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第13話 初見殺しのトラップ

それからの麗華との交際は順調だった。


麗華に前の亮くんへの嫉妬を赤裸々に伝えてから、もう嫉妬に悩まされることもなくなった。


麗華はすっかり肩の力が抜けて、僕の前でも素の姿を見せてくれるようになったし、そんな安心しきってだらけている麗華の姿を見ていると、ああ僕を信頼してくれたんだって、じわじわと幸せな気持ちが湧いてきた。


たまに麗華のおそろしい一面が垣間見えることもあり、パンチが飛び出すこともあったけど、そんな麗華も大好きだ。


大学を卒業すると、僕は京都のゲーム会社に就職して地元に帰って来た。


麗華も滋賀の高校で教師になったので、これを機に一緒に暮らすこととなった。

そして、社会人1年目の4月、ちょうど5年前に麗華と交際を始めたこの日には、僕から麗華へプロポーズし結婚することになった。


今日は、その結婚式の日である。


「高校3年生の時に知り合い、交際を始め、大学時代の遠距離恋愛を乗り越え、晴れてゴールインだって。私の70年以上の苦労が、こんな簡単にまとめられていいもんかな~。」


「仕方ないって、時を戻って何度もループしてたなんて言えないんだから。」


「それにしたって、もっと色々とドラマがあった気がするけどな~。」


ウェディングドレス姿を見るため花嫁の控室を訪問すると、麗華は、今日読み上げられる新郎新婦の紹介原稿に文句を付けている。


「まあまあ、あの苦労は、僕たちの間だけでわかってればいいじゃん。麗華がずっと一人でクリアしようと苦労していたゲームを、最後は二人で協力してやっとクリアできたって感じで感無量じゃない?」


「え~っ?亮くんは最後にちょっと関わっただけじゃん。それまで私、大変だったんだよ~、ここまで来るの。もっと褒めてよ~。」


麗華は口を尖らせ、頬を膨らませている。この拗ねた表情はもうこれまでに何度も見てきた。


「ありがとう。麗華が何度もあきらめずに頑張ってくれたおかげで、今の僕が幸せになれます。だからこれからの人生は僕が頑張って麗華を幸せにするよ。」


拗ねた態度をとった彼女を真っすぐに見つめて本意気のセリフで応えると、照れたみたいで、彼女は目を伏せて頬を赤くした。


「二人で幸せに・・・でしょ。ハッピーエンドはもうちょっと先だからね!」


その時、花嫁控室の扉がノックされて、ウェディングプランナーさんが入って来た。


「それではご準備がありますので、新郎様は、新郎様控室へ戻っていただけますでしょうか。」


「わかりました。その後は新婦といつ再会するんでしたっけ?」


「はい。次にお会いするのはチャペルでの式の際になります。」


「わかりました。」


なるほど。この後は結婚式本番まで会えないのか。


「じゃあ、ここから先、ちょっと進行が別れるみたいだから、また結婚式場でね。」


僕の目に、麗華が口を開けながら大きく目を見開いている姿が飛び込んできた瞬間、失言に気づいた。


今、僕は『別れる』って言った!?


しまった!!ここまで来てあの言葉を言ってしまうなんて!!


たしか麗華は、僕があの言葉を言って、麗華の耳に届いたら文脈を問わず過去に引き戻されると言ってた。

まずい!麗華が過去に引き戻されて消えちゃう!!


思わずギュッと目を瞑り、おそるおそる再び目を開け、顔を上げると・・・


そこには・・・・ウェディングドレス姿の麗華がいた。


「よかった・・・よかった・・・。」


「どうしたのよ、急に膝から崩れ落ちたりして、立ちくらみ?大丈夫?」


気が付いたら床に手を付いている。しかも腰から力が抜けて、しばらく立てそうな気がしない。


「いや、うっかりあの言葉を言っちゃったかと思って・・・・。もうゴールインすることが決まってるから関係なかったのか。いや本当によかった・・・。」


「急に何を言い出すのよ!心配になるじゃない。」


「ああ、もしかして聞こえなかったのかな。じゃあまた後で・・・。」


慌てて立ち上がると、麗華を残して新郎控室へ戻った。

よかった。麗華が消えてしまわなくて本当によかった・・・。


その後、結婚式はつつがなく終了し、晴れて二人の夫婦としての生活が始まった。


ただ、不思議なことが一つある。

結婚式の後、麗華が時を戻ってループしていた時の記憶をすべて失っていたのだ。


念のため二人の馴れ初めを聞いてみると、


「え~っ、恥ずかしいな~。だって同じクラスになって、亮くんを見てビビッてすぐに一目惚れして、その日のうちにデートに誘って、そこで告白されて・・・。私、奥手なはずなのに、なんであんなに積極的になれたのか不思議なんだよね~。」


とはにかみながら教えてくれた。


他にも、前に聞いたことがある「前の亮くん」のエピソードをいくつか聞いてみたけど、わからないみたいできょとんとしているか、あるいは僕とのエピソードにすり替わっていた。


どういうことだろう?


なんで麗華の中では時を戻って何度もループしていた話がなかったことになってるの?


クリアできたから、ループしていた時の記憶がなくなったとか?

いや、でもそれだったら、僕の記憶だけ残っているのはどうしてなんだろう・・・。


もしかして・・・・、僕が結婚式の時にあの言葉を言ってしまったせいで、パラレルワールドができて別の麗華が過去に戻されて、今もループしているとか・・・・。


「亮く~ん、ちょっと手伝って~。お鍋が重くて~。」


「うん、わかった。」


いや、あまり考えないようにしよう。だって現に僕と麗華はここで幸せに暮らしているんだから。

他の麗華じゃなくて、今、僕の目の前にいる麗華を大切にしよう・・・。


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