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第3話 付き合うということ

翌週の月曜日。麗華と土曜日に付き合い始めてから最初の登校日。


僕は女子と付き合うのがどういうことなのか、身をもって実感した。


「おはよ~っ!!」


眠い目をこすりながら学校の最寄駅の改札を出ると、麗華が手を振りながら元気よく駆け寄って来た。


「えっ?待っててくれたの?」


「うん!一緒に登校したいなって思って!結構遅い時間なんだね。電車、2本も待っちゃった!!」


彼女は、そのまま僕に身を寄せて腕を絡めると、僕を引っ張って歩き出した。


「えっ?えっ?ちょっと・・・。」


比較的遅い時間とはいえ、まだ登校中の生徒もたくさんいる。もちろん周りに腕を組んで登校するような高校生カップルなんていない。これまでにも見たこともない。


自然と周囲の視線が僕たちに集まり、ヒソヒソ声も聞こえて来た。


「ちょっと・・・恥ずかしいよ・・・。」


「いいじゃん。付き合ってるんだから、見せつけてやろうよ~。」


羞恥心から身を縮める僕を意に介さず、彼女は腕を絡めたまま、たまに行き会う友達に「おはよ~!」と平気な顔で挨拶してる・・・。


結局、押し切られてそのまま登校したけど、教室に着いてさらに驚いた。


「「「「おめでと~!!」」」」


二人で教室に足を踏み入れると、クラス中の女子が一斉に僕たちのところに集まって来た。


「えっ?どういうこと?」


「ごめ~ん!!亮くんと付き合ってること、うっかり女子のグループLINEに投稿しちゃった~!!」


麗華が手を合わせながら舌を出している。でも恐縮している感じはしない。うっかりなんて言ってるけどきっと確信犯だ。


「いきなりで驚いたよ!どんな馴れ初めなの?」


「どんな告白したの?やっぱり大多くんから言ったの?」


「初デートはどこに行ったの?」


周りに集まって来た女子たちが、まるでワイドショーのリポーターのように矢継ぎ早に質問を投げて来る。


「えっと・・・もともとは私の一目惚れだったんだけど・・・亮くんから付き合ってくださいって言われて~。」


突然の展開について行けず焦ってあわあわとしている僕を尻目に、まんざらでもない表情で冷静に質問に答え続ける麗華。


「大多くんも、麗華にばっかりしゃべらせてないで一言ちょうだいよ!」


「こんな美人と付き合えて幸せだよね~!!」


「麗華を泣かせたら承知しないからねっ!!」


まるで生肉を投げ込まれた水槽の中のピラニアのように、ゴシップに群がる女子たちにもみくちゃにされながらも、なんとか包囲を抜け出し自分の席にたどり着いた。


他の女子はまだ麗華の周りに集まっている。クラス中の女子が集まっているみたい。


ただ、僕の隣の席に座っている、黒髪で眼鏡のいかにも真面目な感じの彼女は、ただ一人だけ女子の群れに混じらず、無表情に参考書を見ながら数学の問題集を解いていた。


彼女は本山莉子・・・。

麗華が成績で学年トップクラスだとすれば、彼女こそは正真正銘の学年トップ。

2年生最後の試験では学年1位だった。


・・・・ちなみに、自慢じゃないが2位は僕である。


その前のテストでは僕が1位だった。この学校では、常に莉子と僕の二人でしのぎを削り合い、学年トップを分け合っている。

入学以来、定期テストではこれまで5勝5敗のタイスコア。


「グループLINE見たよ。おめでとう。」


本山さんは無表情のままつぶやいた。視線は参考書をとらえたままだけど、僕に向けられた言葉であることは明らかだ。


「ああ、うん。ありがとう。」


「あと、今朝一緒に登校してるのも見た。」


「お恥ずかしい・・・。」


ああ、あれを見られていたのかと思うと、ちょっと赤面してしまう。


「彼女を作るのはいいけどさ。浮かれるのもほどほどにしなよ。受験生なんだからさ・・・。」


「うん・・・。」


冷めた口調の彼女は、浮かれた僕を軽蔑してる・・・なんて思わない。


去年も同じクラスで、それ以前からずっとしのぎを削って競って来たライバル関係だから、彼女の性格はよくわかっている。

彼女も僕のことをよくわかっているはずだ。


きっと、彼女ができたことで僕が油断して、そのまま転落していくことを本気で心配してくれているのだろう。


「も~う!!亮く~ん!一人だけ先に行かないでよ~!!」


本山さんにお礼を言おうとしたけど、麗華が話に割り込んで来たので言いそびれてしまった。本山さんは何事もなかったかのように数学の問題を解く手を動かし続けている。



「ねえねえ~!今度の土曜日にUSJ行こうよ~!」


学校からの帰り道も麗華と一緒。もちろん僕の右腕は完全にホールドされている。


「ごめん。土曜日は予備校だ・・・。」


「え~っ?じゃあ日曜日は?」


「日曜日も予備校・・・。というか、ずっと土日は予備校だよ。」


「え~っ!どうして~?」


麗華が唇を尖らせ、頬を膨らませている。


「どうしてって・・・受験生だから勉強しないと。」


ふと今朝、本山さんに言われた言葉を思い出した。


『浮かれるのもほどほどに・・・』


確かにその通りだよな。

彼女がいるからって勉強をおろそかにしちゃだめだ、と気を引き締める。


「でも、前の亮くん達はみんなあんまり勉強してなかったけど、必ずどこかしらの大学に合格してたよ~。」


「どこかしらって、どこの大学かが重要だし。麗華も教師になるために、京都にある国立の教育大学目指してるんでしょ?」


「フフンッ!言っとくけど、私はその大学をこれまで何十回と受験したけど全部合格してるからね。もはや勉強しなくても楽勝だよ。」


彼女はニヤニヤと得意げな顔でブイサインを送ってくる。


「それはうらやましい。だけど、僕は初めてだから必死で頑張んないと・・・。」


「ぶう〜っ!!!」


麗華の唇が、尖らせるを通り越して、タコみたいになっている。ちょっとかわいい。


「そういえばさ。亮くんはどこの予備校に行ってるの?」


「ああ、京都駅前の八条口にある予備校に通ってる。」


「あっ、そっか。あそこか~。そういえば前の亮くん達も通ってた・・・。」


そうつぶやくと、彼女は少しハッとした表情をした。


「そういえば、同じクラスでその予備校通ってる子っている?」


「あんまりいないけど。同じクラスだったら本山さんだけかな。」


「ふ~ん・・・。」


麗華は顎に手を当てて、少し考え込む表情になった。


「じゃあ、私もそこに通おっかな~。」


「えっ?勉強しなくても楽勝なんじゃないの?」


「いいじゃんか!一緒に受験勉強するのも青春って感じでいいよね!うん、決めた!じゃあ私もそこに通うね!」


彼女の唐突な思いつきに少し戸惑ったけど、でもこれで週末もいつも会えるし、勉強もできるから一石二鳥だなって思うと、少し嬉しかった。


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