第二話
放課後になり、各々クラスメイトは帰り支度や部活に行く準備をしている。
「唯、今日もバイト?」
「ううん、今日はお兄ちゃんの日なの。」
「あれ、帰って来たんだ。確かNYに行ってたんじゃなかった?」
と綾乃が聞いてくるので、こくこくと頷く。
「おみやげ何買ってきたかな?」
と楽しそうに笑いながらうきうきしてる彼女を見て、思わず苦笑してしまう。
「帰って来てもなぁ…。『あの』うっとおしさを考えるとウンザリだよ…」
「ああ、まぁ確かにね。でもま、久しぶりの兄孝行してあげなさいな。」
「…むぅ。」
演劇部に所属している綾乃とサヨナラし、学校をあとにする。
「ただいまー」
私は高校に入学する際に一人暮らしを始めた。だから帰宅しても「おかえり」という声が返ってくる事はない。
それももう半年も経つと大分慣れてきた。最初の頃は寂しくてしょうがなかったな。お母さんも半年前に亡くしたばかりだったし…。
そんな事をつらつら考えながら、手洗いをしていると携帯が鳴りはじめる。
…お兄ちゃんだな。絶対…
携帯を見るとやっぱり『お兄ちゃん』の文字が。
「もしも『唯ー!!!!!』」
余りの声の大きさに思わず携帯を耳から離す。
「お兄ちゃん、うるさい!!」
『あぁ、ごめんごめん。ついね。今どこにいるんだ?』
兄のすごく嬉しそうな声がする。くぅ…わざとだな…わざとおっきい声で呼んだな。
「もう部屋にいるけど、お兄ちゃんは?この時間だとまだ空港?」
『いや、今は唯のマンションに向かう車の中だ。あともう30分ぐらいで着くよ。』
「うん、わかった。部屋で待ってればいいんでしょう?」
『そうだね。久しぶりに唯に会えるから嬉しいよ。僕がNY行ってる間、何もなかった?』
「NY行ってる間って言っても、たった1ヶ月じゃない。何も無かったよ。それに、お姉ちゃんが週2で訪ねてくるし、パパも毎日電話してくるし。」
「それでも!!唯は可愛いんだから、誰かにかどわかされたりしたらどうするの!!あぁ、やっぱり一人暮らしなんか絶対止めるべきだった…」
あぁ、始まった…。思わず眉間に皺がよる。
最早お馴染みになりつつある『一人暮らしは危ないから絶対にやめなさい』発言。
私が高校入学を機に、今まで住んでた家を出て一人暮らしをすると言ったら、パパと兄姉は大反対をした。まだ高校生なのに今から一人暮らしをしてどうするんだとか、危ないから絶対駄目だとか…。
あげくに、私達と一緒にいたくないの!?って言って姉が大号泣し始める始末…。
いやぁ、あの時は完全にカオスだったなー…とどこか遠い目で思い出す。
結局カオス状態のまま受験を迎え、高校に無事合格。散々話し合い、妥協しあい(縋り付かれ)した結果、パパが借りたセキュリティの万全なマンションに住む事になった。
しかも、パパ、お兄ちゃん、お姉ちゃんの月何回かの自宅訪問(プラスお泊り)も付いた。ちなみにその日は、『パパの日』、『お兄ちゃんの日』、『お姉ちゃんの日』と決められている。
この時点で一人暮らしの意味はないのでは…とお兄ちゃんの電話越しの声を聞きながら、ひっそりとため息をこぼした。
シスコン兄登場