第15話 麗華のウザ絡み
季節は6月、3年生になってから2か月が経ち、クラスにもだいぶ慣れてきた。
しかし慣れないこともいくつかある。
「ねえねえ、亮くん!今日、午後から時間ある~?」
その一つが、城ケ崎さんが教室で僕にやけに馴れ馴れしく話しかけてくることだ。
しかも下の名前で。
「い、いや・・・土曜日は予備校だから・・・。」
「え~っ!たまにはサボっちゃおうよ~!ほら、沙也加と大河原くんと一緒にカラオケに行くからさ。一緒に行こっ!」
「いや・・・カラオケ苦手だし・・・。」
「大丈夫だって。亮くんは好きなアニソンとか歌えばいいしっ!!」
いったいどういうつもりだろう・・・。
カラオケで僕に無理に歌わせて、歌ヘタ選手権でもさせようって魂胆だろうか・・・。
しかも城ケ崎さんは顔はニッコリ笑ってるけど、さっきから僕のカバンを掴んだまま放さない。
困った・・・。
「お~た~、遅れるよ~。先行くから~。」
困惑顔の僕の後方から、聞き慣れた無機質な声が聞こえた。振り返らなくてもわかる。
本山さんだ。いつものポーカーフェイスまで目に浮かぶ。
「あっ!待って!ごめん。城ケ崎さん。予備校の授業遅れちゃうから。」
手を合わせて謝りながら、城ケ崎さんを振りほどき、先に廊下に出た本山さんを慌てて追いかける。
「も~っ!!じゃあまた今度ね!」
後ろから城ケ崎さんの不機嫌そうな声が聞こえてくる。
でも追いかけては来なそうだ。助かった~。
「本山さん、待って!一緒に行こう!」
声は届いているはずなのに本山さんはまったくスピードを緩めてくれない。
一人でずんずんと前に進んでいく。
「はぁ、はぁ・・・。待ってって・・・。」
ほとんど小走りになって昇降口でやっと追い付けた。
「彼女に誘われてたけど放っておいていいの?ずいぶんおモテになるようで・・・。」
「違うって。あれはからかわれてるだけだって。ああいう風に陰キャをイジって遊んでるんだよ。」
4月の後半くらいから、やけに城ケ崎さんに絡まれることが増えた。
だけど、ニヤニヤしながら「お薦めのゲーム教えてよ」とか「あの監督の新作アニメ見てるの?」とか言って僕の趣味を揶揄したり、さっきみたいにどぎまぎする反応を楽しみたいのか急に陽キャイベントに誘ってきたり・・・。
はっきり言ってイジりを受けているとしか思えない・・・。
「・・・・・そもそも僕は女子と話すの苦手だし・・・。」
「はっ?じゃあ私は女子じゃないって?」
本山さんは追い付いた後もまったくスピードを緩めてくれない。
しかも今日はなんとなく不機嫌な感じがする。
たまにこういう日があるから、本山さんも女子だよな~って感じがする。
「違うって・・・。ほら、本山さんも、たとえば大河原くんとかに遊びに行こうって誘われたらどう思う?」
「・・・・何かの罰ゲームじゃないの?って思う・・・。」
「さっきのあれも、それと同じだって!!」
「なにそれ!私は罰ゲームでしか誘われないって?」
口調は不機嫌そうだけど、少し頬が緩んでいる。
ちょっと機嫌が直ってきたのかな。
「・・・まあ、私も男子と話すの苦手だしね・・・。」
「じゃあ僕は男子じゃないって?」
さっきのお返しにニヤニヤしながら、わざと意地悪な口調で言ってやった。
「違うよ・・・大多が特別なだけ。」
ポーカーフェイスな表情からポツリと出た意外な一言に、僕は頬が緩むのを止められなかった。そうか、僕だけ特別か・・・。
「ちょっとチョロすぎない?そんなんだから城ケ崎さんにからかわれるんだよ。」
横目で僕の緩み切った顔を見た彼女は、ニヤリと笑って、そのまま駅へ向かうさらに足を速めた。
「えっ、え~っ?待ってよ!」
最近は予備校への行き帰りにこんな風にからかわれてばっかり。
でも、さっきの城ケ崎さんと違って本山さんにからかわれるのはそんなに嫌じゃない・・・。




