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第12話 2度目の告白

「先週の土曜日・・・ごめんなさい。不用意にあの言葉を言おうとしてしまって。」


「私もごめん・・・殴っちゃって・・・。」


「うん、あのパンチは効いた。」


「ごめんね。私、子どもの頃からずっと空手やってたから・・・。」


しばし黙った後、本題に入るため、体を麗華の方に向け、その目を覗き込んだ。

しかし、麗華はすぐに目を逸らし、顔を手で隠した。


「・・・ちょ、ちょっとあんまり見ないで。今日はほとんどすっぴんだし、こんなだらしない格好で大学に来ちゃって・・・。」


「いや・・・大丈夫だから。僕の大学にもそういう服装で来ている人いっぱいいるし・・・。」


しかし、僕の苦しいフォローは届かなかったようで、麗華は顔を隠しながら身体を小さくしている。


「亮くんと会う時は、いつも頑張ってるんだけど・・・。大学には亮くんはいないから、いつも通りの格好で・・・。ごめん・・・幻滅させちゃったよね。だから、今日はこっちを見ないで話して・・・。」


「そんなことないけど・・・。」


それでも彼女はこちらを見てくれず、完全に背を向けてしまった。仕方ないので、そのまま話を始めることにする。


「・・・あの・・・土曜日の江の島の後、考えたんだ。もし、麗華がまたループしてやり直したいって言うなら僕はそれに反対しない。だけど・・・何も言わずにいきなり突き放すのは無責任だった。だから、麗華がループした先で、・・・次こそ新しい亮くんと、うまくやれるヒントになればと思って・・・僕がこれまでどう思ってたのか正直に伝えたい。聞いてもらえるかな?」


ちらっと麗華の方を見ると、相変わらず背中を向けたままだけど、小さくうなずいてくれた。


「・・・僕は、ずっとダメな奴だった。おそらく麗華がこれまでに好きになったような前の亮くん達とは全然違う・・・。」


「・・・そんなことない・・・。」


麗華が背中を向けたまま小さくつぶやく。


「ううん、僕はずっと・・・前の亮くん達のことが気になってしょうがなかった。どこへ行っても、何をやっても、前の亮くん達の方がもっとうまくやれてたんじゃないか、前の亮くん達と比較されて、麗華に幻滅されるんじゃないかってびくびくしてた。」


「・・・・・。」


「だから、これまでの亮くんとは少しでも違うことをしようと、東京の大学に進んで・・・それでこれまで一緒に行ったことない場所に連れて行きたいと思って・・・本山さんと新しい場所を探して・・・。」


『本山さん』という単語が出た時、一瞬、麗華の背中がビクッとなった。


「でも、僕は思い違いをしていたと思う。もともと、麗華が僕のことを好きだと言ってくれたのも、僕の力じゃなくて・・・前の亮くん達の魅力のおかげだったのに・・・。それなのに・・・過去を否定しようとして、僕だけを見て欲しい、僕だけを好きになって欲しいなんて思いあがっちゃって、そのせいで空回りして・・・・。」


「・・・・・。」


「こんなつまらない僕に愛想を尽かす気持ちはよくわかる。きっと、次のやり直しでは、もっといい亮くんに出会えると思う・・・。麗華が本当に好きになった亮くんに。だから・・・」


それまで黙って背中を向けていた麗華が、背中でトンッ・・・と僕を押し、そのあとぽつりぽつりと言葉が漏れて来た。


「・・・最初の亮くんは、積極的で男らしくて、しかも私を好きだと言ってくれたとこが好きだった。だけど、オレ様で自分の言う通りにならないとすぐに不機嫌になるとこが嫌だった・・・。」


麗華の口から前の亮くんの話が語られるのを聞くと嫉妬で胸が痛んだ。もう麗華と離れることすら覚悟しているはずなのに・・・。


でも、もうこの感情も最後かもしれない。だったらこの言葉も、嫉妬の感情もすべて受け入れて、黙って聞くことにしよう。


「2番目の亮くんも積極的で、しかもひょうきんでおもしろい人で、いつも笑わせてくれるところが好きだった。だけど、つまらないウソをついたり、隠し事をしたりするところが嫌いだった。」


「・・・・・・。」


「3番目の亮くんは、とても紳士的で物腰が柔らかくて、そんなとこが全部大好きだった。でも、私に見向きもしないで、いつの間にか本山さんと恋人同士になっちゃったとこが嫌い・・・。」


そのまま十人、二十人、三十人と前の亮くんの好きなところと、嫌いなところが語られていった。

僕は、そのひとりひとりに、胸を掻き毟りたくなるくらいの嫉妬を感じたけど、これは僕への罰なのだと思って必死に耐えた。


「・・・・それから、今の亮くん。今の亮くんは、自分に自信がなくて、こんなに私が好きだって伝えているのに信じてくれなくて・・・だけど、優しくて、いつも私のことをいっぱい考えてくれて・・・、これまでで一番好き。これからも・・・もうこれ以上、好きになれる亮くんに出会えるなんてとても思えない・・・・。」


驚いて麗華の方を見ると、僕の方を覗き見ようとしたのか、少しだけ彼女の顔が見えた。その顔は涙でぐしゃぐしゃになっているようだった。


「・・・だったら!それなら、またループしてやり直さなくても!」


彼女の視線をとらえようとしたけど、彼女はまた向こうを向いてしまった。


「これまでずっと・・・最後には亮くんと本山さんが結ばれているのを見て思った。もしかして、亮くんの運命の人は、私じゃなくて本山さんなんじゃないかって。だって、私がどれだけ亮くんに好かれようと頑張っても、最後は本山さんに攫われちゃう・・・。私は、負けヒロインを演じるために時を戻って同じ人生を繰り返してるだけなんじゃないかって思っちゃう。」


「だったら、ループしないで、この人生で僕と麗華が結ばれてもいいじゃん。だって!僕は、今ここにいる僕は、他の誰でもない麗華のことが好きなんだから!!」


力強く断言すると、麗華は、真っ赤になった目をしながら「本当?」と言って、少しだけこちらに体を向けたけど、またすぐに僕に背を向けてしまった。


「違う・・・亮くんが好きな私は、本当の私じゃない。亮くん達の好みに合わせてフェミニンな服装にして、亮くん達が好きなアニメキャラに寄せて積極的でちょっとエッチな女の子を演じて・・・地声だって、本当はガラガラで低いのに無理に裏声で甘い声にして・・・。そんな偽物の私よりも、ナチュラルにかわいい本山さんの方が絶対にいいよ。」


「そんなこと・・・。」


「いいよ・・・。もう、あの言葉を言っても。そしたら私はこの世界から消えるから。それでその後は、本山さんとお幸せにね。」


彼女はそう言うとギュッと肩をすくめた。


わかってもらえない・・・。いったいどうしたら・・・。

もうあれを言うしかないのか。


僕はスマホを取り出して、通話ボタンを押した。この時間なら電話に出られるはずだ。

そう思い電話を掛けた相手は、ワンコールで出てくれた。


「おはよ~、亮。どうしたん急に?」


「ああ、莉子。ごめんね朝から。」


そう言ってから通話をスピーカーにした。


「あのさ。この間の江の島のカフェで莉子が言ってくれたことなんだけど・・・。」


「ああ、うん。」


電話の向こうで莉子が息を飲んで緊張している様子が伝わって来た。

それから僕は息を吸った。強い決意をこめるために。


「・・・僕は麗華と絶対に別れるつもりないから。これからずっと、死ぬまで添い遂げるから。だから、それだけはわかって欲しくて・・・。」


突然の僕の宣言に面食らったのだろう。しばらく莉子は絶句していた。


「それだけ伝えたくて・・・。」


「・・・・・ああ、うん。わかった。うん。わかってるって。お幸せにね。」


「うん。じゃあ、朝からごめんね。」


明らかに戸惑った様子の莉子を置いてけぼりにして、僕は通話を切った。


ふと見ると、いつの間にか麗華が僕の方へ向き直り、眼鏡越しに僕を凝視していた。


「いいの・・・?」


「もちろん。だって、僕には麗華しか考えられないから。」


「私、本当はあんなかわいらしいキャラじゃないよ。むしろ男っぽいっていうか、よく弟にも暴力を振るっちゃうし・・・。それに物分かりも悪くてめんどくさいよ・・・。」


麗華がすがるような目で僕を見て来る。


「もちろん・・・というか、前の亮くん達を参考に作られたキャラよりも、ありのままの麗華の方がずっと好きになれると思う。」


「うれしい・・・ありがとう。」


身を寄せて腕を絡めてきた麗華の表情は、泣いているのか笑っているのかよくわからない。

だけど、きっとこれは僕以外は見たことない表情なんだろうな。


「・・・・そういえばさ、私、今日は1限が休講で、2限は取ってないんだよね。だから・・・3限目まで静かで二人きりになれるところ行かない?」


急に絡めた腕にギュッと力をこめ、上目遣いで見上げながら、いつもの甘い声で囁いてきたので、思わずドギマギしてしまう。


「えっ、いや・・・。その積極的でちょっとエッチな甘味キャラって、作ってたんじゃなかったの?」

「そうだけど~。でもこんなに愛しい亮くんがいると自然とそうなっちゃうんだよね~。だから・・・ねっ・・・。」


周囲の学生の視線も痛くなってきたしそうするか・・・そう思ってベンチから腰を上げようとした時だった。


不意に麗華が唇を僕の耳に近づけた。


「・・・・さっきの電話、亮と莉子って呼び合ってなかった?やけに仲が良さそうだったじゃない・・・しかもあれ、間違いなく江の島で本山さんに告白されたってことだよね。その話聞いてないんだけど。二人きりになったら、その話もゆっくり聞かせてもらうから。」


さっきまでの甘い声とは違う、これまでに聞いたことのないドスの利いた低い声が耳の奥まで響いた。


もしかして、これが麗華の地声と言うやつなのだろうか・・・。


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