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第95話

二話更新、二話目です。

その『魔王』は目の前の哀れな親子をターゲットに定めたようで、惜しげも無いフェロモンを撒き散らしつつも、その中にも存分に棘を含ませる。



「うちの子は確かに可愛いが、それは本人のせいではないだろうし。ましてや、異性にモテる・モテないなんざ、本人の意思に関わるもんじゃないと思うんだが?」


「でっ、ですが!」


「そもそも、あの無自覚の固まりみたいなうちの子が男を誘う?全く馬鹿言わないでもらいたいね。そこまで自意識過剰に育てたつもりはないんだよ。」



聞き方を間違えれば、『うちの唯は可愛いんだよ』と親馬鹿全開で言っているだけにしか聞こえないのだが、そこは流石に言うのは憚られた。

だが、それを真正面に捉えた吉川母は段々と激昂し始めた。



「あら?カエルの子はカエルって言いますもの!あれだけ派手に遊んでいたの過去がおありな桐生総一郎が、よくそんな事を言えますわね!」


「俺が遊んでいたのは全くの事実だが、生憎唯の父親は真面目一辺倒な男だったんだがね。ま、それはいい。俺が聞きたいのは、唯が何故こんな事に巻き込まれたか。それなんだがな?」



そう言うと理事長を睨みつけた桐生総一郎は、ソファーに深く腰掛けた。

そんな態度が気に入らなかったのか、それまで頬を染めていた吉川母がまたしても神崎の事に口を挟み始めた。それに一切動じない桐生総一郎は、ただ悠然とその言を聞いていたが、きっと腹の中では怒りが渦巻いて入るだろう事は容易に想像できた。


まあ確かにこの人は昔派手に遊んでいたかもしれないが、それも十年以上も前の話で、再婚してからはそういう話はとんと聞かれなくなった事を忘れてはいけない。

しかも、再婚によって日本で展開した『カサブランカ』を始めとした、様々なブランドもそこから一気に波に乗った。まさに再婚した事で運が付いたのかも知れない。

その再婚相手と言うのが、祥子さんだったと言うのは先日発覚した事だったが。



ふと目線を上げると、またしても吠えている吉川母がいる事にいい加減うんざりしてきた。

ちらりと時計を、すでに時間は一時間を越えようかというところまできている。既に校舎内には部活をしている生徒しかいない為、消灯されている教室もあちこち見えている。

いつまで拘束されるんだろうかと考えていると、それまで黙っていた吉川が口を開いた。



「ねえ理事長。このままだと神崎さん、停学…最悪、退学になるかもしれないんですよね?」


「…まあ、これまでの主張が通るんだったら。そうだろうね。」


「あの、私考えたんですけどー…」


「何をだね?」


「神崎さんが襲われたって言う証言をあたしがするんでー、それでその処分なんとかなりません?」



おいおい、急に何言い出すんだ、この空っぽ頭。と、思った事を素直に言えない立場が憎い。

驚いている大人を差し置き、吉川は意気揚々と話出した。



「そもそも、あたしがあの映像撮ったのだって立派なレイプ未遂の証拠。でしょ?だったら、あたしが唆したって言う不名誉なお咎めを喰らうのはおかしいし、そもそも助けられなかったのだって、あそこに誰も人がいなかったからだし。て言うか、結局は無事だったんだからいいじゃない。ね、ママ?」


「そ、そうよね。そうよ、その子、何もなかったんでしょ!?だったらよかったじゃない!」


「………」



後ろから見ている俺にははっきりとはわからないが、それでも背後からおどろおどろしいオーラが出ているのはわかる。黙り込んで一言も話さない様は、まさに魔王。

それが見えないバカ親子は、直も話続ける。



「でー、その証言するかわりにー、なんですけどぉ…」


「優子ちゃん?」


「あたし、『カサブランカ』のファッションショーに出たいんですよねー!」



あーあ…


死んだな。



「別に全部出させろって言うことじゃなくて、一着だけでもいいんですよ。一回だけでも出たら、マジみんなに自慢出来るし!ね、ママ、よくない!?」


「そ、そうよねー!!優子ちゃん、背も高くてスタイルだっていいものね!ママの自慢だわ!街を歩いていれば、モデルさんですかー?なんて声をかけられる事もあるんだから!そうよね、優子ちゃん、ナイスアイディアだわ!ねえ、桐生さん?たかだか一回、優子ちゃんをファッションショーに出すだけで、おたくの娘さん、学校を退学にならなくて済むんですよ?それで手を打ちませんこと?」



えらく上から目線の吉川母と、自身の提案に満足げな娘。


本当にこの親子はバカだなと痛感した。

吉川母が言う、『背が高くてスタイルもいい』と言うのは、あくまでも街を歩いている一般人基準。せいぜい頑張ってティーン誌の読者モデル程度のもので、専属のモデル達とは雲泥の差がある事をわかっていない。

現に、吉川程度の女なんてモデル業界には掃いて捨てるほど存在し、雑誌に載るまでには幾多の競争を勝ち抜いている。それもたった一ページ載るか載らないかで。


それが、一足飛びにショーのモデル、しかもあの『カサブランカ』の。



『『カサブランカ』のコレクションって、すっごい有名モデルであろうとも簡単には出れないのよ。海外で良く言う、スーパーモデルって言うの?その人達ですらオーディション選考があるらしいのよね。でもそのせいか、確かにコレクションは毎回毎回楽しいのよー!』



と、『カサブランカ』好きの母が言っていたのを思い出した俺は、吉川の提案なんぞ愚にも付かない妄言だと思った。

そもそも、神崎が襲われていた云々を棚に上げた吉川の提案は、提案にすらなっていない。

だから俺は、断るものだと思っていた。



「いいぜ。」



その言葉を聞くまでは。



「明日、オフィスまで来い。学校が終わってからでいいから。っとなると…17時までには来れるな。コレが俺の名刺だ。この住所がそのままオフィスになるから、受付で名前を言えばいい。話は通しておく。一度言った事だ、出来ないなんて聞かないからな。わかったか?」


「わ、わかりました!」


「言質は取ったからな。明日オフィスまで来たら詳しい話を進める。契約書も用意しておくから、判子も持って来い。ちゃんと来い。いいな?」



唖然としている俺達を捨て置き、桐生総一郎は携帯を取り出し、どこかへかけ始めた。



「ああ、俺だ、ご苦労さん。あのな、『カサブランカ』のコレクションの件なんだが、終盤で使うヤツ、何パターンか破棄して新しいデザインにすることにしたから、明日俺が行くまでに何点か新たなやつ考えておく。あー、それ少し待ってもらえないか。モデル変更になった。」


「う、うっそ…マジでーー…?」


「優子ちゃん、よかったわね!」



まさか、本当にコレクションに出す気なのか?

この、ド素人とも言える女子高生を?

スーパーモデルでも容易には出れないとされる、『カサブランカ』のコレクションへの出場を勝ち取ったモデルを差し置いて?


喜ぶ親子を、俺は信じられない気持ちで見ていた。

だが、それは次の一言で更に混迷度合いを深めた。



「美奈を降ろす。」



喜色に染まっていた吉川親子の顔が、驚愕へと変貌した瞬間だった。

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