表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/128

第三十四話

「…唯…生きてる…?」



綾乃の声が聞こえる。

だけど私は頭を上げることが出来ない。シャーペンを握りしめたまま、机に撃沈。


日本史…


終わった…。



いろんな意味で終わった。燃え尽きた。

まだ明日残ってる教科があるとか、そんなのはもう考えたくない。返ってくる答案用紙も見たくない。

ついでに、あの散々な解答を遠藤先生が採点する様を想像するだけで身震いが…。



「綾乃…帰ろっか…。」


「そうだね…。唯、元気出して、ね?明日で最終日だから、テスト終わったらどっか寄って帰ろうよ。」


「…うん…。」


「…唯…相当ダメだったんだね。どれ、問題用紙見せて。答え書いてるでしょ?」



言われた通りに答えを書いた問題用紙を綾乃に渡した。

綾乃の顔色が見る見るうちに変わっていくのを、やっぱり…と半ば諦めの目で眺める。



「唯…帰ろっか…。」


「…そうだね…。綾乃、明日は英語あるしね。大丈夫?」


「明日はあたしを慰めてよね。」


「ふふっ、わかった。」



なんか虚しい会話をして、学校を出ると、テストが終わって帰宅する生徒がたくさんいる。

電車で通学している私もその行列に並んで、電車に乗った。

綾乃は別の路線なので、駅で別れた。



「唯、この電車なの?」


「龍前寺会長。会長もこの電車なんですか?」


「そう、二駅先。唯は?」


「私は会長が降りる駅から一駅先です。結構近いのに、今まで会わないのも不思議ですね。」


「時間が違うんだろうなぁ。ほら、一応オレ生徒会長様だから。」



くすくす笑っている龍前寺会長だが、実はすごい人だって言うのは有名で。

一年生で生徒会長になっただけではなく、理事長の息子。おまけに何でも出来ちゃうスーパー高校生。

と来れば、モテないはずはないけれど…。



「会長…まだ好きな人に振り向いてもらえないですか?」


「いやぁ、なかなか厳しいねぇ。彼女ガード堅くて大変。」


「年も離れてますしねぇ…。」


「離れてるって言っても、十歳だし?オレ絶対落とす!」


「あはっ、すごい自信ですね。頑張って下さいよ、会長。応援してますから!」



龍前寺会長が好きなのは、有紗先生だったりする。

私が入学する時に、私が『桐生』だと内緒にする代わりに、自分の相談にも乗るようにと交換条件を出された。

なんだか、パパとも密約があるらしいけど、二人ともそれは教えてくれない。



「そう?ありがとう。あ、そういえば、もうすぐ『カサブランカ』の新作コレクションだろ?親父さん、忙しいかな。」


「年明けて早々ですからねぇ。どうしました?」


「母さんが観たいらしいんだよ、コレクション。チケット手に入れたいんだけど、親父さんに直で話つけた方がいいだろ?」


「あー…そうですねぇ。関係者席がギリギリあるかもしれないですけど、どうだろう…。一応聞いてみましょうか。何枚ですか?」


「マジで?マジありがたい!母さんと姉が行きたいって言ってたから、2枚かな。」


「わかりました。聞いてみますね。」


「あれ?唯は行かないの?」


「今年から行かないようにしようと思ってて…。」



驚いている会長を見て、苦笑。

私は今年はおろか、もう『カサブランカ』のコレクションを観ない事にしようと思っている。新作は楽しみだけど、マスコミ関係が集まる場所に出たくない。それは、実家を出た時、名字を『神崎』にした時に密かに考えていた事でもあった。

ただ、惜しいのはやはりそれが『カサブランカ』だからだ。


『カサブランカ』はパパがお母さんの為に作ったレーベルだと言っても過言ではない。

お母さんが大好きだったカサブランカをそのままブランド名にしちゃった辺り、パパのお母さんに対する溺愛っぷりが伺える。

それに、お父さんとお母さんのウェディングドレスが元となったブランドだ。


私はそのウェディングドレスの実物を見たことがない。お兄ちゃんとお姉ちゃんも無いと言っていたから、多分パパがどこかに保管していると思うのだけど…。

私が辛うじてそのウェデングドレスを知っているのは、残っているお父さん達の結婚式の写真を持っているから。お母さんのために作ったと言うそのドレスはとてもお母さんに似合っている。長いベールが更にそのドレスを神秘的に見せていて、とてもこの世の物とは思えない。



だけど、写真の中で幸せそうに微笑んでいる二人はもうこの世にいない。



「唯?」


「あれ、会長、降りる駅通り過ぎちゃいましたけど…。」


「いや…大丈夫?」


「え…?何がですか?」


「…自分で気付いてないのか…。」



ちょっと怖い顔で私を見ている会長。どうしたんだろう。



「はー…仕方ない。送って行くよ。」


「えぇぇぇ…。別にいいですよ。会長だって明日テストなんですよ。勉強しなくていいんですか?」


「今頃やってるようじゃダメだろ。オレはそんな無計画に勉強しないから。」


「うわっ!さすが学年トップ!!言う事が違いますね。二年って明日の教科なんですか?」


「数学と化学、現代史。そっちは?」


「英語、家庭科、古典ですね。有紗先生来ますよ、会長。」



うりうりと腕で会長を突いて、反応を見ようと思ったけど、さすがにこっちの方が上手だった。

ふんと鼻を鳴らしただけだった。


電車を降りてマンションへ帰る途中、会長がおもむろに口を開いた。



「なぁ、唯。お前やっぱり生徒会に入る気ないか?会計とか書記とかでいいんだけど。」


「まだ言ってるんですか?私、生徒会に入る気はないって何回言えばわかるんですか。ダメです。私、バイトあるんですから。」


「お前入ってくれるといろいろ楽なんだけどなー…。」


「諦め悪いですね、会長。」


「じゃなきゃ会長やってないって。お前ぐらいだよ、オレの誘い断るなんて。」


「じゃあ貴重じゃないですか。大事にしてくださいね。」


「はいはい、お姫様。じゃなきゃ帝王に怒られるしね。」


「帝王?」


「いや、こっちの事。じゃあ、ここでな。ちゃんと勉強しろよー。」


「わかってますよ。じゃあありがとうございました。」



ぺこっと頭を下げて、会長が帰って行くのを見送って、マンションのエントランスに入った。

会長のプロフもここに。



龍前寺翔(リュウゼンジカケル) 17歳

唯の通う高校の生徒会長であり、現理事長の息子。

顔良し、頭良し、運動神経良し、おまけに金持ち、性格良しのスーパー高校生。

入学から1ヶ月も経たない内に生徒会長に推薦された。カリスマ性があり、歴代会長の中で最も優れてると言う評判高い人。

有紗が好きで、落とそうと画策中。亨とは仲がいいらしい。


総一郎から、唯に近づく男を排除しろと厳命されている。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ