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第三十九話

「おはようございます、神崎様。お迎えに参りました。」



今、私の目の前には、でんと黒いロールスロイスが止まっています。

その脇では、執事服を着たパパよりも少し年上に見える男の人が立って、私にお辞儀をしている。多分この人が、遠藤家の執事さん…渡瀬さんだっけ。なんだろうなぁ。



「おはようございます。あの…今日はわざわざ迎えに来てもらっちゃって、すみません。お手数かけます。」



そう言って、ぺこっと頭を下げた。

渡瀬さんは笑んでそれを押し止め、後部座席のドアを開けてくれたので、私もそれに従い、車に乗り込んだ。

渡瀬さんが運転するのかなと思ってたら、運転手さんは別にいたみたいだ。

さすがお金持ち…。と思っていると、車が発進した。



「あの、今日は先生も来るって…。」


「はい、左様でございます。神崎様のお勉強をお教えすると、亨坊ちゃんから連絡がございましたので、大奥様もそのようにお時間を取られているようですよ。」



そう言って、にこりと笑った渡瀬さん。


…亨坊ちゃん…


坊ちゃん…。



頭の中で、坊ちゃんがリフレインしそうなのを何とか押しやって、渡瀬さんを見た。

優しそうな人だなぁ。…おじいちゃんって言う年でもないんだけど、なんか和む。そんな人に様付けされるのって、妙に落ち着かない。私なんかただの小娘だしね。



「あの、様付け止めてもらえませんか?」


「しかし、それでは、」


「私、全然偉くもないし、ただの高校生ですから。普通に唯でいいですよ?ね?お願いします。」



そう言って頭を少しだけ下げると、渡瀬さんは仕方がないと言った表情を浮かべてしまった。

やっぱり駄目かなぁ…。そう思っていると、頭上からふっと笑い声が漏れたので、顔を上げると、苦笑している渡瀬さんがいた。



「こんなに可愛いお嬢様のお願いとあっては仕方がありませんね。では、唯様と呼ばせて頂きます。」


「唯様…。」


「こればかりはご了承下さい。私は遠藤家に仕えて45年。お客様の願いとは言え、私にも譲れないものはございます。」


そんなものなのか。でも45年も執事さんしてたら、そうなのかもなぁ。


「わかりました。唯様で良いです。なんかくすぐったいって言うか、恥ずかしいんですけど、それでお願いします。」


「はい、唯様。」



うふふと二人で笑っていると、渡瀬さんは運転手さんにも声をかけてくれた。運転手さんは、後藤さんと言うらしい。その後藤さんにも、唯様と呼ばれて何だかふわふわした雰囲気になっていると、車が止まった。

どうやら遠藤邸に着いたらしい。


渡瀬さんが恭しくドアを開けてくれた。そして、私の目に飛び込んだのが…お屋敷っていうか、お城?洋館?みたいな大豪邸。



で…でかいっ!!



え?ここって、都心に近いよね?なのに、この広さ!?

どっかの洋館かと思っちゃうくらい大きい!



「唯様?如何なさいました?」


はっ!渡瀬さんが笑ってる!うわぁ、恥ずかしい。


「いやっ、あの…大きいお宅だなって…。」


「ふふ、左様でございますか。では、参りましょうか。」



参りましょうか!?ここが玄関じゃないの!?


頭の中では小人さん達がやんややんやと大騒ぎしているけど、平静を装って渡瀬さんにてくてくついて行く。

少しだけ歩くと、ようやく玄関らしいドアが見えてきた。渡瀬さんが着きましたよと優しく微笑んでくれたので、緊張が少しだけほぐれた感じがする。


「遠藤家へようこそいらっしゃいました。大奥様を呼んで参りますので、少々お待ち下さい。」


「はい。」



と返事はしたものの、緊張って言うか、恐怖だ!

玄関を見た時に嫌な予感はしたけど、まさかこんなに大きい家だなんて…。

エントランスは吹き抜け、目の前にある階段は螺旋階段、多分この床は大理石…。上にキラキラででんっと主張しているのはクリスタルのシャンデリア。

…何となく、置かれてる装飾品もロココっぽい感じが…。お姉ちゃんが好きそうだなぁ。



「あら、お客様かしら?」


ふと声がした方を振り返ると、そこには着物を着た見惚れるような和風美人が。

…このお城みたいなお屋敷に着物。ミスマッチなのに、違和感がないのは、多分ここに住んでいる人だからなんだろう。

って…この人ってさぁ。もしかして、て言うか…やっぱり…?絶対?



「あら、唯さん、いらっしゃい!」


「珠緒さん、今日はお招き頂いてありがとうございます。」


「いえいえ、お久しぶりね。私は首を長くして待っていたのよ。雅さん、紹介が遅れたわね。この子が唯さんよ。唯さん、こちらは雅さん。翼と亨の母親よ。」



やっぱりーーーー!!!!!!!

先生のお母さんだーーー!!!!あああ、挨拶しなきゃ!!



「はじめまして、神崎唯です!先生にはお世話になってます!」



慌てて挨拶をして最敬礼並のお辞儀をした。この際、髪がどんな事になろうが構ってられないと思う。結ってくればよかった。後悔先に立たずってこの事を言うんだね、お母さん。正に実体験だよ。

当の雅さんと呼ばれた先生のお母さんは、ぴくりとも動かずに、じーっと私を見てるし…。

うぅ…何か…歓迎されてない?困って珠緒さんを見ると、うふって笑んでくるし。

どどどどうしたら…。

内心キョドっていたら、がばっといきなり抱きつかれた。



「きゃー!なんて可愛らしい!!お義母さん、この子なんて可愛らしいんでしょう!!そう思いません!?」


「うふふふ、そうでしょう、雅さん。私、貴女の好みなんじゃないかしらと思っていたら、当たったみたいね。」


「えぇ、お義母さん!!私の好みのド真ん中ですわ!!ねぇ、お義母さん!私、この子にママって呼ばれてみたいですわ!」


「あらあら、それはまだ早いのではなくって?でも、私もおばあ様って呼ばれてみたいのよー?」



…えーっと。…一体何の話?



遂に出ました、雅ママ。次回、波乱の予感…?唯が遊ばれるだけかもしれませんが、そこはご愛嬌。

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