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第1話 初めての告白

彼女、城ケ崎麗華さんとは、高校3年生になって初めて同じクラスになった。


艶やかな長い黒髪と透けるような白い肌のコントラスト、派手な名前に似合わずしとやかな印象の彼女は、かわいいというよりも、凛々しいという言葉がぴったりくる細身の美人。


容姿端麗に加えて学業成績は学年トップクラスだし、噂で聞くところでは、華道だったから茶道だったか・・・何か和風な習い事もしていて、その分野で将来を嘱望されていたらしい。


そんな目立つ彼女だったから、同じクラスになる前から当然存在は知っていたけど、話したことは一度もなかった。

接点も一切なかったし、彼女は僕のことを認識すらしていなかったとしても不思議ではない。


だから、同じクラスになった始業式の日の帰り道、校門で待ち伏せしていた彼女から、そのかわいらしい声で二人だけで話があると囁かれた時は心底驚いた・・・。



少し暗いと感じるくらいの照明、ひげを生やしベストを着たダンディなマスター、柔らかいけど高価そうで身を預けるには躊躇するソファ、コチコチと鳴る時計。耳がキーンとなりそうな静寂・・・。


彼女に誘われた喫茶店は、まだ高校3年生の僕にとってすべてが分不相応で、まったく落ち着かない。行き慣れた駅前のファーストフード店とかじゃだめだったんだろうか・・・。


居心地の悪さから少しそわそわしている僕を尻目に、彼女は慣れた様子でコーヒーカップに口をつけている。ただその切れ長の瞳は、さっきから僕をとらえて離さない。


ほぼ初対面に近いのに、急に二人だけで話があるなんておかしすぎる。

しかも、一介の高校生がこんな敷居の高そうな店に誘ってきたんだ。きっとただ事ではない。


もしかしたら、この後、怖い大人たちがやって来て、宗教とかマルチの勧誘をされるとか・・・。


「・・・・それで、お話というのは・・・?」


我慢しきれず僕から話を切り出した。話の展開次第ではすぐに逃げ出せるよう、カバンを近くに引き寄せておく。


カチャッ・・・。


コーヒーカップをソーサに置く音が静かな店内に響く。彼女は黙ったまま。口元は笑顔だけど、ジッと見つめてきた目がまったく笑ってなくて、少し怖い。


「・・・・単刀直入に言うわ。あなたは私の運命の人。だから私と付き合って、それで結婚して欲しい。」


「はい、それでは失礼します・・・。」


すぐに逃げないと。


これはこの間ネットで見たやつだ。


ある新興宗教では、宗教二世の女の子が結婚を餌に手ごろな男性を入信させて、一人一殺で信者を増やしていくって布教方法を取ってるらしい。

それで子どもをたくさん作らされて、その子どもが入信し、さらに若くして結婚して信者を増やす形で急成長してるって、そこそこ有名なYoutuberが言ってた。


「・・・ちょ、ちょっと待って。話を聞いて、亮くん・・・。」


彼女は立ち上がった僕の制服の裾を掴み、逃がしてくれない。


えっ?亮くん?いきなり名前呼び?

怖い・・・宗教怖い・・・。


「あ、あの・・・僕は先祖代々敬虔な浄土宗ですので・・・。」


「うちは真言宗だけど、そんなに信心深くないし、宗教は関係ないから・・・。お願いだからちゃんと話を聞いて・・・。」


とりあえず宗教の勧誘ではなさそうだったし、大きな声を出したせいでマスターからじろりと睨まれたので、席について話だけは聞くことにした。


「・・・・私はもう何度も時間を遡って同じ人生をやり直してるの。いわゆるタイムリープってやつ?」


突然の話題の転換に面食らい、思わず視線が泳いでしまった僕とは対照的に、彼女の瞳には一切の揺れがみられない。


「えっと、城ケ崎さんの創作小説の話?」


「違う!!私は真面目に話してるの!!」


テーブルに手を付いて身を乗り出してくる。

表情も真剣なままだし冗談で言っているわけではなさそうだ。


「でも、いきなりそんな話を信じろって言われても・・・。」


「わかった。じゃあ、証明してあげる。」


彼女はふうっとため息をついた後、一気にまくし立てた。


「あなたの名前は大多亮、お父様は公則で、お母様は佐和子。誕生日は5月19日、姉が一人と弟が一人、趣味はゲームでアクションゲームが好き。この時期ハマっているタイトルは・・・たしかオレンジクロック。好きな食べ物はオムライスとナポリタン。それから右足の付け根にほくろが3つ。私が何度も繰り返した人生で亮くんに直接確認した話よ。」


確かに全部合ってる。

えっ?どういうこと?しかも見えない場所のほくろまでどうして・・・?


「わかってくれたかしら?」


目の前の彼女は腕を組みながら、ニヤリと得意げに笑いかけてくる。


「とりあえずお話は聞かせていただきます。だけど、まだ信じたわけじゃありませんから。」


まだ半信半疑の僕に対して、彼女は少し呆れたような表情をした。


「・・・・まあいいわ。まず私自身も、なぜタイムリープしているのかわからない。わからないまま、これまで50回以上もループを繰り返している・・・。」


「そんなに・・・?」


僕が驚き、固唾を飲むと彼女は少し満足そうに微笑んだ。


「何十回と繰り返してわかったことがいくつかある。それはどの人生でも必ずあなたと恋人同士になること。あなたが私の運命の人だから。そして・・・あなたが私にある言葉を口に出し、それが私の耳に届いた瞬間に高校3年生の始業式の日の教室に引き戻されてしまい、ループが始まること・・・」


「ある言葉・・・ってなんですか?」


彼女はこの質問に答えず、指に水をつけ、テーブルに字を書いた。「わ」、「か」、「れ」、「る」?


「わか・・・。」


そう言った瞬間、彼女は人差し指で僕の唇を押さえて言葉をさえぎった。


「だめ・・・文脈に関わらず、私があなたからその言葉を聞いた瞬間に、私は過去に引き戻されて、この世界から消えちゃう。」


僕は人生で初めて、唇に女子の指の感触を感じたことにドキドキしながら、黙ってうなずく。


「この言葉を聞いた時以外で過去に引き戻されたことはない。きっと亮くんに一生その言葉を言わせなければ、このループから抜け出せる。だけど、これまではどれだけ努力しても、必ず亮くんの口からその言葉を出てしまった。だから、今回は初めて、亮くんにループのことを打ち明けたの。私の中ではもう70年以上も同じ人生を繰り返してる。しかも最後には必ず悲劇が待っている無間地獄・・・。だからお願い。私をこのループから救い出して・・・。」


深く頭を下げた後、再び顔を上げた彼女の表情は追い込まれた感じで、瞳には涙が溜まっていた。冗談でこんな表情はできない。本当に彼女は苦しんできたのだろう。でも・・・。


「あの・・・もしかして僕と関わらなければループから抜け出せるのでは?そうすれば、僕が城ケ崎さんにその言葉を言う機会もなくなるわけですし・・・。」


そう切り出した僕の言葉に、彼女は眉をピクリと動かし、勢いよくかぶりを振った。長い髪が舞って、ふわりと甘い香りが漂ってくる。


「いやだ・・・。だって、もう70年以上もずっと一緒の運命の人なんだよ。亮くんと別の人生なんて歩めない。それだったら無間地獄の方がマシ・・・。」


とうとうその瞳から大粒の涙がこぼれた。慌ててハンカチを差し出すと、彼女は「このハンカチの匂い、懐かしい・・・。」と言いながら目に当てた。


静かにハンカチを目に当てて涙を拭く彼女を見ながら心の中で考えてみた。


さてどうしたものか・・・?


城ケ崎さんがこれまでずっと真面目に話していることはわかった。深く僕のことを想ってくれていることも伝わってきた。

でも、僕の気持ちがまったく追い付かない。


城ケ崎さんみたいな魅力的な女子が僕のことをこんなに思ってくれていることについては・・・正直、ちょっと嬉しい。


・・・だけど、昨日まで話したことすらなかった相手なのだ。


僕はこれまで誰とも付き合ったこともないし、どうせだったら、段階を踏んで、ちゃんと好きになって、ちゃんと告白して、ちゃんと付き合いたい。


城ケ崎さんの言葉に乗じて、「運命の人なんですね。わかりました。付き合いましょう、結婚しましょう」と軽く答えることなんてとてもできない・・・。


「・・・いずれにしても僕にとっては急な話ですし、ちょっと・・・。」


「わかったわ。じゃあこうしましょう!」


考えを整理ができた僕が、ようやく切り出した言葉を遮って、彼女は自分のカバンからごそごそとスマホを取り出すと、購入済みの電子チケットを見せてくれた。


「来週の土曜日に公開されるこの映画、一緒に行かない?一緒に出かけて、二人で話して、お互いを理解し合えば、私が言っていることが間違ってないってわかると思う。判断するのはそれからでも遅くないでしょ?」


チケットを見ると、僕がずっと前からチェックしていて、公開初日に絶対に見に行きたいと思っていたタイトルだった・・・。


「これは・・・・行きたいかも・・・。」


「フフッ・・・。亮くんはこの監督さんのアニメ好きだもんね。」


思わずうなずいてしまった僕を見て、彼女は、まるですべてを見透かしたかのような優しい表情で微笑んだ。


「じゃあ、来週の土曜日、草津のイオンのシネコンの10時30分の回だから!言っとくけど、この映画、もともとは亮くんから誘われてこの時間に一緒に見に行ったんだからね。だから絶対に予定空いてるよね?」


「う、うん・・・。」


自信満々にそう断言する彼女に押し切られ、僕は人生で初めてのデートの約束をしてしまった。


まさか彼女が言うように、タイムリープして僕と恋人としてやり直しているなんてまだ信じられない。


だけど、万が一、もし本当だったら・・・・。


こんな美人の彼女に好かれるなんて、僕にとって素敵なことかもしれない。そんな風に少し前向きに考え始めていた。


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