第九話
なかなか話が進まなくてすみません(滝汗)
私はぷりぷり怒りながら、さっさとリビングに戻った。怒られて、気持ち大人しくなった彼らも一緒になって付いて来る。
もっとも「パパのせいで拗ねちゃったじゃない」とか「俺だけが原因じゃないだろ」とかゴチャゴチャ後ろで言ってるけど。
むっつりした顔で「ご飯食べるの」と無愛想に聞く。
「「「もちろん!!」」」
即答されたので、ちゃっちゃと用意して食べちゃおう。んでもって、さっさとお帰り願おう!!
ダイニングに行き、今日のメインである鯖の味噌煮やお味噌汁を温め直す。
私だって明日は学校だし、やることはそれなりにある。あぁ、マフラー解体は明日学校に持って行ってやろうかなー。でも明日バイトだぁ。ついでに、お店で毛糸買って来ちゃおうかなー。
そう考えながら、温められたおかずを盛ってテーブルに並べた後、炊きたてのご飯をお茶碗によそう。うん、美味しそう。あぁお腹空いた。
「出来たよ~」と声をかけて、皆がテーブルを囲む。全員が着席した所で一息ついて、手を合わせいただきますをする。
私は、ご飯を食べるときには必ず手を合わせていただきますをする。これは箸の使い方と共に、今は亡き母から厳しく躾られていたからだ。
おかげで、箸の持ち方、扱い方には自信がある。
それを見てパパの顔がほこらんだ。
「そうやって飯食べ始める格好、祥子に似てきたな。」
「そりゃあ、お母さんの娘だからね。童顔なとこまで似ちゃった。」
大好きだった母に似ている事は嬉しい反面、複雑でもある。
母は可愛らしい顔をしていたが、童顔だった。そりゃあもう。
亡くなったのは50代より前だったが、周りからは30代にしか見えない!!と言わしめさせた、さながらアンチエイジングの神である。
前妻と離婚した後、私の母と出逢うまで独身を通してはいた父は、海外の有名ブランドでデザイナーとして忙しく働きながらも数々の浮き名を流していた。といつだったかお兄ちゃんがため息を尽きながら教えてくれた。
兄と姉に当時を語らせると、シーズン毎に連れてた女の人が変わってたけど、そういうヒトは自分には会わせる事はなかったらしい。
すごかったんだから。ゴシップ誌の常連だったし、バツイチ子持ちのくせに独身のセクシー男性ランキングで上位に入ってたんだよー。等々。
とても今目の前にいる人とは同一人物なのかいまいち首を傾げてしまう。
「唯が作るご飯も、祥子ママと同じよねー。唯、すっごく美味しい♪」
「よく祥子さんも鯖の味噌煮作ってたよね。僕は祥子さんに会って、初めて美味しい鯖の味噌煮って食べた気がする。」
「本当?お母さんってすごいねぇ。大絶賛されてる。」
くすくす笑いながら、箸が進んでいく。
皆からお母さんの話を聞くのは、無条件に楽しい。私が知らなかったお母さんの事をいろいろ知れるから。
食事が進むにつれ、パパとお母さんの馴れ初めになっていった。
「ねぇ、パパ。今日こそ教えてよ。どうやってお母さんと知り合ったの?」
「あ、それ、あたしも知りたい!!ねぇ、パパ!!教えてよ~」
「それ、実は僕も興味あるんだよね。何だかんだで絶対教えてくれないんだから。」
「そうだよ?お母さんも教えてくれなかったもん。いーっつも、パパに聞きなさいって言ってはぐらかされてたし。」
パパは身を乗り出して聞いてくる私達を見てイタズラっ子みたいに笑う。
「祥子が言わなかったんなら俺も言えないな。内緒だ、なーいーしょ。」
なんて言いながら唇に人差し指を当てて、片目を瞑る。
「えぇー?またそれー?」
「人の恋路を邪魔すると馬に蹴られるぞ、唯。」
ニヤリと笑って、それで話は終わりとばかりに、ご馳走さんと言って席を立った。
お姉ちゃん曰わく、当時のセクシー男性で上位だったパパが何故お母さんと再婚したのか未だに謎だ。
馴れ初めって気になるんだけどなぁ。
食べ終わった後のお茶を静かに飲んでいるパパは、ふと何かに気づいたように「さては唯も気になる男でも出来たか」とからかい気味に聞いてきた。
それを聞いたお兄ちゃんとお姉ちゃんはすごい形相に変わった。
「はぁ!?唯、まさか彼氏なんか出来たのか!?どこのどいつだ!?」
「嘘、本当!?ねぇ、誰だれ?どんな子なの?同級生?年上?それとも年下?だめよ、唯。あたしは許可出来ないわ。まだ唯は穢れなき乙女でいてくれなきゃお姉ちゃん泣いちゃう!」
「そんな事あってたまるか!!唯に手なんか出したら、その男消す!!!」
「お兄ちゃん、あたしも手伝うわ!!!」
「えー…っと…あのねぇ」
なんか頭痛くなってきた…。すごい剣幕で詰め寄られてるんですけど。もしも彼氏が本当にいるならいるって言えたらいいのに、生憎そんな人はいない。
ていうか、私は正直モテない。
校内に好きな人もいないし、告白されたこともない。まぁ、いいけどね。私は地味ーに穏やかーに日常生活がおくれれば。
「安心して。彼氏なんていないから。だいたい私モテないし。」
「えぇ~!?バカじゃないの、そいつら!!節穴なの!?こんなに可愛いあたしの唯を放っておくなんて信じられない!!」
「美奈、確かに唯は地球上で一番可愛い。そんなの当たり前だ。その点は認める。でもな唯、唯の彼氏なんて僕は紹介されたとしても全力で反対するからな!!というか、幼気な唯に邪な気持ちで近づく野郎なんて許さないけど!!」
…お母さん。
私に彼氏は出来るのでしょうか…。