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第三十八話

道代さんがいないので、夕飯を作ろうとダイニングへ行った。そこでは、ナイトがガフガフご飯を食べている。

美味しい?と聞いて、一撫で。

…なんか今まで見て見ぬふりしてたけど、ナイトちょっと太った…。そう言えば、テストあったから散歩も少ししかしてない。ヤバいな…。

足りない…と物悲しい目で訴えるナイトだけど、心を鬼にしてお皿を片付けた。


冷蔵庫にあるものを適当に切っていたら、隣にパパが立って手伝ってくれる。パパは昔、ミラノで独り暮らししていただけあって、料理の腕は私よりうまい。

なのに、私やお母さんに作らせていたのは「だってお前達の味の方が好きなんだもん」というなんだかわからない屁理屈で、パパはたまの記念日なんかにしか料理は作らない。パパのイタリアン、美味しいのに。



「そういえば、パパ。龍前寺会長が、カサブランカのコレクションのチケット欲しいって言ってたんだけど、まだ手に入る?」


「龍前寺会長って事は…翔か?招待券だったらまだ何枚かあるが、何枚欲しいんだ?」


「2枚って言ってた。あ、玉ねぎ炒めてくれる?」


「ああ。2枚な。わかった、近いうちに届ける。翔も元気にしてるか?」



そう言って、フライパンに玉ねぎを投入して炒め始めたパパは、手馴れた感じでフライパンを返している。



「元気だよー。今年のカサブランカはどうなの?去年はお母さんの事もあったから、控えめだったけど、今年は例年どおり?」


「ふっ…。まあ、そうだな。秀人には内緒だけど、唯…、今年は美奈が出る。」


「嘘!?お姉ちゃんが!?」



びっくりして手元の箸を落としてしまった。

お姉ちゃんはパパのコレクションに出たことがない。それはパパのコレクションに出る事を、コネだとか

、親の七光りと言われるのが大嫌いなお姉ちゃんが意識的に避けていたせいでもあるけど、何よりもパパのブランドのモデル選考は厳しいと業界でも有名だからだ。

有名なスーパーモデルですらなかなか出れないと言われている、そんなパパの選考基準ってどんなんだろうって思うけど、でもコレクションを見る限り、モデルに似合ってると言わざるを得ない。



「お姉ちゃん出るの…。私、今年行かないのに…。」


「行かない?唯、お前、コレクション来ないのか?関係者席取ってあるんだぞ。」


「うん…。今年だけじゃなく、私、これからも行かないつもりなんだけど。」


「は?ちょっと待て、俺はそんな話聞いて無いぞ。」



炒めてたフライパンを火から降ろして、パパは私の顔を覗きこんだ。

聞いてないって…。今初めて言ったんだけど、タイミング悪かったな、これ。



「とりあえず、ご飯作っちゃおうよ、パパ。お兄ちゃん達お腹減ってるよ。」


「…ああ、わかってる。後で話聞いてやるから、書斎に来いよ、唯。」


「うん。」



パパと二人で夕飯を作って、お兄ちゃんとお姉ちゃんも一緒に食べた。

片づけをして、お風呂に入って。パパの書斎に入る前に、お母さんの仏壇の前に座った。


ねえ、お母さん。

私さ、すごい幸せなんだよ?

パパとお兄ちゃんとお姉ちゃん、それにナイトにも。こんなにいっぱい愛してもらってる。

それを手放そうとしてる私ってバカかな。


でもね、私はここの家にいちゃいけないんだ。

だって、お母さんがいないもん。

ここは『桐生』の家なんだよね。『桐生』の血が流れてるの。


私は違う。


ここにいちゃ、いけない。


ごめんね、お母さん。

わがままな娘で、ごめんなさい。




「…どうしても来ない気か?」


「お姉ちゃんがランウェイ歩くのは凄く見たいけどね。こればっかりは決めてた事だから。」


「頑固だな。」


「ふふっ、お父さんの娘だからね。」


「本当だよ。」


「ねえ、パパ…。」


「なんだ?」


「迷惑かけてごめんね。」


「…はーっ…。迷惑かけてると思うんだったら、この家から出なきゃいいんだよ。お前はまだ子供なんだから、もう少し甘えろ。」


「…十分甘えてるよ…。」


「だったら泣きそうな顔するな。ほら、来い。」


「…っふ…う…っぇ…ご…ごめんなさ…」


「よしよし…」



パパが撫でてくれる手は温かくて。

抱き締めてくれる腕が大きくて。


その日、私はパパが優しく抱き締めてくれる腕の中で泣いた。




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