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第23話

今回も亨視点でお送りします。

冷たい目をした神崎を呆然としながら見ていると、ナイトと呼ばれた犬がくぅーんと鳴いた。

それを見た神崎が一撫でした。


「編みませんよ。大体先生だったら、私じゃなくてもいろんなもの編んでくれる人いるでしょう?わざわざ生徒の私に編んでくれる?なんて誤解を招くような事聞かなくてもいいじゃないですか。面白い反応が得られると思っただけなら、止めて下さい、本気でムカつきます。」


「………」


「帰らないんですか?」


「そうよねー?さっさと帰れ!!バカ遠藤!!」



冷たい態度と、冷たい目。

一体この子は誰だ?

少なくとも、学校では見たことがない。その彼女の変化に驚いて、素直に謝罪の言葉を口にしていた。




「悪かった。さっきの事も謝る。」


「別に謝って貰うことでもないですし、さっきのは私が悪かったんです。先生が謝る必要ないです。」


「いや、でも…。」


「何かあったの?ちょっと、バカ遠藤!あんた唯に何したのよ!!」



バカバカうるさい美奈はこの際無視だ。

ここまで頑なな態度を取られるとは思っていなかったので、大人しく帰ろう。そう思って、出口に体の向きを変えた。



「あぁ。じゃあ帰る。悪かったな。」


「お姉ちゃん、お姉ちゃんも帰るんでしょ?彰義さんとデートなんじゃないの?」


「うん、じゃあ唯、ナイトをよろしくね。じゃあねー、ナイト。唯もね。」


そう言って、犬を撫でて神崎をもう一度ハグした後、頬にちゅっとキスしてから、俺と一緒にマンションのエントランスを出た美奈は俺を物凄い目線で睨んでいた。

大体言いたい事はわかっているから、ため息一つ付いて、美奈に向き直った。


「なんだ。」


「あんた、唯の地雷踏んだわね。どうすんのよ、あれ。暫く機嫌直らないじゃない。」


「はぁ?からかったことか?機嫌なんて直るだろ、最近の女子高生なんだから。」



そこまで言って、美奈は呆れたと言わんばかりの態度を取っていた。

なんだ、一体。何でそんな目線で見られなきゃいけないんだ。あぁ、もう面倒だ。



「そうね、あんたが付きあって来てた女なら何か買ってあげたりしたら機嫌直るでしょうね。」


「随分棘があるな。ていうか、付きあってたわけじゃないんだが。」


「あーら、そうだった、そうだった!遊んでたんだったわ。でも、唯の機嫌はそんなんじゃ直らないのよ。…祥子ママももういないのに、あんなに機嫌悪くなった唯を宥められる人っていないのよね。全く…暫く唯に会えないか…。」


「なぁ…聞いて良いか。何で、『神崎』なんだ、あいつ。本当は桐生なんだろ?」



ずっとそれが疑問だった事だった。祖母には追求するなと言ったはずが、俺が気になって聞いてしまった。ここまで生徒の事に首を突っ込む気は無かった。だけど、さっきの年不相応な態度と冷たい目。

気になってしょうがなかった。

その答えは、何故か桐生さんより美奈の方教えてくれるような気がしたので、そのまま聞いてみる事にした。

美奈は目を器用に片方の眉を上げ、俺を一瞥した。



「『神崎』って言うのは、唯の実の父親の姓なのよ。祥子ママ…唯の母親なんだけど、祥子ママが死んでから、半年位経ってから唯が突然言ったのよ。『高校に入ったら、この家を出て、神崎に戻る』って。当然皆反対したわ、特にパパがね。だけど、唯の決心は変わらなかった。仕方ないから、あんたんとこの理事長に話を通して、桐生っていうのは伏せておいて貰ってる。確か唯があたしたちと義理の家族だって知ってるのって、理事長と学担、担任だけだったはずよ。そう言う事だから、あんたも喋るんじゃないわよ。」


「あぁ、誰にも言うつもりはない。だけど、なんで家を出たんだ?お前の父親とも不仲じゃないんだろ?」


「それがわからないのよね。あまりに突然の決断だったから…。理由を知ってるはずのパパも何も教えてくれないしね…。」


「そうか…。あ、あと一つ。あいつの地雷って何の事だ?」


「…あんたが何か編んでくれないかって言った事。」



はぁ?たったそれだけ?

それだけであんなに態度が急変するものか?



「わからないって顔してるわね。まぁ、当然か。あの一言は唯にとっては禁句なの。何も知らなかったからいいけど、知ってて言ってら完璧、唯に嫌われる。それくらい唯には地雷なの。お兄ちゃんも時々編んでって言ってるけど、それでも編んでくれないわ。ていうか、お兄ちゃんもなんで編まなくなったか理由知らないから、唯に嫌われて無いだけなんだけど。」


「どういう事だ?」


「何も知らなくていいのよ、あんたは。どうせ唯は誰にも編まないんだもの。天変地異が起きても、あんたに編んであげるなんて事はありえないわ。じゃあ、話はここまでね。私行くから。」



くるりと向きを変えた美奈は、長い脚にヒールを響かせ颯爽と歩き、駐車場に停めてあった車に乗り込んだ。

俺の前を通り過ぎて行く時、車のウィンドウを開けた彼女。何かを言い忘れたのかと思って、それを見た。


「あんた、唯に手、出すんじゃないわよ。」


「それ…お前の兄も言ってたぞ…。」


「お兄ちゃんも言ってたかもしれないけど、一応ね。唯に手出したら殺すからね。わかった?あ、そうそう。特別授業とか言うふざけた事も止めてくれる?じゃあね。」



勢いよくエンジンを噴かせて車道に出て行った美奈を見送って、再度ため息を付いた。


美奈に聞かされた話に、先ほどの神崎の態度を思い出す。

誰にも編まない?

だけど、祖母には編んであげてる…いや、違う、祖母には教えているだけだ。

編んで『あげている』わけではない。



なんだか、せっかくの休みだと言うのに疲れた。

明日からはテスト問題も作成しないといけない。俺も帰ろうと、自分の車に乗り込んだ。ふわりと香ったのは、車の香りでも俺の香水の香りでもない、神崎の甘い匂いだった。



次から唯視点に戻ります。

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