんっと鼻で笑った。

!?何さ!!



「お前の悲惨な点数を(さら)したいんなら、ここでするか?別に俺は構わないが、せっかくお前の事を(おもんぱか)って俺の部屋で教えてやろうとし「行きます!是非とも先生の部屋で!!」よし、じゃあ行くぞ。」


「唯ちゃ~ん、頑張ってね~。」



ひらひらと手を降って送り出してくれた珠緒さんと雅ちゃん。

それに笑って先生の後に着いていこうとしたら、雅ちゃんが後ろから先生を呼び止めた。



「亨、唯ちゃんに手出しちゃ駄目よ~。ロリコンよ~。」


「あらまぁ、雅さん。亨ったらそういった趣味があるの?知らなかったわぁ。」


「そうならないように、私達がしっかり見守っていけなくては、唯ちゃんのご家族に申し訳がたたな「ふっざけんなっっっ!!!!」まぁ怖い。」



静かな休日に怒声を震わせた先生が、怒りとともに私を引っ張ってさっさと先生の自室に引っ込んだのは言うまでもない。

雅ママ大暴走。ってことで、雅ちゃんのプロフ。



遠藤雅(エンドウミヤビ) 年齢不詳

翼、亨の母親であり、遠藤グループ社長夫人。

着物が似合う和風美人で自身も着物好き。洋装は『カサブランカ』ブランドがお気に入り。めったに怒ることがない穏やかな性格。

だが途轍もない少女趣味で、義父や夫の出張中に遠藤邸を趣味全開の屋敷に変貌させた猛者。結局出張から戻った二人に説得の上、懇願され元の屋敷に戻ったが、そこここにロココ調の調度品が並んでいる。

現在は趣味の部屋と称した自室がある。亨曰わく、魔ピンクの間。

夫婦仲、親子関係共に良好。

唯がお気に入り。

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