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第十五話

今日は暖かいとは言え、季節が季節なだけに、やはり編み物関連の商品が売れる。

私が密かに目を付けている毛糸もなかなか売れ筋のようだ。桜さんに、取り置きをお願いしようかなとも思ったのだが、気を使わせちゃいけないと思ってやめておいた。

私が帰るまでに、必要な数を確保出来るといいんだけどなぁ。



「唯ちゃーん、そろそろお店閉めるから、片付けお願ーい。」


「はぁい。わかりましたー。」


店をせかせか掃いていたら、聞き覚えのあるエンジン音が聞こえてきた。

その途端、桜さんが挙動不審になる。ぷぷっ、桜さん、お兄ちゃん来ましたよー。ちらりと桜さんを見ると、目が泳いでる。

全く…早いとこ二人とも素直になってくれないかなぁ。



「ゆーいー!帰るよー!!」


にっこにこしながらお兄ちゃんが店に入ってきた。抱きつこうとしてきたので、とっさに逃げる。


「もう少し待ってね。あと少し片付けなきゃいけないから。」


「いいよ、唯。桜にやらせろ。桜、唯は俺と帰るから。いいよな?」



と桜さんの方をチラリと見るお兄ちゃん。あぁ、桜さんのコメカミに青筋が…。



「あら、顔だけ男。ご機嫌よう。おあいにく様だけど、唯ちゃんは私が雇ってる従業員なの。バイトでもね。だからシスコン男。いくら義妹が可愛いからって、社会のルールは守らなきゃいけないね。わかるわよね?い・ち・お・う社会人なんだから。」


「ほーぅ?ではお聞きしようか。唯を雇ってる店長さん。唯は再来週の月曜日から期末テストだっていうこと知ってるか?唯の日本史担当の教師から聞いたんだが、唯は日本史の成績が芳しくないようでなぁ。」



げっ。忘れてたぁぁ!!しかも、なんでお兄ちゃん、日本史の成績が悪いって…。

そこで遠藤先生のニヤリと笑った顔が脳裏によぎった。そういえば、昨日二人で飲みに行ったって言ってたなぁ。一体何話したんだろう…。いくら先輩後輩だからって、言わなくてもいいのに…。


がっくり肩を落としていると、ますますお兄ちゃんと桜さんの喧嘩はエスカレートしていた。



「だいたい、あんたは唯ちゃんに過干渉なのよ!唯ちゃんだって年頃の女の子なんだから彼氏欲しいでしょうに、あんたみたいにうるさい兄がいたら、彼氏できるものもできないわ!」


「唯の彼氏!?俺の干渉ぐらいで諦めるぐらいの気持ちだったら、端から唯に手を出すな!!」


「あんたの干渉度合いがひどすぎるのよ!!あーあ、唯ちゃんも可哀相に。こんなシスコン男が近くにいたら彼氏出来ないわよねー?」



なんで私に振るんだろう…。彼氏なんて考えたことないから、別に欲しいとかないんだけどなぁ。

それにお兄ちゃんが思いっ切り桜さん睨んでるんですけど。


「おい、桜。お前、唯の事より、自分の心配しろよ。お前彼氏いない歴何年だよ。もう30前だろ。売れ残るぞ。」


「ぐっ!!う…うるさいわね!!あんたに関係ないでしょ!!しかもまだ4年あるし!ていうか、あんた今年で30じゃない。さっさと結婚でもすれば?綺麗な彼女いっぱいいるじゃない?」


「ば…!おま…っ!!唯がいるんだぞ!!」



やたらと焦っているお兄ちゃんだけども、私知ってるからいいんだけどなぁ。

まだ小学生の私がお兄ちゃんと歩いていると、綺麗な女の人が私を見て「隠し子がいたなんて聞いてない!!」と言って、お兄ちゃんを平手打ちした。びっくりしている私をよそに、叩かれたお兄ちゃんは平然と「君、誰?」と言い放った。

泣き出した彼女を冷たい目で見やったお兄ちゃんは、「さぁ唯、行こうか」といつもの笑顔で私の手を取り、号泣している彼女を無視して歩き去ったのである。

当時はさっぱり訳が分からなかったけれども、どうやらお兄ちゃんは相当女性関係が派手らしい。その辺は、流石にはっきりと聞いたことがないので、詳しい事はわからないが。



「お兄ちゃんサイテー。」



とぼそりと呟くと、今まで桜さんと喧嘩していたのはどこ吹く風で、「いや、違うんだ」と言い訳を始めたので、面倒くさくなった私はさっさと帰り支度をしに更衣室へ向かった。


着替えを済ませ、更衣室を出ようとして、まだ毛糸を買っていなかった事に気付き、慌てて店の方へ足を運んだら、なんと桜さんがお兄ちゃんを慰めていた。

驚いたが、せっかくのチャンスだと思い、しばらくそのままにしておこうと思ったのだが、今日はマンションではなく実家に帰るのだと思い出し、残念だけど二人に声をかけた。



「桜さーん、私毛糸何個か買っていきたいんですけど、いいですか?」


「あら、帰り支度出来たのね。ほぉら、バカ男。いい加減元気出しなさいよ。で、唯ちゃん、どの毛糸?あぁ、それね。何個?」



縋るような目線で私を見ているお兄ちゃんを放って置いて、目的の毛糸を手に取り「とりあえず5個位かな」と大まかな目安の数量を桜さんに教え、会計を済ませる。

帰ろうとお兄ちゃんを見ると、わかりやすく凹んでいた。

もー本当面倒くさいなぁ。


「お兄ちゃん、帰ろうよ。」


がばっと私を見たお兄ちゃんは「あのな、唯」と言い掛けたのだが、いい加減帰りたかった私は息を一つ吐いて、お兄ちゃんを見た。


「もういいよ、お兄ちゃん。お兄ちゃんは私から見ても格好いいし、モテるのわかるよ。だけど、それで傷付くのは、お兄ちゃんが本気になった彼女だと思うけど。」


言葉を飲み込んだお兄ちゃんは、私を見てぼそっと「零と同じこと言ってる」と呟いたのだが、私にはあいにく聞こえなかった。

黙って私達を見ていた桜さんは、苦笑しつつ、「ほらほら、暗くなってんだから、早く帰んなさいよ」と言って、店から追い出した。



帰りの車中は、気まずく、空気が重かった。別に悪い事を言ったわけじゃないんだけど、なんだろう。このジトッとした空気。


「あのね、お兄ちゃんさ。」


「………」


「桜さんの事好きでしょ。」


キキキー!!!!と急ブレーキがかかり、シートベルトが体に食い込んだ。

あ…あぶ…危ないなー!!文句を言おうとお兄ちゃんの方を見ると、目が限界まで開かれたお兄ちゃんが私を凝視していた。


「ちょっと、お兄ちゃん!危ないじゃな「僕が桜を好き?」」


「お兄ちゃん?」


「いやいやいや、有り得ないから。唯。僕と桜はあんなに仲悪いじゃないか。それがどう転んだら、恋愛感情が絡んでくるんだ?」


「……」


嘘でしょう…。

お兄ちゃんまさか自分で気付いてないわけ?もしかして、お兄ちゃんって本気になった彼女って今まで居なかったの?

うわぁ…これは…桜さん前途多難…。まさかお兄ちゃんが恋愛音痴だとは…。


がっくりとうなだれながら、気の抜けた薄ら笑いで「そうだね…」とお兄ちゃんに返事をして、私達は実家へと再び車を走らせたのだった。

女性関係百戦錬磨な人が、自分の恋愛には疎かったり。王道を外さない男、桐生秀人。

そのうち、スピンオフ出せたらいいなぁ。読みたい人いるかな…(汗)

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