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第2話 初デート

土曜日、城ケ崎さんとの約束の日、僕は待ち合わせ場所として指定された草津イオンの1階のスタバの前を行ったり来たりしていた。


よくわからない展開だけど、これが人生で初めてのデートになることに変わりない・・・。 


そう思うと朝の5時に目が覚めてしまい、そのまま居ても立っても居られず、待ち合わせより1時間以上も早く着いてしまった。


でも、正直、一人でスタバに入るのは気後れがすごいので、さっきからスタバの前の通りをうろうろして時間を潰しているのは我ながら情けない。


しかし、城ケ崎さん・・・本気なのだろうか?


あの喫茶店で話した始業式の日の翌日から、城ケ崎さんは、教室でも僕に熱い眼差しを向けてくるようになった。

それだけじゃない。少しでも時間が空くとニッコリと微笑みながら話しかけてくるし、すれ違う時なんか小さく手を振ってくれたりする。


城ケ崎さんはいつも楽しそうにおしゃべりしてくれるけど、何よりゲームとかアニメとか、僕の趣味をすごく理解してくれている。付け焼刃でこんな対応ができるだろうか?


しかし、だからこそ、いくつか疑問も感じる。


彼女は、もともと僕から映画に誘われたって言ってたけど、そうすると、僕はほぼ初対面から1週間もしないうちに城ケ崎さんをデートに誘ったということになる。

人見知りで気後れする僕の性格からして、そんなことあり得るだろうか・・・?


そんなことを考えながら腕時計を見ると、まだ9時25分だった。


「まだ約束の時間まで30分くらいあるな・・・。ちょっと外のコンビニで雑誌でも読んで来ようかな。」


そう思ってその場を離れようとした瞬間だった。


「やっぱり早く来てるね~!!」


ちょっとからかうような口調で声を掛けられ、振り返ると、ニヤニヤしながらたたずむ城ケ崎さんがいた。


ピンク系のフレアスカートに上品な白いブラウス。フェミニン系ファッションというやつだろうか。それに長い髪をアップにまとめていて、普段の制服姿よりもずっと大人びて見える。すらりと伸びた足も美しい。


「えっ?どうして・・・?」


「亮くんは、いつも待ち合わせよりも早く来る待ち伏せ型だからね。やっぱり今日も早く来てたね。せっかく早く来たんだし、すこしスタバでおしゃべりしていこうよ。」


戸惑う僕に構わず、彼女は僕の腕に自分を腕を絡め、体を寄せてきた。


えっ?大胆・・・。しかもこの柔らかい感触ってもしかして・・・。


頭の片隅でそんなことを考えながら、引きずられるようにスタバへ入ることになった。




「いや~、驚いた!まさかあんな展開になるなんて!!」


「フフッ・・・そうね。」


映画を観終わった後、僕たちは同じイオンの中に入っているコメダ珈琲でおしゃべりをしていた。お店は満席で、しかも5組以上待っていたので別の店を提案したけど、彼女が「どうしてもここがいい!」と言い張ったので、30分以上待ってようやく入店できた。


「しかし、まさかアニメシリーズとは全然違ってあんな陽キャ展開になるなんて・・・。テレビシリーズの再放送みたいな前作とは違うとは聞いてたけど、あの狂犬みたいなキャラがあんな性格になるなんて・・・。」


「フフッ・・・そうだね~。」


彼女は両手で頬杖をつきながら、優し気に目を細めてじっと僕の感想を聞いてくれている。


あれっ、そういえば・・・。


「もしかして・・・何十回もループしてるってことは、この映画も何十回も観てるってこと・・・?それこそ再放送だよね。退屈じゃなかった?」


彼女は、一瞬、少しだけ目を見開いた後、ニコッと歯を見せて笑った。


「そうだよ~。映画だけじゃなくて、DVDでも見せられてるし・・・なに?今回の亮くんはそんな配慮もできるタイプなの?」


「あっ、いや・・・うん。」


「大丈夫だよ。スクリーンじゃなくて、亮くんばっかりずっと見てたから。次の、あのシーンでどんな表情するんだろうとか思いながら。こればっかりは何度見ても飽きないよね~。」


彼女はおかしくてたまらないけどそれを必死で我慢するかのように、クックックと忍び笑いをしている。


「あれっ?赤くなってない?さっきも手をつなごうとしたら、手を離しちゃったよね~。今回の亮くんはシャイなのかな~?」


「・・・・・。」


からかうような話し方に憮然としていると、彼女がケラケラ笑いながらも、急に機嫌を取るような口調になった。


「ごめんごめん・・・。ところで・・・何か言うことないかな?私たちの関係について・・・?」


「何かって・・・?」


そこまで話したところで、ちょうど食事が運ばれてきたので話が中断した。僕は照り焼きチキンサンド、彼女はビーフシチューとバゲットだ。


「じ~っ・・・じ~っ・・・。」


フォークを手に取ったところ、彼女はそう口に出しながら僕のことを見つめてくる。僕はいったんフォークを皿の上に置いた。


「・・・あの・・・今日は楽しかったけど・・・。でももう少し考えたくて・・・。」


「えっ、え~~??なんで~?」


彼女は目を大きく見開き、いかにも意外といった感じで驚きの声を上げている。


「なんでもなにも・・・。まだ初めて話してから2週間くらいですよね・・・。それでいきなり付き合うって、逆におかしくないですか?」


「おかしいな~。これまではずっと、亮くんにこのタイミングで告白されたんだけどな~。」


彼女は腕組みをして首を傾げ、真剣な表情で考え込み始めた。


「それも・・・ちょっと疑問があるんですけど、城ケ崎さんの話だと、出会って1週間で僕から映画に誘って、それで2週間で告白したってことですよね・・・。僕の性格からしてその展開はちょっと考え難いんですけど・・・・。」


「ああ、なるほど。今回の亮くんは控えめな性格なんだね!!」


彼女の中で何か腑に落ちるところがあったようで、一人でうんうんとうなずき始めた。

怪訝そうな顔をして黙っていると、やっと僕の疑問に気づいてくれた。


「ああ、わかんないよね。実は、何度も人生をループして、その度に同じ亮くんに出会ってるんだけどさ、毎回微妙にキャラが違うんだよね。」


「えっ?どういうこと?」


「ほら、さっきの映画でも、アニメ版と映画版でヒロインの子のキャラが違ったじゃん。そんな感じで、やり直すたびに亮くんのキャラが少し違うのよ。強気な性格だったり、ひょうきんな性格だったり・・・それで今回は控えめで優しいタイプなんだなって。」


そう言うと、前の亮くんを思い出しているのか、うっとりした後、エヘヘッと表情を崩した。


「つまり、ループする前の僕は、もっと自信家で、出会ったばかりの女子を急にデートに誘ったり、告白したりするキャラだったってこと・・・?」


「そうそう!勘がいいね!いや~っ、最初は私も驚いたよ!!全然接点がなかった亮くんが、教室でいきなり馴れ馴れしく話しかけて来て、映画に誘われて、告白されてって強引に進めてきて・・・。私も当時は何も知らなかったから、こんなもんか~ってそのまま流されて付き合うことになっちゃってさ~。あっ、ちなみに私も今はこんなんだけど、昔はもっと大人しいタイプだったんだよ。実質は90歳近いから性格変わっちゃったのかな?笑えるよね~!!」


いかにも面白い話といった感じでケラケラ笑いながら話しているけど、どこで笑っていいのかわからない。

大人しいタイプだったって本当なの?

正直言って、親戚のおばさんと同じくらい図々しいタイプにしか見えないけど・・・。


いろいろと展開に付いて行けず、しばらく黙っていると、彼女はひとしきり一人で笑って落ち着いたのか、急に笑うのをやめ、真面目な顔になった。


「あのさ・・・。不安な気持ちはわかるよ。私も最初に亮くんに告白された時は、怖かったし・・・。だけど、今ではあの時、思い切って飛び込んでみて良かったと思ってる。むしろあそこで断ってたら一生後悔することになってたと思う。だから・・・亮くんにもきっと後悔させないよ。」


彼女から上目遣いでキラキラした瞳を向けられ、ドギマギしながらも頭の中では冷静に考えた。


僕は城ケ崎さんに惹かれ始めていると思う。容姿は完全に好みのタイプだし、話していても楽しい。

実は前から女子と交際することにもずっと興味はあった。だけど・・・。


「・・・こんな大事なことを簡単に決めちゃうなんて・・・ちょっと無責任というか。それに、僕にすごく期待してくれてるけど、前の亮くんみたいにその期待に応えられるかどうか・・・。きっと幻滅させちゃう・・・。だから・・・。」


きちんと伝わる自信はないけど、それでも僕が感じている不安を僕なりに正直に伝えようとしたら、話の途中で彼女は強く首を振った。


「違う!違うよ!!私が亮くんに幻滅することなんてない。キャラが違っても、私にとっては全部同じ亮くんなんだよ。むしろ、いつも最後には私が亮くんを幻滅させて、あの言葉を言わせちゃって・・・。」


彼女はグッと言葉を詰まらせ、ひどく悲しそうな表情をした。僕はどう声をかけていいかわからず、ただ黙ってその切長の瞳を見つめる。


「あのさ・・・。もし亮くんが・・・今回の亮くんが私に幻滅したら、いつでもあの言葉を言ってもいいよ。そしたら私はすぐに亮くんの前から姿を消すだろうし、私はループしてやり直すだけだし・・・。だから気楽に考えればいいよ。お願い・・・。」


手を合わせる彼女の目は、いつの間にか真っ赤になっていた。

正直言って、まだ腑に落ちないところは多い。

しかも自分は納得するまで決断して前に進めないタイプ・・・。

だけどこんなに必死な表情を見せられたら・・・。


「わかった。ごめん・・・。優柔不断な態度でごちゃごちゃ言って。よろしくお願いします。」


「えっ?ということは・・・?」


「僕と付き合ってください。よろしくお願いします。」


そう伝えた瞬間、彼女の瞳からポロリと一筋だけ涙がこぼれ、それから口角が上がり、頬が緩み、照れたように微笑みながら目を伏せた。


「そっかそっか~。よろしくね。いや~っ、この瞬間は何度経験しても照れくさいよね~。」


「うん・・・僕は初めてだけど・・・。そうだよね・・・。」


僕も思わず視線を落とすと、そこには手つかずの照り焼きチキンサンドがあった。


「あっ、ごめんね。食べよ食べよ~。ここは最初のデートで亮くんに連れて来てもらったんだけど、おいしいんだよ~。すっかり冷めちゃったけど。」


その言葉に思わず視線を上げると、彼女は嬉しそうにはにかみながら、ビーフシチューにスプーンを入れていた。

その姿を見ながら、不意に、僕の中に恋人同士になったという実感が湧いて来て、彼女を大切にしよう、これから先、何があってもあの言葉だけは口にしないようにしようと強い決意をした・・・。


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