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転生薬局は今日も営業中!〜異世界ドラッグストアで世界を救います〜  作者: もしものべりすと


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第十章 敵対者——製薬ギルドの陰謀

嵐は、静かにやってきた。


 最初の兆候は、仕入れの滞りだった。


「店長、困ったことになった」


 ある朝、トーマスが血相を変えて店に飛び込んできた。


「どうした?」


「月光草が手に入らない。いつもの仕入先が、売ってくれなくなった」


「理由は?」


「『上から圧力がかかった』としか言わない。どこの『上』かは、教えてくれなかった」


 健太の表情が、険しくなった。


 ——製薬ギルドか。


 予想はしていた。自分たちの成功が、既存の勢力の目に留まらないはずがない。


「エルフィナ。エルフの森からの仕入れは?」


「問題ない。そちらは、人間のギルドの影響を受けない」


「よかった。とりあえず、そっちで凌ごう」


 しかし、問題はそれだけではなかった。


 数日後、今度は別の問題が起きた。


「店長さん。街で、変な噂が流れています」


 マルコが報告に来た。


「噂?」


「『あの薬屋の薬は、呪われている』って。『使うと、瘴気病が悪化する』って」


 健太は眉をひそめた。


「根も葉もない噂だな」


「でも、信じる人もいるみたいで……今日、何人かの客が、薬を返しに来たんだ」


「返品?」


「『怖いから、使えない』って」


 リーネが、心配そうな顔をした。


「これは、意図的に流された噂ですね」


「ああ。間違いない」


 健太は腕を組んだ。


 仕入れの妨害。風評被害。典型的な妨害工作だ。


 ——相手は、本気で潰しにかかってきている。


 そして、決定的な事件が起きた。


 ある夜のこと。


 健太たちが店を閉めて休んでいると、外で物音がした。


「何だ?」


 健太が窓から外を覗くと、数人の男たちが店の周りをうろついていた。


 手には、松明。


 そして——。


「火だ!」


 マルコが叫んだ。


 男たちが、店の壁に向かって何かを投げつけた。火のついた布を巻いた石だった。


 壁に火が燃え移る。


「消火だ! 水を持ってこい!」


 健太が叫んだ。


 全員が飛び出し、井戸から水を汲んで火に向かった。


 幸い、火は壁の一部を焦がしただけで消し止められた。現代の建材で作られた店舗は、燃えにくかった。


 男たちは、消火活動を見て逃げ去っていった。


「くそっ……!」


 ゴルドが、焦げた壁を見ながら吐き捨てた。


「なんて卑怯な奴らだ。夜討ちとは……!」


「怪我人は?」


 健太が確認した。


「いない。みんな無事だ」


 リーネが答えた。彼女の手は、小刻みに震えていた。


「店長さん……これは……」


「分かってる。製薬ギルドだ」


 健太の声は、静かだった。しかし、その目には怒りが燃えていた。


「ここまでやるか……」


「どうするんだ、店長」


 マルコが尋ねた。


「泣き寝入りするのか? それとも——」


「泣き寝入りなんかしない」


 健太は言い切った。


「でも、同じ土俵で戦っても仕方がない。こっちも暴力で返せば、泥沼になるだけだ」


「じゃあ、どうする?」


「正攻法で行く。相手のやり方が不正なら、こっちは正当なやり方で勝つ」


 健太は、仲間たちを見回した。


「明日から、作戦を変える。受け身から、攻めに転じる」


 翌日から、健太は動き出した。


 まず、領主ヘンリック伯爵に面会を申し込んだ。


「伯爵閣下。製薬ギルドによる妨害工作について、報告いたします」


 健太は、これまでの出来事——仕入れの妨害、風評の流布、そして放火未遂——を詳細に説明した。


 伯爵は、難しい顔をした。


「……ギルドの関与を、証明できるのか」


「状況証拠しかありません。しかし、明らかに組織的な動きです」


「ギルドは、王国全土に影響力を持つ。私一人で、どうこうできる相手ではない」


「分かっています。ただ、閣下には公正な判断をお願いしたいのです。一方的にギルドの肩を持つのではなく——」


「誤解するな」


 伯爵は手を上げて遮った。


「私は、お前に営業許可を与えた。それは今も有効だ。お前が法を犯さない限り、私はお前を守る義務がある」


「ありがとうございます」


「しかし——」


 伯爵の目が、鋭くなった。


「——私にできるのは、この領内での保護だけだ。ギルドの本拠は王都にある。そちらに打って出るなら、私の力は及ばない」


「承知しています」


 健太は頭を下げた。


「とりあえず、この領内での安全が確保されれば、十分です」


 次に、健太は「反撃」を開始した。


 といっても、暴力的な手段ではない。


 彼が選んだのは、「情報公開」という方法だった。


「マルコ。各地を回るとき、こういう話をしてくれ」


 健太は、マルコに渡す文書を見せた。


 そこには、製薬ギルドの高すぎる薬価、独占による弊害、そして——今回の妨害工作についての説明が書かれていた。


「これを、人々に伝える。『なぜ、自分たちが攻撃されているのか』を、正直に話す」


「でも、これって……ギルドを敵に回すことにならないか?」


「すでに敵になってる。今さら遠慮しても意味がない。それより、こっちの味方を増やす方が大事だ」


 マルコは、しばらく考えた。


 やがて、頷いた。


「分かった。やってみる」


 作戦は、功を奏した。


 マルコが各地で話を広めると、人々の反応は予想以上だった。


「あの薬屋さん、そんな目に遭ってたのか……」


「ギルドの奴ら、汚いことしやがって……」


「俺たちにできることがあれば、手伝うぜ」


 庶民の多くは、製薬ギルドに良い感情を持っていなかった。高い薬価、傲慢な態度、庶民を見下す姿勢。そういった不満が、長年溜まっていた。


 健太の店は、その不満の受け皿になった。


 「庶民の味方」「権力に立ち向かう勇者」——そういったイメージが、自然と広まっていった。


 風評被害は、逆風から追い風に変わった。


 「呪われた薬」という噂は、「ギルドが流したデマ」として否定されるようになった。


「店長、客が増えてるぜ」


 トーマスが報告に来た。


「噂を聞いて、わざわざ遠くから来る人もいる。『応援したい』って」


「ありがたいな。でも、浮かれてる場合じゃない」


 健太の表情は、厳しいままだった。


「ギルドが、このまま引き下がるとは思えない。次は、もっと本格的な攻撃が来る」


「どんな?」


「分からない。でも——」


 健太は窓の外を見た。


「——覚悟はしておく必要がある」


 その「次の攻撃」は、予想より早く来た。


 一週間後。


 店に、一人の男が訪れた。


 豪華な服を着た、太った男。金の鎖、宝石の指輪。そして、傲慢な笑み。


「初めまして、薬師寺健太殿」


 男は、慇懃無礼に頭を下げた。


「私は、ギルバート・ロッソ。王国製薬ギルドの——」


 男の笑みが、深くなった。


「——ギルドマスターです」


 健太の背筋に、冷たいものが走った。


 ついに、本丸が動いた。


 物語は、新たな段階へと進もうとしていた。

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