第二十九話
脅威の吸引力…じゃない、強引な珠緒さんからご招待を受けてしまった。
どうしよう…。
来週行かなきゃいけないなぁ。先生と翼さんはいないって言ってたけど、珠緒さん一人なわけじゃないよね…。むむむ…。
ていうか。
その前にテストだよ!!!!
その事をようやく思い出して、こつこつと勉強を始めた。
日本史以外の教科は、教科書やノート、出されたプリントなどをもう一度やり返したり、読み返すことで覚えるのだけれど、日本史はどうもそれが出来ない。
いつしか、今週の学校も終わりになる。テスト日程も出た。一番嫌な二日目…。終わってる。
必死に放課後の今も勉強しているけれど、全く成果が感じられない。
名前がややこしいんだよぉぉぉ!!!誰、水野忠邦って!!なにやったの、この人…。
何で徳川幕府ってこんなに将軍いるんだろう…。覚えられない…。わかんないぃぃ…!!
キーと頭を掻き毟っていると、隣にいた綾乃も同じく、英語で躓いて机に突っ伏している。
綾乃は文法というか、文章の立て方が理解できないらしく、私が教えてもイマイチわかっているのか怪しい時ばかりだ。
そんな綾乃に、休憩する?と声をかけ、なにか飲み物を買いに行こうと思って席を立つ。ついでに綾乃も分も頼まれたので、それを買いに購買へ向かった。
購買ではパックのオレンジジュースを買い、綾乃に頼まれたイチゴオレも一緒に買った。
それを手にして、廊下をてくてく歩いていると、日本史準備室の前で遠藤先生とばったり会うはめになってしまった。
「こんにちはー…。」
「まだいたのか。早く帰った方がいいぞ、今暗くなるのが早いからな。」
「あー…そうですねぇ。」
窓の外を見回して、暗くなり始めた空を見上げた。
言われたとおり、そろそろ帰ろうかなー。そう思ってその場から立ち去ろうとしたら、先生からおい。と声がかかった。
「お前、今度の土曜日うちに招待されたらしいな、ばあさんからお前の住んでる住所教えろって連絡きたぞ。」
「そ…そうなんですよー。断ろうと思ってたんですけど、そんな事はさむ暇もなく決まってたんです。」
「ははっ、あの人らしい。で?行くんだろ?」
「本当は遠慮したいところですけどね。」
「あれー?神崎ちゃん、まだいたの?早く帰んな。」
先生と話していると、後ろから早乙女先生の声がしたので、振り返って早乙女先生を見ると、プリントを作っていたのだろう、沢山のプリントがその手に積まれていた。
「早乙女先生。いっぱいプリント持ってますね。重くないですか?半分持ちましょうか。」
「いやいやいや、神崎ちゃん、女の子なんだから重いもの持っちゃ駄目だよ。これは、遠藤先生に持ってもらうからいいよ。」
「は?なんで俺が。」
「いいじゃないですかー!これかなり重いんですよ、俺落としちゃいますって。ね?遠藤先生、助けて?」
「あほか。自分で運べ。」
一も二も無く断った遠藤先生に、早乙女先生は冷たいねー?と私に笑いかけている。
「ていうか、神崎お前本当に早く帰らないと暗くなるぞ、だいたいなんでこんな時間まで残ってるんだ。」
「綾乃と勉強してたんです。日本史ヤバイし…。あ、綾乃は綾乃で英語勉強して瀕死状態ですよ。」
「来週だもんね、テスト。なに?神崎ちゃん、日本史駄目なの?」
「毎回赤点ギリギリだ。」
「なんでそんなことバラすんですかー!?先生!忘れてください!!お願いします!!」
なんだって、そんな恥ずかしい事を言うかな!!思わず遠藤先生を睨んだ。と言っても先生は全く気にしていない様子だけど。
その態度が更にムカつく。
「んー?なかなか忘れられないかも。あ、じゃあさ、忘れたら神崎ちゃん、来週の土曜日俺とデートしてよ。」
「あ、無理です。」
だってその日は珠緒さんと約束あるし。
そう言わなかったけれど、何故か早乙女先生はがっくり肩を落としているように見える。どうしたのかな、あ、プリント重いとか?
「先生?プリント重いんだったら、やっぱり私が…。」
「いや、俺が持つ。おい、早乙女、さっさと来い、行くぞ。じゃあな、気を付けて帰れよ。」
「あ、はい。じゃあ遠藤先生、早乙女先生さよなら。」
「あぁ。」
「…うん…。気を付けて帰ってね、神崎ちゃん…。」
なんだかいきなり元気が無くなった早乙女先生と、それを面白そうにみている遠藤先生を不思議に思いながら、綾乃の待つ教室へ戻って、イチゴオレを渡して、帰り支度をして、それから二人で学校を後にした。
早乙女悠生撃沈。…か?!




