第38.5話…総一郎
総一郎パパの視点で。
「…泣き疲れて寝たか…。」
涙の跡を指で拭って、そのまま頭を撫でる。
幼い子供にやるように、膝に抱き上げてゆっくりと揺らしながら宥めていた義理の娘は泣き疲れたのか、静かに寝息をたてて眠っていた。
暫くそうした後、そのまま抱き上げて部屋に運んで、ベッドに寝かせた。ベッドの脇に腰掛けて、また頭を撫でた。
開いていたドアからナイトが入って来て、唯が寝ているベッド下のいつも寝ている定位置に陣取っている。それに少しだけ笑って、唯におやすみと髪に軽くキスをした。願わくは、幸せな夢が見れるようにと。
ナイトの頭も少し撫でて、唯の部屋を出る。
そして、真っ直ぐキッチンに行ってグラスを3つとウィスキーのボトルを持って書斎に戻った。
書斎に戻って、3つのグラスにそれぞれウィスキーを注いで、千歳と祥子の写真の前にそれを2つ置く。残ったグラスを手にとって今は亡き二人に掲げると、一口飲んだ。
千歳と祥子が遺した愛娘は、彼ら両親を亡くし、健気に笑って立ち振舞ってはいるが、その実、とても寂しがりなのを知っている。それなのに、祥子と一緒に住んでいた想い出と共に、俺の手を離れようとしている。
血の繋がりが何だって言うんだ。唯は俺の娘だ。俺が千歳と祥子に託された。
今も鮮明に覚えている、亡き親友の今際の言葉。
『総一郎、祥子と唯を頼む。俺はもう駄目だと思うから…。』
『な…なに気弱な事言ってんだ!お前なら大丈夫だ、第一、殺しても死なないだろ!!』
『はは…いくら何でも殺したら死ぬだろ…。…俺は医者だからな。自分の事だし、誰よりもわかるんだよ。総一郎、俺は死ぬ。』
『……ふざけんなよ…。』
『総一郎、頼んだぞ。おい、泣いてないで、返事は?』
『…泣いてねぇよ…。わかった、頼まれてやるよ。ていうか、お前は死なないんだから、俺がその頼みを叶える事はないんだからな!!いいか!?』
『ふ…そうだな。』
その半日後。
千歳は死んだ。自分が予言した通りに。
唯が自分達と血が繋がっていない事を気にやんで、この家を出ようとしたのが、祥子が死んだ半年後だった。猛反対したが、それを撤回することはなかった。現に今も独りで大丈夫だと虚勢を張っているように見える。誰よりも寂しがり屋で甘ったれなくせに。
秀人や美奈もそれに気付いているのだろう、だからこそ、唯を独りにしないように頻繁に会いに行っているのだ。
「お前達の娘は、なんであんなに脆そうに見えるのに、全く頑固だ…。俺らは甘えて欲しいのにな…。」
机の上に飾ってある千歳と祥子の写真を見て、そう呟いた。
返事をするように、置かれていたグラスのうちの一つの氷がカランと鳴った。
今回は唯の実父、千歳の遺言でした。実母、祥子の遺言はまた今度。