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第93.5話・・・総一郎

降臨する前にパパ視点を挟みます。

その時パパは…

「月曜日には戻って来てください。絶対ですからね。あ、わかっていると思いますが、日本時間じゃありませんから。」



NYを発つ寸前までぐだぐだと俺に追いすがった秘書の工藤幸喜(クドウコウキ)は随分と憔悴しきった顔をしていたが、俺にはどうでもいいことだ。帰国させないために手は尽くしたとばかりに出国ゲート前で項垂れた工藤の頭を軽く小突いて、「善処してやるよ」と言ってゲートをくぐると、後ろから情けない声で「しゃちょーーーー」と呼ぶ声がしたが無視した。


海外で叫ぶんじゃねえよ、恥ずかしい奴。


だが、その声に反応する事も無くさっさと機内に乗り込む。

生憎東京行きは全便埋まっており、背に腹は変えられないとばかりに一機チャーターした。これを知ったら倹約家の唯が文句を言うに決まっている。

そんなところは全く母親とそっくりだ。


目下、俺の苛立ちの原因としては深夜に叩き起こされ、それから眠れ無かった圧倒的な寝不足などではなく。

もちろん、愛する義娘が暴行被害にあったことだ。



深夜、疲れた身体を引きずる様にしてようやく眠りについたと思ったら、けたたましくブラックベリーが鳴り、それは俺が取るまで鳴り止む事が無かった。

自慢ではないが、俺は寝起きがあまりよくない。それは自分で自覚しているし、祥子にも唯の父親であった千歳にも指摘されている。

その寝起きの悪さをそのままで出た電話の相手は、何故か焦っていて。



『総一郎さん!?やっと出てくれてよかったー!!』


「…誰だ、てめえ…」


『ひっ!す、すいません!孝明です!』


「…孝明…お前、今何時だと思ってやがる…」


『えーっと…16時…です。』


「ほぉう……俺の手元の時計じゃまだ真夜中なんだけどなぁ?」


『ど…どこにいるんですか、今。』


「N.Yだよ、このバカ!!」



この字を見るだけで気弱な舎弟気風全開な電話口の相手は、龍前寺孝明という。

ちなみに、唯の学校の理事長だ。


元々孝明は俺の弟の友人だった。

俺がイタリアへ行ったきり何十年も会っていない弟だが、まさかその友人と今こうして対面するのも珍しい。しかも、孝明は選民主義の弟の友人には珍しいほどのフラットさで、俺にも臆面無く話しかけてきたりしていたので、俺もまた可愛がっていたのだが…。

いつしか孝明はパシリのような役割へと変わっていた。まあ、もちろん説教好きの千歳が、それについて黙っているはずもなく、孝明にそれとなく言ったらしいがいつしかそれもしなくなったようだ。


千歳曰く、



『孝明って、犬っぽいよな。しかも大型犬…俺の気のせいかもしれないけど、たまに尻尾見える時があるんだよ。』



当時は笑って済ましたけれど、時が経つにつれてその意味がよくわかるようになった。

まあ…確かに犬っぽいのだ。


そんな孝明に暫くぶりに会うと名字が『龍前寺』へと変わっており、しかもその婿入りした家で一旗上げたらしい。

飲食業界で優良企業へと育て上げた孝明が次に目指したのは、教育。

その一環として、もともと学校経営をしていた龍前寺の祖父の学校のてこ入れだった。


今や龍前寺の学校は幼等部から大学部までの一貫校として、高い評価を受けている。勿論、今日教育理念や教育方法もしっかりしていて、教師陣も粒揃い。

そんな学校への進学を希望したのは唯だったが、学校では名字を旧姓で名乗っている。


『桐生』の名前でいろいろと苦労していたのは小学生や中学生でわかっているので、特に反対はしなかったが、やはり寂しいのは本音だ。



「で?何の用だ?」



孝明が俺に電話をかけてくるなんて珍しい。



『落ち着いて聞いてください。娘さんが…』


「唯がどうした。」



俺の勘が正しければいい話ではなさそうだ。


そして、その勘は当たってしまう。



『学校で襲われました。幸い、すんでの所で助けられたようですが、報告によるとどうやら殴られたようです。』



くらりと頭が回る。


その刹那、目眩がするほどの怒りが湧いた。



「誰にやられた。」


『うちの教師です。』



教師。



「殺していいか。」


『駄目です。』


「…どういう状況でそうなったんだ。」


『実は私も今出張先で、今さっきそれを聞いたんです。だから結果しかわかってないというのが実情です。ですが、総一郎さんには言っておかなければと思いまして。娘さんに連絡、取りたいでしょう?』



煮えたぎる怒りは収まらないが、孝明の言う通り。何よりも唯の安否を確認しなければ。

孝明に連絡をくれたことへ感謝を言うやいなや、すぐさま唯の携帯へ電話した。だが、着信はするが一向に可愛い声が聞こえることがない。

携帯が駄目ならマンションに帰っているかと思い、マンションにある電話へ連絡したのだがそれも応答無し。


何度も取られる事の無い電話を繰り返す内に、段々と募る焦燥感と怒り。



何で唯が。


ふざけんなよ、この野郎!



一向に繋がらない電話を何回も繰り返し、何十回目かの電話でようやく電話が繋がった。ようやく声が聞こえてホッとしたが、やはり元気がないように聞こえる。

こうなれば声だけだと心配で、秀人から教えて貰って重宝しているSkypeへ繋げようと思ったのだが、ここで一つ問題が持ち上がった。

生来のメカ音痴の唯は、わざわざ秀人が最新のパソコンを買って来てくれてネットにも繋がっているそれを使いこなすことが出来ない。生憎秀人も香港にいるし、美奈も日本にいない。頭を抱えそうになった時

、唯の隣で男の声がした。



男?誰だ?

一瞬またしても沸騰しそうになった頭だが、その男は先日会った教師で。


あの遠藤家の次男坊。

小生意気そうな顔ばかりが俺の印象に残っているが、そればかりではない雰囲気も持っていた中々の男だった。


そして、千歳を知っていて、生まれたばかりの唯も知っている男。




俺は運命だなんて神が仕組んだという、不確定なものを信じる気は無い。


だが、思えば運命と言うものは確実に本人達にはわからないところで廻るもので。


だからこそ、神が仕組んだと言われるんだろう。




ゴッ…!と地面に降りた衝撃で目を覚ます。


一般機とは違い十二分に広いチャーター機でも流石に丸一日も飛行していれば身体も痛いし、日付変更線も越えたことで時差ボケも起きている。


切っていた携帯に電源を入れて、まず孝明に連絡を入れる。

当然ながら唯は欠席、唯を襲ったクソ野郎は自宅謹慎中。そして、今日は事件を(そそのか)したとされる女子生徒と、その保護者の母親が学校に来るらしい。



「唆した、だあ?」


『まだはっきりとはわからないんですが。だけど、状況はあまり芳しくないですね。加害者の教師も、女子生徒も、唯さんが悪いって口を揃えているようで…』


「唯が?」


『始めに誘ったのは唯さんだって言ってますね。』


「…お前はどう思ってる…」


『それは確実に無いでしょうね。あの子はそんな小ずるい方法を取るなんて考えつかないでしょう。普通に考えれば、唯さんは被害者です。ただ、それをどう実証するか…難しいですね…』



どうやら状況は相当悪いらしい。

だが俺は唯の保護者として、そして何より親友と、愛した女の大事な一人娘を守る義務がある。



俺は孝明に最悪唯を転校させる旨を伝え、待たせてあったタクシーに乗り込んだ。





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