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第二十話

驚いたのは、私だけではなかった。先生も驚いて、目を見開いている。


「亨、どうかした?あれ?おばあ様、この子はどなたですか?」


先生と同じ顔の人がそう言った。おばあ様…。

おばあ様!?


慌てて珠緒さんを見ると、私を見て優しく微笑んだ。



「ほら、亨、そんなところで突っ立ってないで、中に入りなさい。この子はね、私に編み物を教えてくれているの。そのお礼で今日は連れて来ちゃった。だから二人とも気にしないでね。」


「そうなんですか。お嬢さん、お名前は?」


「あ、私「神崎唯だ。」」


割って入った先生の声に、珠緒さん達は先生の方を見た。


「あら、亨知ってるの?」


「知ってるも何も…俺の生徒です。」


そこまで言って先生はため息を付きながら、私の前に胡座をかいて座った。

先生の隣には、同じ顔の男の人が座っている。

先生って双子だったんだ…。この顔が二つも…。心臓に悪いなぁ。だけど、この状況…。先生思いっ切り私見てるし!


「こら、亨、そんなに睨むなよ。怯えちゃってるじゃないか。ごめんねー、弟が怖くて。これじゃあ先生やってるときも怖いでしょう。」


(たすく)、俺は睨んでないぞ。」


「あら、睨んでいるじゃない。」


「あのー…。」


三人とも一斉に私を見た。うっ!居心地悪さ倍増!!

もう帰りたーい!!


「珠緒さんって、先生のお祖母ちゃんなんですか?」


「おばあ様、何も話してなかったんですか?」



翼と呼ばれた人が珠緒さんを見た。先生は相変わらず私を凝視している。


「えーっと、唯ちゃんだっけ?見ての通り、君の先生の亨は僕の双子の弟、それはわかるよね。ちなみに、僕は亨の兄で翼。『つばさ』って書いて『たすく』って読むからよろしくね。」


「はい、初めまして。唯です。」


「うん、それでね。遠藤珠緒は僕らの祖母なんだよ。」


「まさか亨の生徒だったとはねぇ。世間は狭いわぁ。」


うふふと笑った珠緒さんは何だかすごく楽しそうだ。

楽しくないですよ、珠緒さん…。


「で?なんで神崎がおばあ様の編み物なんて教えてるんだ?」


「唯さんのお母様が作ったテディベアを、たまたま通りかかったお店で見かけたの。そうしたら、唯さんが私の編み物音痴を励ましてくれて、教えるから一緒に作りましょうっていうことになったの。あなた達にも編んであげたいけど、貴方達のおじい様に編むだけで精一杯だわ。」


「おばあ様が?唯ちゃん、大変でしょう。おばあ様は猫みたいで。」


くすくす笑いながら、翼さんは食事をしている。あ、左利きなんだ。へー。双子って言っても、違うんだなぁ。しかも、珠緒さんの旦那さんに言われてた事と同じ事言ってるし。


「ええ、まぁ…。でも頑張って編んでるんですよ。私も一緒に教えているので、完成したら褒めて上げてくださいね。」


「へー。唯ちゃんは編み物得意なの?」


「ええまぁ…。」


「お前の義父から教えてもらったのか?」


今まで黙々と食事を食べていた先生が、箸を止め、ここで口を開いた。

くそー…また面倒な事になっちゃったな。珠緒さんと翼さんは、思いも寄らぬ先生の一言に凍っているように見えるし。義父って言っても、お父さんは死んでるし、別に何て事はないんだけどなぁ。


「違います。母です。パパは編み物出来ませんから。あ、ちなみにお兄ちゃんとお姉ちゃんも壊滅的です。」


「ふぅん。桐生さんがねぇ…。」


「亨、どういう事?なんで唯さんのご家族の事を知っているの?それに桐生って?唯さんの名字は神崎でしょう?」


くすくす笑っている先生に対して、珠緒さんが問いかけた。翼さんも首を傾げている。


「翼、こいつは桐生さんの義妹だ。おばあ様、桐生総一郎をご存知ですか。母さんが好きな『カサブランカ』のデザイナーの。」


「桐生…もしかして秀人さんの義妹?」


「『カサブランカ』?知っているけど…。桐生総一郎って、確か前に『Dupont』のデザイナーじゃなかった?あのブランドを世界的なブランドにしたのよね。それまでイタリアの老舗ブランドだったけど、国内を出るほどのブランドじゃなかったのを、有名にしたので凄く世間を騒がせたのを覚えているわ。その桐生総一郎がどうしたの?」


「その桐生総一郎は、私の義父です。」


珠緒さんは驚いて、私を穴が開くんじゃないかって位見つめている。翼さんは、「秀人さんの義妹…」と、以前先生が、私とお兄ちゃんの関係を知った時と同じ反応してるし。うーん、なんか居心地悪いな、やっぱり…。


「でも、唯さん神崎って言ってるわね。どうして?」


「おばあ様、それは踏み込みすぎです。神崎、別に答えなくていいぞ。」


「はぁ…。」


正直言いたくなかったので、先生の申し出は嬉しかった。

止まっていた食事を再開したのだが、こんな雰囲気じゃなかったら、きっともっと美味しいんだろうなと思わせる食事なのに…もったいない。

見た目にも美しい食事を終えてお茶を飲んでいると、携帯が鳴っていた。すいませんと断って、部屋から出て電話に出るとパパだった。


『唯?お前もうマンション帰ってるか?帰ってるんだったら頼みたいことあるんだが。』


「ううん、まだ帰ってない。あのね、ちょっと今、食事に連れてきてもらってるの。」


『食事?誰にだ?』


…なんて言えばいいんだろう。昨日知りあったバイト先のお客さんのおばあちゃんに、食事に連れてきてもらってるって言えばいいんだろうか…。うーんと悩んでいると、パパが電話口で改めて私の名前を呼んだので、ここは正直に話すことにした。


「バイト先のお客さんの人に連れてきてもらったの。」


『お客って、まさか男じゃないだろうな。』


「違うよ、おばあちゃんだよ。」


『ふーん…。ならいいけど、お礼は忘れるなよ。』


「それで、パパ、何頼みたかったの?」


『あぁ、お前の部屋にあった書類持ってきて欲しくてな。でも、今日はもう遅いからいい。明日、誰かに取りに行かせるから、お前、何時に学校から戻ってる?』


「明日からテスト前週間だから、4時位には戻ってると思う。」


『わかった。じゃあ、気を付けて帰れよ。』


「うん、わかった。じゃあね、パパ。」



そうして電話を切って、再び部屋に入ると、何故か私を見る視線が生暖かった。

一体何事…?

訝しんでいると、珠緒さんがそろそろ帰りましょうかと声をかけてくれたので、慌てて食事のお礼をした。


「あの、今日はご馳走様でした。とっても美味しかったです。」


「いいえ、いいのよ。やっぱり女の子はいいわね。場が華やかになるわ。また一緒にご飯食べましょうね?」


にっこりと笑いかけられたけど、私はどう返せばいいのかわからず、曖昧に言葉を濁した。

ここからマンションまで帰るのは時間かかるなー。と思っていたら、先生が私に声をかけてきた。


「おい、神崎、俺が送って行く。ここからお前のマンションまでじゃ時間かかるだろ。」


「え!?嫌です!!」


あ、しまった、本音が…っ!先生が凄い勢いで不機嫌になるのがわかった。

だって、嫌なんだもん!!


「あら、亨、嫌われてるわぇ。でも、唯さん、亨に送って行ってもらって?私もこの子達に乗せて行ってもらう気で、車を帰してしまったのよ。亨が嫌いでも我慢してね?」


「いや、あのー…。」


「いいから乗れ。翼、おばあ様を乗せて行ってくれないか。俺はこいつ送って行くから。」


「いいよ。じゃあね、唯ちゃん。あ、秀人さんによろしく言っておいてね。」


「あ、はい…?」


「ほら、行くぞ。」



あれ?翼さんもお兄ちゃん知ってる?ぽかんとしている私の腕を掴んだ先生は、そのまま車に乗り込み、私のマンションまでの道のりを静かに走り始めた。

お待たせしました。

先生の双子の兄、翼登場です。と言っても、あまり目立っていないようにも感じますが…。

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