第十八話
ちょくちょく手直ししています。誤字脱字ばかりなので、読み返してひやひやしてます。
次の日の朝、私はナイトの散歩をしていた。
久しぶりに私と散歩が出来るナイトは、早朝から私を起こして早く早くと強請っていたので、私も眠い目を擦りながら朝の冷たい空気の中、散歩に出かけた。
寒そうだなと思って、マフラーを探したのだが見つからず、仕方がないのでお姉ちゃんのストールを借りて来た。
「寒いねー、ナイト。」
「わんっ!」
んふーと笑って、ナイトを撫でる。途中で行き違った散歩をしている人とも挨拶を交わし、家に戻った。
今日は、珠緒さんが来るって言ってたよね。何時頃に来るかなぁ。ナイトの脚を拭きながら、そんな事を考えていると、パパとお兄ちゃんが既に起きていて、仕事に行こうとしていた。
「おはよう、パパ、お兄ちゃん。」
「おはよう、唯。早いな、さてはナイトに起こされたか。」
「おはよう。外寒かったでしょう?早く中入って暖かいご飯食べなさい。僕達はもう出るから、今日送っていけないけど、大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ。今日は午後から3時間しかバイトないし、ゆっくりめに出ても大丈夫。二人とも気をつけて行ってらっしゃい。仕事頑張ってね。」
「あ、そうだ。唯、はい携帯。」
「ありゃ、忘れてた。えーっと。わ、綾乃からいっぱい来てる。」
「綾乃ちゃんも元気?しばらく会ってないけど。」
「うん、すごい元気だよ。」
「秀人、そろそろ行くぞ。じゃあ唯、行ってくる。気をつけて帰れよ。」
ぎゅーっとパパにハグされて、それを見ていたお兄ちゃんにもハグをされた。それから二人は、ナイトを撫でて、仕事に出かけて行った。
お姉ちゃんは、今日休みだって言ってたから、まだ寝ているようだ。
「さーナイト、ご飯食べようか!」
尻尾を振り、私に付いてくるナイトに破顔しながら、道代さんの作ってくれた美味しい朝ご飯を食べた。
綾乃にメールしようとしていると、お姉ちゃんがのっそりと起きてきた。お姉ちゃんは低血圧気味で朝が弱い。今日も例に漏れず、目が開いていない。
「…おはよう、唯ぃ…。」
「おはよう、お姉ちゃん。相変わらず朝弱いんだね。」
「仕方ないのよぉ…。あたし朝はダメなんだから…」
フラフラしながらシャワーを浴びに行ったお姉ちゃんを生暖かい目で見守りながら、綾乃にメールを打った。
まだ朝早いから電話は迷惑だよね。
【おはよう、綾乃。連絡くれてたみたいなのに、返せなくてごめん!金曜日は荷物ありがとう。身体はすっかり大丈夫だよー。心配かけてごめんね。】
よし、送信っと。
しばらくナイトと遊ぼうかなと思って、おもちゃを取りに行こうと腰を上げた時、携帯が鳴った。
『もしもし、唯?やーっと連絡着いたよー!金曜日からずっと電話してたし、メールもしたのに、全然繋がらないんだもん。どうしたのかと思ってたよ。身体は大丈夫なの?』
「おはよう、綾乃。ごめんねー、いっぱい着信あったのにびっくりしたよ。携帯、お兄ちゃんに取られてて、返してもらったのさっきなの。あ、身体は全然大丈夫だよー。」
『本当?良かったぁ。唯ったらいきなり倒れるんだもん。遠藤先生もかなりびっくりしてたんだからー。そうだ、唯!!唯ったら遠藤先生にお姫様抱っこされて保健室まで行ったんだよぉ!あー、超羨ましいー!!』
うっわ…やっぱりお姫様抱っこされたのか…。軽く頭を抱えて、綾乃の次の言葉を待った。
『あの後、教室騒然よ。まさか先生が、お姫様抱っこで唯を連れて行くと思わなかったからね。キャーキャー言われてたよ。』
「…本当に?うわぁ、明日学校行きたくなーいぃぃ…。私教室入るまでに生きていられるかな…。」
『大丈夫じゃない?いくらお姫様抱っこって言え、唯は倒れたんだから。それ教室にいる子なら全員知ってるしね。』
本当かな…。それに明日学校に行ったら、お兄ちゃんに頼まれたって言う特別授業があるみたいだし。綾乃にも言った方がいいよね。
「ねぇ、綾乃。実はさ、お兄ちゃんと遠藤先生って同じ大学の先輩後輩で、知り合いだったの。なんかすごい仲良さそうな雰囲気だった。」
『え!?そうなの!?』
「うん、それでねー…」
『ちょっと待って、唯。仲良さそうな雰囲気って、唯、その場にいたの?』
「うん、いた。あの日すごい雨だったじゃない?それで、先生の車でマンションまで送ってもらったんだよね。」
『送ってもらったの!?先生の車で!?』
あれ、なんでそんなに驚いてるんだろう…。一応私断ったって言うのも言っておかないとと思っていたら、綾乃が物凄い勢いで話し始めた。
『唯、さすがにヤバいかも!あのファンクラブの人達に、先生に送ってもらったってバレたら、呼び出しとか来るかもよ!!』
えぇぇ…マジで?
送ってもらっただけで呼び出しってことは…私が特別授業とかやっちゃうと相当危ないんじゃないのかな。なんか身の危険を感じてきた…。
「あのさ、綾乃…先生がお兄ちゃんに私の成績バラしちゃったみたいで、それで先生に特別授業っていうのを頼んじゃったみたいなの。どうしよう…。」
『うわ…、唯は日本史死んでるからね…。でもさ、明日からテスト前週間だから準備室とか入れないんじゃない?で、今回のテスト頑張れば特別授業っていうの受けなくていいかもよ。』
「そうだよね!頑張れば!!」
「32点が頑張れるのー?」
後ろから私の禁句が聞こえ、それと同時に、背中に重さがかかる。いつの間にシャワーから浴びたお姉ちゃんが、ほかほか湯気を上げながら、私の頭に顎を乗せて覆いかぶさっていた。
「お姉ちゃん。今電話中なんだけど。」
「綾乃ちゃんでしょ?綾乃ちゃーん、おはよー!」
『美奈さん?おはようございます。元気してました?』
「してるよー。唯、携帯貸してくれる?ちょっとあたし、綾乃ちゃんと話したい事あるの。いい?」
綾乃と話したい事?なんだろうと思いながらも、お姉ちゃんに携帯を手渡し、その光景を見ていようと思っていたのに、お姉ちゃんは歩いてリビングから出て行ってしまった。
全く…一体何話してるんだか…。
5分位すると、お姉ちゃんはなにやらご機嫌で戻ってきて私に携帯を返しがてら、にっこり微笑んで「唯、安心しなさい」と何やら意味不明な言葉を残し、ご飯を食べにダイニングに行ってしまった。
「もしもし、綾乃?お姉ちゃんと何話したの?」
『んー?何て事はないよ。でもね、唯、安心しなさい。美奈さんからいい事聞いたから!先生にも何も言われないで済むかも!』
「え?本当?」
「うん!!じゃあ、私これで切るね。詳しくは明日ちゃんと話すよ。じゃあねー。」
「う、うん。じゃあバイバイ。」
些か(いささ)疑問を持ちながら、そのまま電話を切った。