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第十二話

なぜ今私は遠藤先生の車に乗ってるんだろう…。

断ったよね。私ちゃんと断ったよね!?なのになんで!?


雨が激しさを増す中、静かな車内の雰囲気が息苦しい。

どうしよう、本当に気まずい…。は…話す事…なんて無いよ!!共通の話題なんてあるわけないし!!どうしよう…。

そろりと先生の方を盗み見る。



やっぱり綺麗な顔してるわぁ…。睫毛ながー…。


「何だ、何見てる。」


ひっ!!


「いや!ああああの!保健室まで運んでいただいてありがとうございました!!」


「あぁ、別に。」


…ちーん。会話終了。

早く家帰りたいな…。こんなに気まずい思いする位だったら濡れて帰った方が良かったんじゃないかと真剣に思ってしまう。しかも、電車が停まった影響か渋滞が酷い。外を見れば、車のライトがキラキラしている。こういう状況じゃなければ、車の中だったら寝ちゃうんだけどなー…。



「ところで身体は大丈夫なのか。」


「え?あ、はい。おかげ様で…。」


急に声をかけられてびっくりする。もう会話は終わったと思っていたから。


「お前、軽すぎ。ちゃんと飯食ってるのか。」


「た…食べてます。ていうか、なんで軽いって…あぁ!!」


「何だ急に!!いきなりデカイ声出すな!!」


「すいません!!」


そうだよ、お姫様抱っことかっていう話じゃん!!あぁ、もう忘れてたよ!!うわー!尚更気まずいじゃない!!どっ、どうしよう!!でもでもでも、意識無かったし?ある意味セーフ?ていうか…。

私はこみ上げてきた質問を先生に聞いてみた。


「あの先生、つかぬ事をお聞きしますが。もしかして、保健室まで生徒みんなの前通りました…?」


「当たり前だろう。休憩時間の間に保健室まで運んだからな。」


げっ!!まずい!!私ファンクラブの人達に殺される!!最悪だ…。まさかそんな中で運ばれてたとは…。

急にどんよりとした空気を察したのか、先生がはぁーとため息を吐いた。


「安心しろ。お前顔色悪い、クマは凄い、意識は無いしで完璧に病人にしか見えなかったから。なんせ気になって保健室覗いても、全然起きる気配無いしな。」


「ぐっ…。もう本当にご迷惑かけてすみませんでした。あ、そこ右に入って行ってもらえますか。」


「あぁ。わかった。」


明日が土曜日で本当に良かった…。とりあえず一呼吸おける。月曜日が怖いけど…。

そう悶々としているうちに、見慣れた景色になっていた。もうそろそろ雨も小降りになって来たし、ここらで降ろしてもらおう。先生は私の事情を知らないから、あんなに大きなマンションに一人で暮らしている事を不審に思うだろう。

それになんとなく、お兄ちゃんがいそうな感じがするんだよね…。


「あの、遠藤先生。そこのコンビニで降ろしてもらえませんか。雨も小降りになって来たし、この辺から歩いて帰ります。」


「は?」


思いっきり不機嫌そうな顔になった。ひぃ!美形が凄むと怖いって本当だったんだ…!!


「お前、今日俺の授業の最後に倒れたんだぞ。それわかってるか?」


「はい、わかってますけど…」


「だったら大人しく乗ってろ。家まで送るから。」


ぐぅ…。何も言えねぇ…。

やっぱりいいですと言おうとすると、睨まれるので口を噤んで大人しくしていた。

ここから車で5分もかからない場所にマンションがあるんだけど、仕方ないので、マンションの場所を教えて、ふと光っていた携帯を見る。…なんとなく嫌な予感が…。


携帯をじっと見ていたら、急に震えだした。まさかと思って着信を見ると、やっぱり表示は『お兄ちゃん』

出たくないなぁー…。ブーブーと鳴る携帯に気付いた先生が「出てもいいぞ」と言うので、仕方なく通話ボタンを押した。


「もしもし、お兄ちゃん?どうしたの、こんな時間に。仕事は?」


「あぁ、唯。今日は仕事休みなんだ。ところで、唯、今何処?雨で電車停まってるから迎えに行こうか?」


「え?大丈夫。先生に乗せてきてもらったから。もうマンションに着くよ。ていうか、お兄ちゃんこそ今何処?」


「唯のマンションの前ー♪」


はぁ!?慌ててマンションの周りを注視すると、見慣れたお兄ちゃんの車が…。あんなとこになんでいるのよ!!


「あ、あの先生!!もうここでいいです!!マンションあれですから!!降ろしてください!!」


「は?待て、前まで行ってやるから。」


「いいですーーー!!!!!」


必死の説得も全然意味ない…。あぁお兄ちゃんが見える…。半ば魂の抜けた目で、マンションを見上げた。


「ほら、着いたぞ。」


「ありがとうございました…。」


「なんだ、いきなり。酔ったのか?」


違うんだけどな。あぁ、お兄ちゃんが先生の車の横に立ってる…。面倒くさいなぁ…。



「おかえり、唯。」


「た…ただいまー…」


先生の車から降りた私は、ニコニコと笑うお兄ちゃんに出迎えられた。あぁ背中に注がれる視線が痛い。刺さってる刺さってる!

そりゃそうだよね。こんな単なる女子高生が、話題の桐生秀人と一緒にいるんだから。



「…桐生さん?」



ん?何だ?後ろから声聞こえたような…。

声がした方を見ると車から降りた先生が、お兄ちゃんを見て驚いている。


「やっぱり桐生さんだ。」


「え?」


お兄ちゃんの方を向くと、お兄ちゃんもびっくりした顔をしていた。

え?何なに?先生、お兄ちゃんの事知ってるの?

お兄ちゃん…と聞こうとした時、「うわ…」と囁くようにお兄ちゃんが口を開いた。


「桐生さん、久しぶりです。色々メディアに出て話題になってますね。」


「あぁ、(とおる)、やっぱりお前か。お前、何年経っても変わらないな。」


「失礼な。少しは成長してますよ。」


楽しそうに話す二人から取り残された私は、どうしたらいいんでしょう…。

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