第九十八話
「きゃー、唯ちゃん似合うわー!!なんて可愛いんでしょー!!」
パパに贈られたコートを着ている私以上に狂喜乱舞している雅ちゃんをなんとか落ち着かせながら、私も姿見を見ながら隅々眺めた。
細部までこだわり尽くされたデザインながらも、着心地も考慮されたコートになっている。
そして着てみてわかったのが、やっぱりいいウールだったっていう事。柔らかい肌触りで、その割に軽くて暖かい。これは冬に着ても十分暖かいし、なによりもデザイン自体がすごく可愛い。
流石に学校には着て行けないコートだけど、普段出かけるときに着られる様なものだから今年の冬は活躍するんだろうなぁ。
でも、私が編んだマフラーとはちょっと色味的に合わない…。
真っ白なコートに、赤いマフラー。せっかくパパがデザインした可愛いコートに合わせるためには、どちらかといけば目を引きがちな赤のマフラーは無しかも。そうすると編んだばっかりのマフラーは、学校に行く時に使うといいんだろうな。
「これだけでも十分暖かそうね。ハイネックだから、首元も寒くないんじゃない?」
「ああ、そうかもしれませんね。中にタートルネックの服着たら、マフラーいらないですね。」
「やーん、すっごく可愛い!」
うっとりと私を見ている雅ちゃんに苦笑しながら、何故かデジャヴュを感じてしまう。
…いや、デジャヴュじゃないな。そう言えばお姉ちゃんも毎シーズン毎にこんな風にうっとりして、写真写真ーー!!と興奮してたっけ。
…写真…。
あ。
「あ、すみません、雅ちゃん。私ちょっと写メ撮らないといけなくて…」
「写メール?誰かに送るの?」
「はい。パパとお兄ちゃん達に。いつもは三人の目の前で試着するんですけど、今回はお兄ちゃん達海外に出て、見せられないので。一応早く教えないと、拗ねるので…」
「そうなの。じゃあ、私が撮ってもいいかしら?」
「え?いいですよ。そんなお手数かけるわけにはいきません。それに写メって言っても、姿見に写ったので十分ですから。」
「ええー!?撮らせてくれないの?いいでしょ、唯ちゃん。お願い、私に撮らせて!!」
お願ーい!!と手を合わせてお願いされ、懇願負けした私は自分の携帯を雅ちゃんに手渡した。
今持っている人が増えているらしいスマホではなく、私の携帯は普通の携帯。一応カメラ機能に重点を置いているのを選んで(ナイトを撮るから)買ったやつなので、画像自体はデジカメ並に綺麗なのが自慢。ストラップはお姉ちゃんとお揃いのスワロフスキー。
携帯をカバンから取り出して、切ってあった電源を入れて起動させる。カメラモードに切り変えてから、雅ちゃんに手渡した。
念のため、頬に貼ってあった湿布をはがした。目敏いお兄ちゃんとお姉ちゃんのことだ。すぐに連絡がくるに決まってる。
湿布を剥がしていると、心配そうな顔をした雅ちゃんが私を見て、そっと頬に指を這わせた。
「…まだ少しだけ腫れてるけど…カメラには写らないように撮るわね。」
「あ…ありがとうございます。」
「まだ痛むの?」
「少しだけ…。でも、もう大分痛く無いので、このまま湿布しなくても大丈夫だと思います。」
「そう?もしも痛むようだったら遠慮なく言って頂戴。すぐに氷でも湿布でも用意するわよ。」
「はい。ありがとうございます。」
ぺこりと頭を下げて謝意を示すと、頭をふわりと撫でられた。その何気ない優しさに、思わず目頭が熱くなる。
溢れそうになる涙をなんとか押し留め、カメラモードから待ち受け画面に戻ってしまった携帯を再びカメラに戻して、ようやく撮ってもらった。
撮ってもらった写メを確認し、お兄ちゃん達のパソコンに添付メールで送って再び携帯の電源を落とした。