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第32話

「じゃあ、お疲れ様でした。」


「あぁ、お疲れ。」



カチリとグラスを合わせて、ビールをあおる。一緒にいる早乙女は、いかにも美味そうに呑んでいる。

枝豆を摘んでいる早乙女は、未だに神崎に彼氏がいるのかしつこく聞いてきた。


一杯目を飲み干して、二杯目に手を付けた。

断言って言ってもな。桐生さんと、美奈の様子から察するに、神崎に彼氏の『か』の字もないことは容易に想像できる。義妹とは言え、あれだけシスコンな兄姉だ。男は引く。完璧引く。


おまけに、あの二人は伝説的元モデルと現トップモデルだ、隣に立つことすら(はばか)られるほどの美貌は、二人並ぶと凄みさえ感じる。


…それを考えると、神崎ってすげぇな。

あの二人に囲まれてもビクともしないのか…。いや、近くに居すぎて、美形に鈍いのかもしれない。

そういえば、神崎は俺の容姿に感心を示していないようだ。

自惚れではないが、女生徒やら同僚教師からのその手の視線はすぐわかる。それはそれで鬱陶しいのだが、神崎の視線にそれを感じた事はない。



「お前そんなに神崎が好きなのか。」


と聞くと、早乙女はウザい位に話に食いついた。

一目惚れだの、超可愛いだの…。

うぜぇ…。うんざりしながら、早乙女が頬を染めて神崎に恋い焦がれている様を見ていると、発言の中に生徒会が出てきたことに驚いた。



「龍前寺、狙ってるらしいです。」



龍前寺って…あのカリスマ生徒会長が?

奴は入学したての頃から存在感を発揮し、一年生ながらもわずか一ヶ月も経たずに生徒会長に就任した。

顔良し、学業良し、スポーツ良し。おまけに現理事長の息子。更に、性格までいい。そこまで行くと出来過ぎて胡散臭いが、力を入れるところと抜くところの境目をよく見ているのだと俺は思う。

事実、俺と龍前寺は年が離れていながらも、何故か馬が合う。多分考え方が同じなのだろう。あいつも案外損な性格をしているのかもしれないと自嘲する。



予想はしていたが、やはり神崎はモテるらしい。

ま、頑張ってくれよと早乙女に軽くエールを送ると、えらく感激している。なぜか名前で呼ばれる破目になったが、まぁいいか。



「そういえば、亨さんってなんで教師やってるんですか?遠藤の会社にだって入れたでしょ?」


「あ?なんでいきなりそんな話になるんだ。つーか、お前に関係ないだろ。」


「えぇー!?俺と亨さんの仲じゃないですかぁ!教えて下さいよー!!」


「声でけぇんだよ、お前!しかも、俺とお前の仲って何だよ!気持ち悪い事言うんじゃねぇ!」


「えー!?亨さん、冷たい!!俺泣いちゃいますよ?良いんですか、号泣しますよ!?」


「勝手に泣け!!」



焼酎のロックを一気した。焼け付く喉ごしが心地よい。

泣き真似をしている悠生は、これまた話題を変えてこようとしたが、これ以上騒がれるのは店に迷惑がかかるので、仕方がないので少しだけ教えることにした。



「俺が人生の目標にしてる人がいるんだよ。その人は教師じゃないけど、もしも違う職業を選ぶとしたら教師になるって言ってた。それの影響だろうな。」



悠生は目をぱちくりさせて、俺を凝視している。

多分、もっと違う事を想像していたのだろう。例えば、親との確執とか…。あいにく、親とも祖父母とも仲は良好だ。



「何だ、そんなに意外だったのか?」


「え?あ、はい。意外…っていうか…。想像と違ったって言うか…。」


「何?父親と仲悪かったりはしないぞ、俺。」



くつくつ笑って、つまみを摘んだ。



「だけど、その人って亨さんにとって相当影響与えたんですね。今どうしてるんですか?」


「俺が十一の時、二年アメリカにいた時知り合った人だからな。多分、今もシカゴでドクターをしてると思う。」


「ドクター…?医者ですか?」


「あぁ。外傷外科のドクターだ。」


「へー…。再会はしたんですか、その人と。あ、亨さん、タバコ吸ってもいいですか?」


「あぁ、どうぞ。」



そう言うと、悠生はタバコに火を付けて煙を吸い込んで、軽く咳き込んだ。



「あれ、そう言えば亨さんってタバコ吸わないんですか?なんか吸いそうなイメージあるのに。」


「吸わないわけじゃない。俺、吸う時限られてるからな。」


「へぇ。どんな時ですか、それって。」


「ヤッた後。」



―――ブッ!!―――



「きったねんだよ、お前!!」


飲んでいた焼酎を吹き出した悠生の頭を思いっ切り叩いた。叩かれた悠生は、すいません、すいませんと謝りながら、真っ赤な顔で汚したテーブルをお絞りで拭いている。

それを軽く睨んで、自分は新しい酒を頼んだ。



「悠生、お前まさか「なっ!違いますよ!!」そうか。」


「つーか、亨さん、いきなりそんな事言わないで下さいよ。俺びっくりするじゃないですか!!」



知るかと一蹴して、運ばれてきた新しい酒を飲んだ。さっきのロックと違う種類を頼んだので、口辺りの違うそれを楽しむ。



「興味本位で聞きますけど、亨さんって彼女いるんですか?」


「いない。」


「うっそ、マジで?亨さんぐらいなら、より取り見取りでしょ?そう言えば、学校で噂になってる有紗先生とはどうなんですか。」


「お前、学校の噂詳しいのな。神崎といい、相良といい…。相良とはなんでもないけど。」


「いやー、聞こえてくる噂って結構面白いのもあるんですよ、これが。しかし、そうなのか。有紗先生と付きあってないんですねー。さっき二人でいるの見て、画になるなーって思ってたんですけどね。そっかー。じゃあ言っちゃってもいいか。」


「何を?」


「俺、有紗先生苦手なんですよね。なんて言うか、違和感あるんですよ、あの人。上手く言えなんですけど…、なんだろうな、あれ、もしかして俺バカにされてる?みたいな感じが本当にふとした瞬間感じるんですよね。」



こいつは意外にするどい。

そう、あの女は得意だというフランス語で平気で悪態を付いてたりする。だが、フランス語がわかる生徒や、教師がいない為に『あなた達を褒めた』内容のフランス語だと周囲には言っている。実際は真逆なのだが。



「へー…。相良に関心無いやつも珍しいな。」


「え?だって俺には神崎ちゃんいますし!!あぁ、やっぱ神崎ちゃんの彼氏になりたーーーーーい!!」


「結局そこに戻るのか…。」



うんざりしながら、既に酔っ払っている悠生を眺めた。

悠生、酒乱です。

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