第二十四話
『唯ちゃん、小さいのに編み物上手なんだねぇ。』
『僕に編んでくれたの?本当に!?ありがとう、すごい嬉しい!』
『大好きだよ。』
ウソツキ
目が覚めたら、私は泣いていた。
枕元にいたナイトが、心配そうに私を見ている。手を伸ばしてナイトの毛並みを梳いてから抱き締めた。
久し振りに見た『あの人』の夢。
最近は見なくなってたのに…。ぐしぐしと目をこすって涙を拭った。
先生にからかい半分で言われた言葉に、私は久し振りにキレたと思う。
いつもならあんなにキツく言わないはずなのに。
だけど、嫌な記憶が蘇ったのも本当で、だから感情が高ぶって、あんな夢を見たんだろう。
気分が悪いまま、先生の事を思い出した。
私、キレたんだよね…。それだけに今日学校で会うのが気まずくて仕方ない。
嫌だなー、会いたくないなー。
でも今日からテスト前週間だから行かなきゃならない。あぁ気が重い。救いなのは、今日授業ないことかも…。
「おはよー、唯!」
「あ、綾乃。おはよう。金曜日はごめんね。びっくりしたでしょ?」
「うん、まぁびっくりしたっちゃあしたわね。お姫様抱・っ・こ!」
うっ!またそれか!!せっかく忘れてたのに!!
でも周囲を見ても、別に何かを噂されたりしてない所を見ると、意外に広まってないのかも。
「もうそれはいいよ…。」
朝から肩をがっくり落としながら、教室に入った。
放課後になっても先生と会うことはなく、このまま無事帰れる!
テスト前なので部活がない綾乃と一緒に帰ろうと声をかけた。
部活の事でちょっと先輩と話してくるから待っててと言われたので、綾乃が来るまでがらんとした教室に残って、待っている間マフラーを編んでいようと持ってきていた毛糸と編み棒を出して、編み始めた。
赤い毛糸がするすると編めていく。
放課後特有のざわめきがBGMとなって、かなり気分が落ち着く。指を動かしながら、珠緒さんの事をふと思った。
ちゃんと編めてるかなぁ。また目数合わなくなってないかなー。
今週、来週はテストあるからバイト行けないんだよね。
でもどうやってか連絡取りたいんだけどどうしようかな…。一番簡単なのは、先生なんだけど会いたくないし…。
むー…。
「おい。」
どうしよう、珠緒さん携帯持ってるかなー。
持ってそうだよね、まさかスマートフォンとか持ってたりして!
「おい!」
「ぅえっ!?」
いきなり声をかけられて、文字通り飛び上がって驚いた。後ろをバッと振り返ると、そこには先生が機嫌悪そうに仁王立ちでいた。
ななななんでこんな所に…って学校だから当たり前か!
会いたくないと思ってた次の瞬間に会うなんて、運悪すぎじゃない!?私!!
「ど…どうかしましたか…。」
動揺で言葉がどもる。
不機嫌なのを隠そうともしない先生は、白衣を着て、そのポケットに両手を突っ込みながら椅子に座った私を見下ろしていた。
おもむろに片手をポケットから出すと、その手には小さな手紙が握られていた。
「これ、うちのばあさんから。多分連絡先とか書いてるはずだ。」
?マークが私の頭の上を漂っていたはずだ。先生が私の顔を見て吹き出したから。
「お前、『珠緒さんの編み物の先生』なんだろ?教えてやるには、連絡先知らないと駄目じゃないか。昨日、実家に寄った時チラッと見たけど、もうヤバいぞ、あれ。」
「ヤバいって…?」
「なんかおかしな場所に棒が刺さってたぞ。」
…珠緒さん…一体何したんですか…。
何だか想像に固くない光景が浮かんでしまい、思わず苦笑してしまった。先生は私の編んでいるマフラーを手にとって見ていた。
「お前たちマフラー編んでるんだろ?お前が編んでるのと、ばあさんが編んでるのが全く別物になってる。早く連絡してやれ。と言っても、先にテストか。…言っとくが、今回範囲広いぞ。」
「え!?マジですか!?」
嘘でしょ!?範囲広いってかなりヤバいんですけど!!マフラーなんて編んでる場合じゃないじゃん!!
私は慌てて、マフラーを片付けて勉強をしようとした。
のだけれど…。
「先生、放してくれませんか。私勉強しないとヤバいんですけど。」
じーっとマフラーを手に取ったまま私を見ている先生に、内心首を傾げた。
…な…なに…?そんなにジロジロ見られると気まずいんですけど…。
「お前さー…、」
「ゆーいっ!お待たせ!帰ろー!!あれ?遠藤先生…?。もしかしてお話中でした?」
「あぁ、テストの事で少しな。林、今回の日本史は範囲広いから、一応クラスの奴に教えてやれ。じゃあな、早く帰れよ。」
そう言って、私の頭に手を置いてぽんぽんと軽く弾ませた後、先生は教室を出て行った。
昔は私もテスト範囲で四苦八苦したもんですよ…(黄昏)




