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第11話 オレンジクロック

結局、夜まで江の島で麗華を探したけど見つけることも、連絡を取ることもできなかったので、下宿に帰ることにした。

もしかしたら、下宿で待っていてくれるかもしれないと思ってたけど、そんな甘いことはなかった。


「どうしたらよかったのか・・・。どうしたらいいのか・・・?」


部屋着に着替える元気もなく、そのままベッドに倒れ込み、天井を見つめながら今日あったことを振り返った。


大学を中退して地元へ帰るか、僕の口からあの言葉を言って彼女を過去に戻してあげるか・・・。

そんな二択を強いれば、麗華だって僕が大学を中退して滋賀に帰ることを選択するなんて思ってなかったはずだ。


だったら、僕にあの言葉を言わせようとしていたことは間違いない。

だけど、じゃあ、なんであそこで僕を殴ってまでして、あの言葉を遮って、しかも逃げてしまったのか・・・。


麗華は僕に何を望んでいるんだろうか?


「彼女はこの世界に残ったままだし、このまま終わりってことはないだろうけど、次にどうしたらいいんだろうか・・・?」


帰り道でもずっと考え続けて来たけど、まったく答えが出ない。


「む~っ!!」


考えが煮詰まってしまった僕は、衝動的にベッドから起き上がると、ベッド脇のゲーム機を手に取り立ち上げた。

昔から悩み事がある時は、現実逃避にゲームをすることにしている。特に反射神経を求められるアクションゲームは、少なくとも集中している間は悩み事を忘れられる。


選んだタイトルは『オレンジクロック』。

高校3年生の時に始めてから、ずっと続けている難ゲーだ。


オレンジクロックは、全30ステージから構成される横スクロール型のアクションゲーム。

各ステージ1~2分くらいに設定された制限時間内でクリアしないと、次のステージに進めない。

しかもセーブ機能がないため、一度失敗すると、また第1ステージからやり直すことになる。

僕もこれまでに何百回とチャレンジしているけど、どうしても途中のステージで失敗してしまい、一度も全ステージクリアをしたことがない。


スマホにメッセの着信があるたびに麗華じゃないかと思い、横目でチェックしながらも、淡々とプレイを進める。何年もやり込んでいるので、序盤から中盤は何も考えなくても簡単にクリアできる。


ただ、問題は難ステージが続く終盤だ。ここ数か月はステージ25が壁になっている。

ステージ25はコースが長く、どれだけ急いでも制限時間内にクリアできない。少しでも時間を節約しようとアイテムを一切取らず、スタートからずっとダッシュしてノーミスで通しても、制限時間内にクリアできない・・・。


「クソッ・・・!!また3秒足りなかった!!またやり直しかよ!!」


ゲーム機をベッドに投げ出し、大の字になって寝ころぶ。

そのままゲームで熱くなった頭を冷やすため天井を見ていると、ふと思った。

麗華は同じ時を繰り返してるって言ってるけど、これってオレンジクロックと似てるよな・・・。


毎回、ゴールにたどり着く前にどこかのステージで失敗して、また第1ステージからやり直し。

麗華も何十回と繰り返しても、どこかで躓いて、また高3の1学期からやり直している・・・。

じゃあ、もし麗華がオレンジクロックをプレイしていると仮定して、ステージの途中で行き詰った時、どうして欲しいだろう?


僕はがばっと起き上がって、もう一度、ゲーム機を立ち上げた。


実はさっき気になったことがある。ステージ25の中盤でちらっと見えたアイテムボックス。制限時間に間に合わせるためにずっと無視してきたけど、もしかして・・・。


黙って序盤、中盤ステージをクリアして、簡単にステージ25にたどり着いた。

「さて、いよいよ・・・。仮説が正しければ、おそらく・・・。」


いつものように序盤からダッシュで進める。だけどいつもと違うのは途中のドロップボックス。ここのアイテムを取ると・・・ジャンプ台?


これをどこで使えば・・・。


何度か試してみたけど、クリアにつながらない。

どうすれば。


「あっ?ここ?」


いったんマグマに落ちかけるところで、ジャンプ台を使うと隠れていたショートカットコースが現れた。

そこをダッシュすると・・・やっと制限時間内にステージ25をクリアできた。


「これ・・・初見じゃ絶対無理だって・・・。初見殺し・・・。」


愚痴りながらも、何か月も足止めされていたステージをクリアできた達成感に包まれていると、ふと、麗華の顔が頭に浮かび、スマホを手に取った。


相変わらず、麗華からはメッセも着信もなかったけど、僕から新しくメッセを送った。


『僕が何をしたらいいかわかりました。時間を取ってもらえますか』


しかし、このメッセには、すぐに既読は付いたものの、返信はなかった。


◇◇


月曜日の朝、僕は京都にいた。

麗華からは、その後も返信はなく、居ても立ってもいられなくなった僕は、始発の新幹線に飛び乗って、麗華が通う大学の図書館前で彼女を待っていた。

前に聞いた麗華の話によれば、月曜日は1限目の授業の後、図書館で勉強することにしているらしいので、ここで待っていれば会えるかもしれない。

もっとも、まだ1限目も始まってない時間。だからまだしばらく余裕はあるな・・・。


そう思いながら近くのベンチに座ってスマホゲームをしていると、近くを人が通る気配がした。

なんとなく顔を上げると、よれよれのボーダシャツに着古したデニム、黒ぶち眼鏡で長い髪を無造作にヘアゴムでまとめた女子学生だった。


ああ,うちの大学にも、ああいう部屋着の延長みたいなだらしない格好で大学に来る女子学生いるよね・・・とスマホに目を戻そうとした瞬間に気づき、思わず二度見してしまった。


「えっ?麗華?」


「うっ、うぇっ?亮くん?どうして?」


麗華はそのまま踵を返して走り出したので、僕は慌てて追いかけた。今日の麗華はスニーカーを履いていて、しかも意外にもかなり足が速かったけど、何とか50メートルくらい先で追い付くことができた。


「ハァハァ・・・やめて・・・。わざわざあの言葉を言いに来たんでしょ?」


「ハァ・・・ハァ・・・いや、言わないから。麗華が言っていいって言うまで、絶対にあの言葉は言わないから話を聞いて・・・。」


「ハァ・・・ハァ・・・というか、あらかじめ言っておいてくれたら、ちゃんとコンタクト入れて、もっともまともな服装で来たのに・・・。」


「ハァ・・・ハァ・・・、ごめん。でも、その服も素敵だと思うよ。」


息を切らしながらも、何とか近くのベンチで話だけは聞いてもらえることになった。



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