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第31話

テスト問題の作成も終わり、後は来週行われるテスト本番まで一息付けられる。


久しぶりに週末はのんびり出来るなと、そんな事をつらつら考えながら準備室のドアを開けると、廊下を歩いている神崎にばったり会った。

彼女の手にはパックのオレンジジュースとイチゴオレが握られている。なんとなく神崎はイチゴオレのイメージがあるのだが。



「まだいたのか。早く帰った方がいいぞ、今暗くなるのが早いからな。」


そう声をかけてやると、神崎は外を見てあらー…っという抜けた表情をした。こんな表情はまるで子供だ。

いや、実際子供なんだが。



そんな彼女に来週、祖母に誘われて家に招待されたんだろと聞いてみると、相当困ったような顔をして、俺に答えた。



「そ…そうなんですよー。断ろうと思ってたんですけど、そんな事はさむ暇もなく決まってたんです。」


「ははっ、あの人らしい。で?行くんだろ?」


「本当は遠慮したいところですけどね。」



意外に分別は(わきま)えているらしい。

しかし、やはり祖母は強引に決めてたのか。あの人はそんなところが多々ある。神崎が強引な祖母に困っている光景がありありと浮かんで思わず笑っていた時、後ろから声が掛かったので彼女の後方を見ると、プリントを山のように抱えた早乙女が、嬉しそうに神崎に話しかけていた。


持っていたプリントの量はそれなりに多い。抱えきれないほどではないが、結構重いだろう。

それに気付いた神崎が、持ちましょうかと聞いたが、早乙女は何故か俺を指名してきたので一喝した後、改めて神崎に帰るように促した。今週は今日で学校は終わりとは言え、テスト週間。放課後に遅く残るのは禁止されている。

残っている理由を聞くと、やはりテスト勉強をしていた様だ。



範囲が広めな日本史を、真面目に勉強しているのは素直に感心する。だが、林の英語の状態もこいつと同じだとは…。類友とはよく言ったものだ。

早乙女に彼女の日本史の状況を話すと、神崎は顔を真っ赤にして忘れてくれと懇願していた。


「んー?なかなか忘れられないかも。あ、じゃあさ、忘れたら神崎ちゃん、来週の土曜日俺とデートしてよ。」


「あ、無理です。」



ぶっ!!

即答かよ、おい。

吹き出しそうになるのをなんとか堪え、しょんぼりしている早乙女の持っているプリントを俺が持つことを伝え、ようやく神崎は帰って行った。


まぁ、来週の土曜日とはタイミングが悪かったな、早乙女。



「愉しそうですね、遠藤先生。」



ぶすっとした早乙女が俺に軽く当たってきた。八つ当たりされては困るのだが


「あぁ愉しいさ。お前が振られた神崎のデートの相手はうちの祖母だからな。」


とはまさか言えないので、こいつの持っていたプリントを半分取り、さっさと歩き出す。

慌てて付いて来た早乙女は、神崎に彼氏いるのかとかぐちぐち言っているので、多分いないだろうと答えておいた。

詳しく聞きたがる早乙女を軽く叱って、職員室へ行くとそこには有紗があたかも偶然を装って俺に話しかけてきた。



「遠藤先生、今日はもう終わりですか?」


「えぇ、まぁ。」



昨日、翼から聞いた話が脳裏をよぎる。



『気をつけろよ、亨。』



有紗は、期末テスト後の補習授業についての相談があるとかなんとかいう内容の話だったが、要約すれば『今日会えない?』って事だ。特に予定はないが、昨日の今日だ、遠慮したいところでもある。それにそろそろ、この関係にも終止符を打つタイミングなのかもしれない。



相良有紗(さがらありさ)

俺達が通った学園の中等部からの後輩で、昔から美人でスタイルがよく、入学した時から注目の的だった。そして、高校時代の翼の彼女だ。

と言っても、僅か半年で有紗が大学生と二股をかけていたのが発覚して、翼と別れた。

それでも翼に未練があったのか、ちょくちょく付きまとっていたように思える。

妙な事に翼は有紗と別れた後、新しい彼女が出来ても続かなかった。長くて1ヶ月、短い時は3日も保たなかった。それから俺達と有紗は大学が分かれ、翼もそこで今付き合っている彼女とようやく落ち着いた。


翼は俺と違って、付き合っている彼女だけを見ている。有紗に浮気されたから尚更、女を見る目が厳しくなったはずなのに、どうしてか続かないのを不思議に思っていたのだが、それがようやく、翼の言葉で納得がいった。



『あいつさ、僕の彼女にかなり陰湿な嫌がらせしてたみたいなんだ。同じ学園の彼女には、女子を巻き込んで苛めたり、他校の場合には、そこの知り合いにあることないこと吹き込んで噂を立てたり。挙げ句の果てに、男に襲われそうになった子もいた。すんでのところで、僕が見つけて事なきを得たけどね。』



どうやらあの女は、かなりえげつない事をしたようだ。

彼女が襲われた一件で激怒した翼は、有紗に詰め寄って二度と自分に近づくなと言ったようだが、あの女はすっとぼけて、最後には泣き出してしまった。


完璧、嘘泣きだな…。


そう思ったのは翼もらしい。それから、翼は有紗を徹底的に無視し、大学も彼女の学力では厳しい所へ進んで、今ようやく平穏を得たようだ。


翼に対する執着は、俺も薄々気付いていた。大体、声をかけてきたのも有紗だった。

翼と有紗が付き合っていた事を知っていながら、自分から誘ってきた。


身体だけの関係よと言って。


その言葉は正しく、有紗は理想的なセフレだと思う。


ただ、やはり俺と翼を重ねている。俺を見ながら、翼を見ているのだ。そこに気づかぬ程、俺は経験が浅いわけではない。



「いや、今日は用事があるので無理です。」


「あら…、そうですか…。じゃあまた今度相談に乗って下さいね。じゃあ、お先に失礼します。」


「お疲れ様でした。」



口からサラリと出任せを言い、有紗の誘いを断った。

彼女は如何にも残念そうに、軽くうなだれながら帰って行ったが、あれは演技だ。あの女は、あんなにしおらしくはない。


美しいのは外見だけ。



性格はもの凄く悪い。



学校の皆は上手くあいつの表面上の仮面に騙されているようだが、仮面を外したあいつは、生徒や同僚教師を相当嫌っている。

不満や悪口を何度も聞いている俺には、日頃の笑みなど通用しない。




冷めた目で有紗の出て行った職員室のドアを一瞥して、机に置かれた資料を読んでいると、早乙女から飯を食いに行かないかと誘われた。

こいつに誘われたのは何回かあるが、何故だかいつも俺が奢っていたので、今日はこいつに奢らせる事にして、有紗にしたのと真逆の答えを、つまり行くと答えた。

有紗のプロフはここにします。



相良有紗(サガラアリサ) 27歳

唯が通う高校の家庭科教師。

翼の元カノ。自身の二股が原因で破局。現在は、亨とセフレ関係。

女子大のミスキャンパスだった美貌とスタイル、教え方も丁寧で、生徒の立場で物を考えてくれると評判で、生徒や同僚教師に憧れられている。

しかし、性格は利己的で、自己中。

翼の彼女たちに嫌がらせをしていて、別れさせていた。

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